大文字伝子が行く139

パウダースノウからの挑戦（６）

　＝＝＝＝＝＝　この物語はあくまでもフィクションです　＝＝＝＝＝＝＝＝＝

　==============　主な登場人物　================

　大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

　大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

　久保田（渡辺）あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。

　物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友。高遠達は、今でも「副部長」と呼んでいる。

　物部（逢坂）栞・・・物部の妻。物部と伝子と同学年で翻訳部だった。蘇我と学生結婚をしたが、蘇我はガンで他界。今年になって、物部と再婚。

　福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進むが、妻の祥子の妊娠を機に、社会人演劇は、暫く休止。建築設計会社に就職している。

　福本（鈴木）祥子・・・福本の妻。以前いた劇団で福本と知り合い、結婚。

　依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。宅配便ドライバーをしていたが、今はやすらぎほのかホテル東京支配人。

　依田（小田）慶子・・・依田の妻。やすらぎほのかホテル東京副支配人。ホテル社長は叔父。

　大文字綾子・・・伝子の母。介護士。伝子に時々「クソババア」言われる。学を「婿殿」と呼ぶ。

　藤井康子・・・伝子達の隣人。料理教室を開いている。

　池上葉子・・・池上病院院長。学は中学の卓球部の後輩の彰を指導していた。

　真中瞳・・・池上病院、そして、提携している本庄病院の看護師長。

　須藤桃子医官・・・EITO東京本部の常駐医官。陸自からのEITO出向。

　高坂一郎看護官・・・EITO東京本部の常駐看護官。陸自からのEITO出向。

　飯星満里奈・・・元陸自看護官だったが、EITO所属になる。エマージェンシーガールズとして動くことが多い。プロレス技が得意。

　大蔵太蔵（おおくらたいぞう）・・・EITO秘密基地を管理していたが、エンジニアとして、EITO東京本部に異動。

　河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。

　新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署勤務。

　金森和子一曹・・・空自からのEITO出向。

　斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

　草薙あきら・・・警視庁からのEITO出向。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

　渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。

　柴田管理官・・・久保田管理官と交代で、交渉人をしている。

　久保田誠警部補・・・あつこの夫。久保田管理官の甥。EITOのサポートをしている。

　青山たかし・・・元警視庁警部補。EITO所属。男性だけのエマージェンシーガールズのサポートチームのエレガントボーイズのメンバー。

　馬場力（ちから）3等空佐・・・暫くEITO大阪支部のサポートメンバーだったが、現在は東京本部のサポートチーム・エレガントボーイズのメンバー。金森と同棲している。

　愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署生活安全２課勤務。

　橋爪警部補・・・丸髷警察署生活安全２課勤務。

　中津警部補・・・元警視庁捜査２課だが、EITOの応援メンバーとして駆り出されることが多いので、久保田管理官の直属になった。

　中道新九郎・・・SAT隊長の警部。SATは副総監の指揮下にある。

　==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

　==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO精鋭部隊である。==

　強盗事件の翌日。午後２時。蘇我が眠る墓。

　物部夫妻と福本夫妻が蘇我の墓参りをしている。蘇我とは、物部達と部活をしていた、翻訳部の部長で、当時学生結婚していた栞を残して、ガンで亡くなった。

　「悪いね、祥子ちゃん、関係無いのに付き合わせちゃって。」「いいえ。妊娠してから行動範囲が狭くなって、運動不足だったから。」

　物部の気遣いに、祥子は感謝した。

　「依田君達も来られないし、１人で多い方が蘇我も嬉しいと思うわ。」

　４人が帰りに庫裡に寄ると、お茶を振る舞われた。

　自然と、蘇我の話になった。

　「本当に礼儀正しい学生さんでね、スーツを着たら、どこかの課長さん、みたいな貫禄でしたよ。」

　「俺と対照的にね。」「僻まないの。」

　物部夫妻に苦笑しながら、福本は「今日は日曜日で、天気もいいのに、あまり墓参りの人見かけませんね。」と、住職に尋ねた。

　「例の殺人予告の影響ですね。以前の『シンキチ』事件以来ですね。皆ビクビクしている。早く解決して貰いたいものですね。大文字さんも大変だが。」

　駐車場に向かう道、祥子は物部に尋ねた。「和尚さんは、先輩の仕事、知ってるんですか？」

　「勿論だよ。高遠のEITOでの活躍もな。そう言えば、機械音痴の高遠が、今やエーアイなんて言われて頼りにされている。変われば変わるもんだ。なあ、福本。」

　「ええ。先輩が高遠を鍛え上げたんですよ。凄いだろう？祥子。」

　「うん。あなたと出逢ったからこそ、先輩に出逢ったのよね。ありがとう。」

　「よく分からないが、褒め言葉なんだね、ありがとう。」

　駐車場に着くと、クルマの中でサチコとジュンコが待っていた。サチコとジュンコは、元警察犬である。故あって、福本家で飼っているが、EITOの作戦に必要ならば、「出動」することもある。

　午後２時。やすらぎほのかホテル東京。

　依田と慶子が、あつことあかりを迎えていた。

　「警視、電話だけで良かったのに。」と依田が言った。

　「近くまで来たから。人違いでよかったわ。今回は。」とあつこが言うと、「まあ、こういうこともあるよね。だから皆ビクビクしている。あ、そうだ。良かったら食べていかない？その、報せて来たお客の宴会、キャンセルになったから。」

