第143話
「檀上さん!大丈夫ですか!?」
「……ええ、はい。多分、大丈夫だと思います……痛ぅ」
作田さんとの会話の途中ではあったが、意識を取り戻したことによって頭の痛みを強く感じてしまう。痛む個所を触ってみると、頑丈な手袋越しで分かるほどの大きなたん瘤が出来ていた。
「やはり頭を打った影響ですかね。ハンネスさん、檀上さんに〈回復魔法〉をお願いできますか?」
「分かりました…『キュア』!」
〈支援魔法〉が発動したときとは違う色合いの、優しくてあたたかな光が俺を包む。すると頭の痛みがスゥっと溶けるように消えていく。痛かった場所を触ってみると、先ほどまであった瘤がすっかりと消えていた。
「ありがとうございます。痛みが無くなりました」
「いえいえ、これが私の仕事ですので。他に痛む箇所はありませんか?」
体を起こして体中を触り、痛い場所が無いか確かめてみる。が、これと言って痛む場所は無い。そもそも先ほどの『ガイア・ディア』との戦闘も、終始こちらが優勢に進めており、いうなれば先ほどのケガも自分の未熟さが招いた結果だと思っている。
「いえ、大丈夫だと思います。本当にありがとうございました」
「すみません、檀上さん。私がもう少し注意を払っていれば…」
と、作田さんが申し訳なさそうな表情で告げてくる。ただ、彼のせいではないだろうというのが、俺の偽らざる本音だ。
いつものように『新天地』で通信機の設置やらマッピングなどを進めていると、アルフォンスさんがモンスターが接近してくると警告を発した。それを合図に即座に迎撃準備を調えた俺達一行。いつものように撃退できるかと思われたが、そのモンスターの姿を見た時、いつもよりも緊張を感じてしまった。
モンスターの名は『ガイア・ディア』。見た目はシ〇ガミ様みたいな巨大な鹿の様なモンスターであり、あの巨大な角に突かれてケガをした調査隊のメンバーが何人もいるという強敵であった。
ただ、すでに対抗策は練られており、当然ながら俺達支援部隊にもその対抗策は知らされていた。それに従いつつ慎重に攻撃を続け、あと一息で倒せるというタイミングになった段階で俺がちょっとしたポカをやらかしてしまったのだ。
端的に行ってしまえば、俺が『ガイア・ディア』の角による攻撃ばかり警戒しており、背後に回っていたことで慢心してしまい、後足による蹴りを回避し損ねてしまったのだ。
直撃こそ免れることは出来たが『ガイア・ディア』は大きく、かすっただけでもそれなりの衝撃を感じる。そしてバランスを崩した俺は受け身を取ることが出来ずに後頭部から地面にぶつかり、気を失ってしまったのだ。
ここで運が良かったのは、最後に俺が斬りつけた攻撃が『ガイア・ディア』に小さくないダメージを与えていたことであり、俺が倒れてからものの数十秒で『ガイア・ディア』も事切れ戦闘が終了したことだ。
俺が気絶していた時間は1分にも満たず、そして即座に俺の意識確認が行われ今に至るというわけだ。
「いえ、受け身をちゃんと取ることの出来なかった自分が悪いですからね。最近は『スキル』の習熟にばかり気を取られ、こういった基礎を疎かにしてしまっていた結果だと思います。改めて考え直す機会を得ることが出来て良かったとすら思いますよ」
「分かりました……少し早いですがそろそろ時間ですし、前線基地に戻ることにしましょうか。檀上さんは念のため、医者に診てもらったほうが良いと思われますが?」
「そうですね。探索者は体が資本。念には念を入れて、帰ったらすぐに診てもらう事にします」
そうしていつもより少しばかり早く帰ることになった俺達支援部隊の一行。俺がケガをしたせいと言う事もあり申し訳ない気持ちになったが、皆からは「誰にでもある事。気にするな」と温かい言葉を貰った。
そうして前線基地に戻った俺は医務室に直行。一通りに診察を終え問題が無いことを確認してもらったが、念のため、2・3日は安静にしているようにと言われてしまった。
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