その涙がいつか、光に変わるまで
藤川みはな
第1話 恋人
「ねぇ、タクミくん、もしも私が余命わずかだって言ったらどうする?」
わたしは匠くんに笑顔で聞いた。
まるで、冗談を言っているかのように。
「は? いきなり何言ってんだよ」
匠くんがぷっと噴き出す。
「も〜、真面目に答えてよ〜」
私は頬を膨らませる。
「香澄が余命わずかって知ったらか。」
匠くんは、考え込む。
「香澄のためにできる限りのことをするかな。それで、もし死んじゃってもきっと俺は香澄のことを一生忘れられないだろうな」
匠くん.........。
彼は遠くを見つめた。
胸がジーンとなり、視界が霞む。
私は匠くんに気付かれぬように涙を拭った。
匠くんが私に向き直った。
「縁起でもないこと言うなよ。
香澄が死ぬわけねーだろ」
可笑しそうに笑う匠くん。
その笑顔がとても愛しい。
「大好きだよ。匠くん」
泣きそうになるのをこらえて、匠くんを見つめる。
「お前、今日なんか変じゃねーか? いつもは大好きなんて言わないくせに」
照れたような匠くん。
「今日は、言いたい気分だったの」
わたしはおちゃらけて見せる。
悲しみを悟られないように。
「なんだよ、それ」
匠くんが笑う。
私も笑う。
ごめんね、匠くん。
私は貴方のそばにいることが出来ない。
私はもうすぐ死んでしまう。
どうか、私が死んでも悲しまないで。
幸せな家庭を築いて、私を安心させてね。
匠くん。
愛してる。
その日を境に私は匠くんの前から姿を消した。
病で弱っていく姿を見せたくなかったから。
そして、一週間後に私の短い人生は幕を閉じた。
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