目を覚ましたら全てを失っていたので新たに手に入れた最強武器『スリッパ』で無双します!

イードラ

第一章

色々喪失編

プロローグ

 「はっ!?」


 僕は思い切り上体を起こした。僕はどこかの建物のベッドのようなものの上にいた。

 どこだ……ここ……こんなところに来た覚えがない。

 誰かがここに連れてきた? それならば僕はどこかで倒れたことになる。でも、何かにやられた記憶もない。


 


 そのワードが僕の心臓を強く突き上げた。


 「僕は…誰だっけ……?」


 呼吸が自然と速くなる。それに合わせて心臓も激しく打ち始めた。

 そんな……!? もしこれが白昼夢だったとしても、自分の名前くらいは憶えているはずだ。なのに、これまでの経緯が全くわからない。自分が今まで何をしてきて、何を見てきて、何年生きてきたのかさえ。


 「と…とりあえず外に出てみよう。何かわかるかもしれない」


 声に出さないとショックで頭がなんとかしてしまいそうだ。僕はそそくさとベッドから這い出た。

 自分を見下ろしてみると、ちゃんと服は着ている。でも、薄い麻でできているシャツと、短パン一着のみだ。他には何もない。声と身体の大きさからして、小さな子供ではないようだ。

 木でできた扉らしきものを開け、外に出てみる。

 やっぱり見覚えがない。ただ自分が忘れただけ、というのもあるかもしれないけれど、まるで異国にでも来たような感じが僕の身体中を駆け巡った。

 ……それにしても、どうして自分のことについての記憶は全くないのに、「異国に来た」という感覚は知っているんだろう?

 ……いや、今はそんなことはいい。とりあえず状況把握に努めよう。

 テーブル、イス、その他天井まで届く棚のようなものがある。おそらくリビングだな。これは覚えてるぞ。

 この部屋の真ん中まで歩いてきたところで……


 『目が覚めたか』

 「誰だっ!?」


 いきなり女の声がして、思わず身構える。いきなり声が聞こえてきたことに驚く一方、頭の片隅ではどうして自然とこんな動作ができるのだろう、と不思議に思ったりもした。


 『落ち着いて聞いてほしい。お前は一度死にかけた。だが、私が能力を使ってお前を生き返らせたのだ。だが、その代わりに私は『私』という存在を失い、お前は力と記憶を失った』


 一度……死にかけた? すぐに信じられる話ではないし、僕を騙そうとしているのかもしれないけど、記憶がない以上、一旦信じるしかないようだ。


 「それで、ここはどこ……?」

 『ここは……お前の家だ』


 あ、家なのね。ごめんね? 「異国」とか言って。


 『お前の家なんだが……少し問題があってな』

 「問題?」


 その声は何やら言いにくそうに次の言葉を口にした。


 『お前の家は……遠いところに飛ばされた』

 「ええっ!?」


 飛ばされた!? 一体どーゆーことです!?


 『元々お前の家は『魔法都市 マリィス』にあったのだが、ここは……』

 「ここは……?」


 少し間が空いた後、僕は耳を疑う答えを聞いた。


 『まだ誰も足を踏み入れたことのない、未開の草原だ』

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