第21話 魔法について
学園に来てから初めての休日の朝、俺はジジに貰ったもこもこパジャマから着替えないまま、昨日ユイ先生に教えてもらった魔法の習得法をおさらいした。
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まず魔法を発動させるためには、体内に蓄えることのできる魔力の最大量を上げる必要がある。
①魔力の最大量を上げるための最も簡単な方法は、瞑想である。瞑想を毎日続けることで、じわじわと魔力の最大量が上昇していく。心の健康にもいい!!!
②もう1つ、魔力の最大量を上げる方法は、とにかく魔法を使いまくることだ。筋肉が負荷をかけることで大きくなっていくように、魔力の最大量も魔法を使うことで大きくなっていく。こちらの方が瞑想よりも高い効果を期待できる。でもこっちのほうがしんどい!
※なお最大量の上昇率や上限には個人差があり、特に生まれながらの属性による差は大きい。魔法使いやエルフ等は、魔力の上昇率や上限が高い傾向にある。しかし戦士やゴブリン等は、どんなに修行をしても魔力が0のまま、ということもありうる。
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昨日の晩、俺は風呂を上がってから寝るまでの間、ベッドの上で瞑想に励んだ。今日からの本格的な修行に向けて、少しでもやれることをやっておきたかった。今俺がどれほどの魔力を内に秘めているかは分からない。だが少なくとも「プチーユ」を唱えることについては問題なさそうだった。
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最初に覚えるべき魔法は、初級回復魔法「プチーユ」。消費する魔力が少なく、使用する場面が多い。昨日ユイ先生が俺のたんこぶを治してくれたときの魔法だ。
≪習得の手順≫
1. 瞑想もしくは他の魔法の発動により、「プチーユ」を唱えられるだけの十分な魔力量を体内に蓄えられるようになる。
↓
2. 杖を振り「プチーユ」を唱える。
・必要な量の魔力を有していれば、杖は反応して一応光を放つ。
・杖に反応が無かったら1に戻る。魔力の量が足りていない。
↓
3. とにかく「プチーユ」を反復し、コツをつかむ。体内の魔力量が基準に届いているというだけで、容易に目的の魔法を発動させることができるわけではない。杖から出る光が形をなし、対象に効果をもたらせるようになるまで、魔法のイメージや杖の振り方などを試行錯誤しながら、ひたすら練習を繰り返すしかない。
※魔法は手や指からでも、剣などの武器からでも発動させることができる。ただし杖を使うことで、より正確に、より安定した魔法を繰り出すことができる。特に初心者は杖での練習から始めたほうがいい。
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「プチーユ」「プチーユ」「プチーユ」「プチーユ」
おさらいの後、俺は自室のベッドの上で魔法の練習をしていた。昨日ユイ先生に、回復魔法の練習用として品種改良されたスイカ「イタミヤスイカ」を1玉と、杖を1本貰ったので、傷んだ箇所が回復するまで何度も杖を振りまくる。杖の周辺に緑の光がふわふわ漂いはするものの、その光が傷んだ箇所を回復させるに至らない。
「あーーー!!!!むずかしい!!!!」
いったん俺は練習を止め、シャワーを浴びに行った。それから服を着替え、歯を磨いた。
朝食を食べようと居間に向かうと、ヒメカとリトスがキッチンで、いつものように喧嘩していた。
「てめぇ!余裕もって買っとけや!てめぇがこの部屋のごはん大臣だろうが!」
「ヒメカが昨日………夜食食べすぎたからかも………」
「うるせぇ!てめぇも一緒に食ってたじゃねぇか!」
「わたしは……ちょっとでやめたかも………」
「嘘つけ!まあまあ食ってたわ!」
グルギュギュギュゥ~~~
ヒメカの腹の鳴る音が、キッチン付きの居間全体に響き渡る。
「2人とも!!今日はどうしたの!?」
「姉貴!!こいつ買い物サボって食糧切らしやがったんですよ!!」
「朝ごはんの分も、もうないの?」
「ないかも………」
「それじゃあリトス!今から一緒に買いに行こっか!」
