第20話

 あれから2週間が経過した。俺の『格』を上げる作業が今日が最終日であり、初日に比べても遥かに体が動くようになり、停滞しつつあった『スキル』のレベル上げも以前よりも順調に進むようになった。


「皆さん、大変お世話になりました」


「檀上さんの方こそ、お疲れさまでした。最後の方は少しばかりスパルタ気味になっていたような気がしますが、よく最後まで頑張りましたね」


「全くだぜ。ま、〈魔法〉の『スキル』を入手できたんだ、あれぐらいはやってもらわないとな」


 そう、俺は『格』を上げることによって〈火魔法〉の『スキル』を入手することが出来たのだ。〈魔法〉の『スキル』は全探索者の中でもわずか0.数パーセントほどしか持っておらず、上級探索者と言えど持っていない方が多いとされる超希少な『スキル』だ。


 この『スキル』を入手したとき激しく喜んだが、それを知った剣持さんが「だったら、よりダンジョンの奥地に行っても大丈夫そうですね」という言葉を皮切りに、『ダンジョン』のより奥地を狩場にすることになったのは喜ばしくは無かったが。


 ただ、激戦を繰り返したことにより俺の『格』はそれまでの上昇率よりも、高くなったのは当然と言えば当然の結果だろう。そして最終日前日には6級探索者でも2・3人がかりで倒さなければならないオーガとタイマンで戦わされることになった。


 いざとなれば剣持さん達と言う強力な助っ人がいるという心の余裕があったものの、怖いものは怖いのだ。〈火魔法〉の〈ファイヤー・アロー〉を『魔力』切れが起きる直前まで発動してオーガの体力を削れるだけ削り、そのあとヒットアンドアウェイで何とか倒す事の出来た頃には戦闘時間は優に1時間を超えていた。


 肉体的な疲労もあるが、精神的な疲労もすごかった。オーガのドロップアイテムを回収し、後方で待機していた剣持さん達の元にも戻ると、俺が先ほど回収したドロップアイテムと同じものがいくつも剣持さん達の足元に落ちていたのだ。


 どうやら俺が戦闘中にもオーガからの襲撃が何度もあり、その度に俺に気が付かれる前に倒していたという事だ。改めて剣持さん達が相応の実力者なのだと理解させられた。


「俺はしばらくの間は自分のダンジョンに籠ってスキルの習熟に勤めようと思います。ちなみに剣持さん達はどうされるのですか?」


「檀上さんの護衛も終わったのでしばらくはのんびりと…と言いたいところですが、残念ながら指名依頼が入っているみたいなんですよ」


『指名依頼』とは主に企業が有力な探索者のパーティーに割増料金を出す代わりに、そのパーティーに迅速に依頼に応えてもらう制度のことだ。何故このような制度が出来たのかと言うと、簡単に言えば『ダンジョン』から産出される資源は常に不足気味であるからだ。


 無論、『ダンジョン』発見当初に比べれば探索者の数も質も高くなり『ダンジョン』産の資源も供給量もかなり増えている。しかしそれは比較的『ダンジョン』の浅い層から産出される資源がほとんどを占めているため、『ダンジョン』の奥から産出される資源は未だ市場には多く出回っていないのが現状である。


 依然として『ダンジョン』の奥から産出される資源を取りに行ける探索者の数は少ない。その為剣持さん達のような実力のある探索者に指名依頼を出して取りに行ってもらうというわけだ。


 割増料金を払うことに抵抗が無いわけでもないだろうが、『ダンジョン』奥地から産出される資源には未だ使い道が判明していないものも多くあり、上手くいけばその資源が巨万の富を生む可能性もある。そのような依頼を出す企業も少なくは無いのはそういった理由があるのだ。


「本音を言えば断りてーが、昔からお世話になってる企業からの依頼だからな。ま、持ちつ持たれつってやつだ」


「そんなに古い付き合いの方なんですか?」


「俺達が中級探索者だったころからの付き合いだ。当時から武器の試作品などを提供してもらっていたからな。恩もれば借りもある」


 実際のところ、優秀な中級探索者に早いうちから唾を付けておいて、後年大成した後も強い繋がりを持ち続けるというあり方も結構あるらしい。今のところ、俺にはそんな勧誘らしき気配は一切ない。無名であるから仕方ないのだろうが。


「では、そう言うわけで檀上さん。私たちは行きますね。何かあれば連絡してください」


「ええ、本当にありがとうございました。俺のダンジョンが公開されたら是非いらしてください。…皆さんが満足できるだけのモンスターはいないでしょうが」


「ま、それはそれで楽しそうではあるがな」


「全くだ。俺達にとってあの地は故郷でもある。帰省もかねて近いうちに訪れさせてもらおう」


 剣持さん達と過ごしたこの2週間。すべてが楽しかったというわけではないが、間違いなく充実したものになったのは彼らの人柄のおかげだろう。過ぎ去る彼らの背中にそっと頭を下げといた。

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