第47話
8時前に集合地点に着いた俺の目の前には、すでに万全の準備を整えた『ダンジョン協会』の戦闘員の方々と剣持さんが来ていた。
すでに単なる顔見知りから知人と呼べるぐらいには仲良くなった戦闘員の人と軽く雑談をしながら待つこと数十分。外装を深く被った怪しい見た目の人が2人組と、島津さん、湯川所長、そして強面の護衛の人がやってきた。
時間にはまだ早いが、主要メンバーが全員集まったことで早めに出発するのかとも思ったがその様子はない。時間厳守もここまで行けば面倒だとも思ったが、どうやら俺たち以外にも『エルフ』との交流に向かう同行者もいるのだとこの時点で初めて聞かされた。
更に待つこと数分。20代前半の島津さんに負けず劣らず、見るからにやり手と言える雰囲気の女性が現れた。毛利という名前でお役人さんらしい。
随分と若いと思うが、どうやら『エルフ』という未知の人種との交流などどのようにしていいのかさっぱり分からないため、お偉方は失敗を恐れて誰もやりたがらず、彼女の様な新人にそのお鉢が回ってきてしまったらしい。お役所と言うのは超が付くほどの保守的な組織なのだと実感させられる。
一般人である俺ですらそのことに気が付いているのだ。俺よりも遥かに難しい大学を卒業して、難しい試験を突破し就職した彼女がそのことを理解していないはずがない。にもかかわらず、そのことをおくびにも出さず毅然とした態度で自己紹介をしていた。俺よりも若そうなのに、俺よりもずっと人生経験を積んでいそうだと思った。
俺達の一行は、あまりにも大人数で移動してしまえば、この『ダンジョン』に来ている人の注目を浴びのではないかと懸念し、初めは少人数で、数名ずつのグループの分かれて移動することになった。
目的地は研究所から5キロほど離れた地点。そこまで行けば、『スキル』の鍛錬をしている初級探索者すらいない。そこまで移動してから、再び合流し全員で移動することになった。
俺は剣持さん、そして湯川所長と島津さんの4人で班を組み移動することになった。島津さんの護衛さんは、俺達の少し離れた後方から付いてくるらしい。
湯川所長はその見た目通り研究畑の人間で体力がまるでなかったが、島津さんはキャリアウーマンという見た目以上に動くことが出来ていた。ちなみに今は両名とも動きやすい格好をしている。しかし日頃の不摂生の影響かゼーゼーと荒い息を吐く湯川所長を見かねて剣持さんが彼を背負ったため、俺と島津さんがその前を並んで移動することになった。
「随分と軽快な足さばきと言うかなんというか…正直、デスクワークばかりされていて、もっと動けないと思っていましたよ」
「我々の仕事も意外と体力が無いと続かないからな。それにダンジョン協会で働くうえで、実際にダンジョンに入ってモンスターを倒すという人も結構いる。デスクワークと言えどやはり現場を知らなければいけない場面も多々あるしな」
「なるほど…」
「ちなみに、ダンジョン協会の職員は勤務時間内にダンジョンに潜って格を上げることも許可されているんだ」
「そうなんですか?かなり自由な職場なんですね」
「これにも理由があってな、さっきも言ったように現場を知ることで探索者が何を求めているのかを知るということもあるし、格を上げることで仕事の効率が上がったりだとか、そういったデータをとる目的でもあるんだ」
現場を知るというのは、確かに仕事をするうえで重要な作業であるというのは共感を覚える。営業が特に何も考えることなくとってきた仕事によって泣かされた…そんな話を何度も聞いたことがあるからだ。
島津さんと何気ない雑談をすること1時間。目的地に到着した俺達を待ち受けていたのは先行していた『ダンジョン協会』に所属する戦闘員の方々と、数台の小型車であった。
「どうして車がダンジョンの中にあるんですか?」
「『収納』のスキルで持ち込んだんだ。森との境界までは車で移動することになったからな」
島津さんが答えてくれた。確かにずっと徒歩で移動することになれば、湯川所長なんかは会談場所に到着する前に事切れそうなほどに疲弊している。
「あ、なるほど。…でしたら、なぜ小型車のですか?ここには要人?の方もいらっしゃいますし、装甲の分厚い大型車なんかの方が良かったんじゃないですか?」
「ダンジョンの中は地表とは違う物理法則であるというのは檀上君も知っているだろ?どうやらダンジョンの中は化石燃料などで動く動力機器の能力が著しく低下してしまうんだ。しかし、電気で動く機器はあまり能力が低下しないみたいなんでね。今回の移動には、馬力をあまり必要としない小型の電気自動車を用いることになったんだ」
話しに入ってきたのは湯川所長だ。自分が興味のある分野であるからか、先ほどまで死にそうな顔をしていたくせに嬉々として話に入ってきた。その後も自分の仮説を説明したり俺に意見を求めてきたりと少しばかりウザがらみしてきたが、ほどなくして全員が集合したこともあって島津さんにド突かれて口を閉じていた。
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