女子高生恐怖症の異世界女子高学園伝説!!!
藤原俊介
プロローグ 有野サダメの章
第1話 女子高生と残虐
女子高生に人生を壊されてきた。
保育園時代、職場体験に来たKさん(ぜってぇ名前忘れねぇぞ)に「この子の顔、ニュウドウカジカみたいでカワイイー!」と言われた。ニュウドウカジカって何だろうと、帰ってから親のパソコンで画像を検索した結果、自分の容姿に自信を持てなくなった。
小学校時代、友達に貸していたゲームを返してもらう際、「ごめん、お姉ちゃん(当時高校生)が僕のゲームだと勘違いして、ちょっと中身いじっちゃったみたい」との知らせを受けた。
確認してみると、俺が汗水たらして装備やアイテム、モンスター図鑑まで完成させた「ゴクウ」のデータは跡形もなく消失しており、代わりに最初のボスの手前で止まった「ななっぴ♪」のデータが、臆面もなく鎮座していた。当時の俺はかなりのショックを受けてしまい、それ以後他人に物を貸すだけでなく、人を信じることさえ難しくなってしまった。
中学時代は体育祭の後だ。勇気を出して好きな子に告白しフラれたのだが、その瞬間をOG軍団(告白した子の先輩たち)に撮影され、大爆笑された。後日その動画はSNSにアップされていて、タイトルは「美女と野獣 失敗」であった。恋愛が怖くなった。高校時代は普通にいじめられた。
大学時代は塾でバイトをしていたのだが、真面目で優秀な生徒だったMさんに「先生は教えるのは上手だけど雑談は死ぬほどつまらないね。先生の話を聞いてると私の方が恥ずかしくなっちゃう」と、切れ味鋭い言葉をくらわされてしまった。そのとき負った深い傷をぬぐいさることはできず、俺はバイトを辞めた。それから話すこと、特に何気ない会話をすることに、強い不安を感じるようになった。
それでも俺は高校教師になった。教えるのは好きだったし、女子高生に対するトラウマは、きっと克服できると思っていた。これまで女子高生に負わされてきた、数多の傷痕を全快させることで、俺は自分の人生を、前向きに新しくできると信じていた。
しかしその希望もまた、女子高生によって打ち砕かれる。
ある日俺は教頭に呼び出された。なんと俺が1年生の女子生徒Yの胸を触ったという噂が流れているということだ。Yは俺が授業を担当しているクラスの生徒である。授業態度の悪さ(小テスト中に化粧を始めやがる)や服装の乱れ(制服をいじってへそ出し仕様にしやがった。もはや逆にすごいのではないか)を注意したことは何度かあるが、断じて胸を触ったことなどない。胸どころか、一切体のどの部分にも触れたことはないし、それはYに限らずどの生徒でもそうだ。男子生徒すらそうだ。
決して触っていないことを、俺は何度も主張したし、捜査が進むごとに間違いなくこれは、Yが俺を追いやるため仕組んだものであると確信された。
しかしこの噂は既に、保護者や教育委員会にまで及んでいるらしく、学校の体裁等も考慮した上で、俺は退職を余儀なくされた。最後に学校を出るときだ。Yが校舎の窓からこう叫んだ。
「ウチがへそ出してる間に、お前が学校追い出されちまったなあ!!」
そんな経緯で有野サダメ27歳は無職である。高校教師の職を失って以降、ポッキリ折れてしまった心は全く修繕されず、何をする気も起こらない。ただゲームをし、アニメを見るだけのだらけた日々を送っているが、特にアニメは女子高生が出ている作品を見ることができないため、数が絞られてしまい辛い。今日も5話まで見ていたアニメに、女子高生が登場してしまったので、パソコンを思いっきり閉めて、しばらく呻いた。結末が気になるところだが、血圧がおかしくなりそうなので、続きを見るのは諦めた。作中出てきた謎の人物、カーニバル仮面の正体も謎に包まれたままとなった。
現在22時は、近所のスーパーの惣菜が半額になる時間なので、俺は晩飯を買いに家を出た。
帰り道の途中、塾帰りの女子高生が向こうから歩いてきた。俺は女子高生にひどく怯える体質になっていたため、半泣きでビクつき、オドオドしながら彼女とすれ違う。何とか事なきを得た。
続いてボサボサの長髪に無精髭を生やした、半笑いの男とすれ違う。怪しい風貌の男だが、女子高生ではないので平気だ。スウェットパンツのポケットからは、包丁の刃の、きらり光っているのが見える。明らかに犯罪的なヤバいやつだが、女子高生ではないので平気だ。
……いや、ダメだろ
「ホォォワアアアアアァアーーーーー!!!!!」
次の瞬間、気色の悪い雄叫びを上げながら、男は先ほどの女子高生めがけ、包丁を振るい出した。女子高生は恐怖で全身が固まり、口は半分ほど開いているものの声が出せず、空気の喉にかすれる音が、辛うじで聞こえてくるだけだった。暗くてよく見えない銀色の先端が、鎖骨の辺りから彼女の身体を、引き裂かんとしている。
俺は女子高生に人生を壊されてきたのだ。だから女子高生は憎しみの対象だ。全部の女子高生が悪い人間でないことは知っている。でもそう思おうとしても、心が受け入れるのを拒否してしまう。何度か試してみたけれど、やっぱり受け入れられそうにないので、しばらくしてから俺はもうもがくのをやめた。だから今も女子高生が憎い。怖い。
なのに俺は刃の光を理解したその瞬間から足を動かしていた。全然知らない初対面の女子高生に向かって、全力で走った。半額シールが貼られたチキンカツは、アスファルトの地面に投げ捨てられた。
「にょおおぉぉおおおーーーー!!!!」
ズブリ。気持ちの悪い大声を上げつつ、女子高生を庇った俺の心臓に、包丁が突き刺さった。かつて塾の生徒から突き付けられた、言葉のナイフとは訳が違い、本物の刃物が俺のハートを、物理的に貫通する。薄暗くて見えにくいけれども、ちゃんと真っ赤な鮮血が、大量に吹き出している。
死ぬかぁ。俺。
また女子高生絡みだよ。人生が狂うだけならまだしも終わらされるとは。今回は女子高生全然悪くないけど。てか俺の最期の言葉「にょおおぉぉおおおーーーー!!!!」なの?ダサくない?「わが生涯に一片の悔いなし!!」とか「愛してくれて………ありがとう」とか言いたかったのに「にょおおぉぉおおおーーーー!!!!」なの!?「にょおおぉぉおおおーーーー!!!!」!!??最悪すぎる……
でも俺頑張ったくないか?偉くないか?あれだけ酷い目に遭わされてきた女子高生を、俺は命を賭して助けたんだぜ?誰か褒めてくれよ。マジで俺偉いだろ。立派なことしただろ。
「うん、うん……!偉い!ホント偉いです!立派です!」
死んだ筈の俺の目の前で、途轍もなく美しい女神が、大粒の涙を流していた。彼女は綺麗な長い髪と、大きな翼を持っていたのだが、何とその身に纏っていたのはセーラー服だった。
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