「うん………アリサ……優しいかも………」
そうして俺はリトスと共に、購買へ食料を買いに出かけた。
この学園の購買は、ほとんどスーパーマーケットの体を成しており、野菜、果物、肉、魚、飲み物、お菓子などなどの、豊富すぎる品揃えを誇っていた。まだ午前8時になんなんとする時間なので、店はかなり空いていて、女子高生が少ないことに、俺はほっと安心した。
「ヒメカはこれ……『ボンタン鳥』が好きかも………」
「じゃあ朝ごはんは、それの胸肉を蒸したやつにしようか」
「トマトも買う……栄養バランスがいいかも………」
この世界の食べ物は、スイカやトマト、お米、チョコなど、前の世界にあったものもあれば、「イタミヤスイカ」や「ボンタン鳥」、「イエローサーモン」、「ゲロウマイタケ」など、この世界でしか見られないものもある。
リトスが野菜をかごに入れる横で、見たことのない食べ物が並ぶ購買の店内を見渡していると、イモ類が売ってあるコーナーに、人目を気にしながら、「キツマイモ」を買い込むメイがいるのを見つけた。
「メイじゃん!おはよう!」
「うわぁ!アリサやん!おはよう!朝から買い物?」
「うん。部屋の食糧を切らしちゃててね。メイは?それ魔力を回復させる『キツマイモ』だよね?魔法の練習でもしてるの?」
「う~。見つかってもうたな~。まあいずれバレることやしな~」
「また秘密にしてること?言いたくなかったら、言わなくていいんだよ?」
「アリサほんま優しいな~。うん!もう隠すのやめよ!こんだけ気使ってくれてて、まだ隠し事してんの悪いわ!」
「そう……アリサは……優しいかも…………」
必要なものを全てかごに入れ終えたリトスが、俺たちの喋っているところへ来た。
「この子アリサのルームメイト?かーわええなー。おはようさん。うちアリサの友達のメイ・ド・ジャスミーナいいます」
「リトス・メーテルバード……です……メイさんも……いい人かも………」
前髪に隠れた目の下方で、リトスの頬の赤くなっているのが見えた。
「リトス、ごめん、先に帰っててくれない?ヒメカがお腹すかして待ってるだろうし」
「うん………早く帰ったほうがいいかも……サヨナラ……メイさん………」
「ばいばい!リトスちゃん!」
お金を払い、店を出た後、俺はリトスと別れ、メイがこれから行こうとしていたところへ着いて行った。その途中、朝からランニングをする健康的な女子高生が向こうからやって来たので、俺は足元がおぼつかなくなり、コケた。膝に擦り傷ができた。
「さらっと発作起こしたな~」
そうさらっとツッコんだメイが連れてきたのは、学園で最も高い場所「泉の塔」の頂上だった。塔には俺たちの他に誰もいなかった。その頂上は広大な学園を一望することができる場所で、働いたり遊んだりしている人が、あちこちで小さく見えた。
俺がその雄大な景色に心を奪われていると、メイは袋に入った大量のキツマイモを地面に置き、上着の内ポケットから、まだ真新しさの残る杖を取り出した。
「アリサ、さっきコケたとき膝怪我してたやろ。ちょっと見せて」
俺はスカートを少し上げ、右膝の擦り剝いたところをメイに見せた。するとメイは、膝の傷に目線を揃えるようしゃがみ、杖を振って「プチーユ」と唱えた。昨日、ユイ先生の手のひらから溢れ出したのと同じ光が、杖の先から線状をなして、俺の膝に到達する。緑の光を浴びた傷は、爽やかな心地よさと共に、綺麗なもとの肌に戻った。
「すごい。ありがとう。これを俺もできるようにならなくちゃいけないんだ」
「うちはパラディンやから、回復魔法はそれなりにできんねんけどな………」
そう言いながらメイは杖を、誰もいない先に向け、「コチール」と唱えた。昨日アイリン先輩が、俺の暴走を止めるため使ってくれた、氷の攻撃魔法だ。メイの杖からは白い冷気が漏れ出し、じわじわと青い色を含ませながら、光線へ形を変えようとしていたのだが、しばらくしてからその魔力のモヤはプツリと消えてしまった。
「攻撃魔法はこの有様や」
「攻撃魔法を使えるようになりたの?」
「攻撃魔法を使えるようになりたい。ほんでそれからうちが目指してるんは………」
塔の頂上にたたずむメイは、雲ひとつない快晴の空をふと見上げた。
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