第6話 おひるごはん!

 午前の授業が終わり、お昼休みを知らせるベルが鳴る。さっと机の上を片付けて、鞄から弁当を取り出した。


 食事をする場所は屋上、もしくは中庭、なんてことはなく、普通に教室だ。わざわざ移動する理由もない。


「お昼だ、隼」


 ドン、と希が机の上に置いた重いものは、弁当である。


「一緒に食べよ、隼くん」


 ちょこん、と未央が机の上に置いたものは、弁当である。


 俺の弁当はだいたい普通のサイズだ。未央の弁当は俺からすると小さく思えるが、女子からすれば適正サイズなのだろう。


 俺の弁当の二つ分もある希はおかしい。


 希と未央が引っ張ってきた椅子に座ると、俺の机の上に三人で弁当を広げる。


 未央の弁当は、まさに色とりどり。緑の葉野菜、赤のウインナー、黄の卵焼きなどなど。ウインナーなんか、タコさんウインナーである。


「いいな、タコさんウインナー」俺は言った。

「いいでしょ」


 俺は赤いタコさんウインナーが好きなのである。


 希の弁当は、和風だ。量が多く、それに伴って種類も多い。色使いは大人しめだが、品がある。いわゆる、幕の内弁当みたいなものだ。ただ米の量は多い。


「相変わらず、すごい量」と未央が言えば、希が、「当然だ」となぜか得意げに胸を張る。


「よく食うよ、ほんと。こいつ、自分の家で朝ごはん食ってきたらしいのに、俺ん家でも朝ごはん食ってたぜ。朝食は二回もいらねえよ」

「へぇ~」と未央が相槌を打ち、希の顔をちらりと見る。


 その反応に希が顔を赤らめ、「言うな! ばか!」とこちらに文句を飛ばす。


 そこでなんで照れるのかはよくわからない。もう、お前は食いしん坊キャラとして未央に認識されているんだぞ。


 すると、未央が俺の顔を見て、「隼くんの家で、朝ご飯食べてきたんだ」と呟いた。その視線は節電気味の冷房のごとき冷たさだ。おそらく、横にいる希にはわからないだろうが。


 なぜ俺を見るんです? とは言えるはずもなく。


 ラインだ。ラインを探ってきているのだ。よくわからないけど。ラインを越えるのはまずい。


 俺は何ともないふうに装い、「の、のぞみの家はさ、たくあんを自作してるんだよ。それで、たまに差し入れしてくれるんだ。それが今日の朝で、朝ごはんは、母さんが勝手に」と若干怪しいながらも完走した。


「そうなんだ」

「そ、そうだぞっ、おばさんが言ってきたから、仕方なくだっ。普段から朝ごはんを二回食べてるわけじゃないっ!」


 ついでに希の援護射撃が飛ぶ。あたかも揃って言い訳しているかのようだったが、希は、なんか別の理由だから大丈夫だ、きっと。


 未央は視線を切って弁当を開いた。


 これはたぶん、セーフ判定だ。ある意味においては俺の勝利と言えるだろう。希は多分、ずっと前から負けてるけど。


 ふぅ、と息を吐くお昼休みだ。


 ちなみに俺の弁当は、昨日の晩御飯を詰め込み、冷凍食品を追加した、ある意味普通の弁当だった。

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