「キャンセル？大損ね。」「以前、面白半分でキャンセルするのが流行ったでしょ。ウチはそれ以来、予約客には半分の料金を前払いして貰ってるの。食泊は何とかなっても、宴会はね。大体は常連さんだから、いいよ、で済むけど。勿論、キャンセル料も貰うわよ。」と、慶子が説明した。

　「大変ね。で、料理は廃棄？」「基本的にはね。従業員の『賄い』を一時的に、なるべく従業員で食べるの。遠慮しないでいいのよ。タダよ。」

　慶子の言葉に、あかりは目を丸くした。「そこの腹ぺこの後輩は、今にも涎を絨毯の落しそうだから、頂くわ。」

　宴会用のテーブルで、４人は並んで食べた。

　「ねえ、警視。昨日の強盗事件の時のSATの隊長と仲悪いの？僕が電話した時、鼻息荒かったけど。」「あら。依田君、。ひとの鼻息分かるの？その通り。虫唾が走るって奴。あいつ、中道はね、警察学校の同期なの。私が警視になったのを、未だに『えこひいき』だと思って恨んでるのよ。」

　「警視は実力で警視になったんだ、コネがあるからじゃない、って前に久保田管理官が言ってたよ。斉藤理事官も。」

　「ありがとう、依田君。依田君だから話すけどさ、あいつ、パソコン苦手なの。ITアレルギー。」「ああ、そういう人は出世出来なくなったって聞くね。」

「あいつが警部になった頃は、まだ昇進試験にあまりITは無かったのよ。でも、その後、『決まり』が変わったの。警部以上は必須。この意味分かる？」

「中道警部は中道警視になる道が遠ざかった、とか。」「うまいこと言うわね。先日、愛宕君が警部になったでしょ。」

　「うん。あ、そうか。愛宕さんは、ITの試験というか、問題というか、それにも合格した？」「そ。愛宕君は、中道より優秀よ。あ、ウチの旦那のこと聞きたがってる？」

　「聞きたがってる。」「まこっちゃんはね。出世が嫌いなの。というか、管理職が嫌いなのよ。そういう警部補は多いのよ。橋爪警部補も、中津警部補も、青山さんも、大阪の横山刑事も。あ、お代わり食べていいわよ。」と、あつこはあかりに言い、あかりは給仕係の職員にお代わりを求めていた。

「昨日も、警視庁の食堂で、皆と話していたんだけど、警察組は恵まれてる方なのよ。自衛隊組は『お代わり禁止』。」

　「あ。以前ニュースで聞いた。それだけ緊縮財政なんだね。金森さん達が別れる原因にもなった。」

　「理事官も事情知ってるからね。いずれは金森も馬場も出向じゃなく、EITO専属にする積もりよ。」「じゃ、EITOは制限ないの？」「ない。健康管理が杜撰になったら、クビだけど。おねえさまの下で、そんな不届き者はいないけどね。」

　正午。伝子のマンション。

　「婿殿！何やってんの？早まっちゃダメよ！！」と、綾子が叫んだ。

　「へ？３点倒立しているだけですよ。頭の血の巡りが良くなるように。」と高遠は応えた。

　「いい心がけね。」と言いながら、池上病院院長が入って来た。

　「大文字さんに頼まれて、訪問健康診断よ。真中。」

　真中看護師長は、早速血圧を取り始めた。

　「高遠君。ウチの表札、知ってる？」「暫く行ってないので・・・新しくしたんですか？」

　「ええ。半年位前に、『池田』にしているの。池田は亡くなった主人の旧姓なの。　筒井さん、怪我してたけど、急所は皆外れてて不思議だな、って思ったけど、運んだ誰かは、病院の並びの私の家に、何故連れてきたのか？って思って不思議なのよ。普通は、救急車を呼ぶか、警察にタレこむか、病院の前に連れて来る。」

　「やはり、一緒に尾行していた人が怪しいですね。」と、高遠は言った。

　午後1時。池上院長と真中看護師長は帰って行った。

　「大丈夫？婿殿。」「ええ。栄養剤打って貰いましたから。確かに寝不足だけど、伝子は気遣って・・・お義母さん、いい娘を産んでくれました。」「どういたしまして。クソババアを止めてくれると、もっといい娘なんだけどね。」

　午後2時。EITO東京本部。医務室。

　須藤桃子医官、高坂一郎看護官、そして、飯星がいた。

　ベッドに横たわる伝子。

　「先生。どこも悪くないって言って下さい。」「却下。一番イヤなタイプの患者ね。でも、そういう人が立派な指揮官だったりする。飯星から聞いたんだけど、あなた妹が多いそうね。『ぎきょうだい』、詰まり、妹分が。あなたを止められる人っているのかしら？自重させられる人が。」

　「主人が・・・。」「嘘おっっしゃい。婿養子として、顎でこき使っているって聞いたわよ。かかあ天下よね、所謂。お母さんにも『クソババア』って言ってるとか。跳ねっ返りの娘じゃないの。」

　高坂と飯星は、クスクスと笑った。「お前達、何笑っている？」「いえ、別に・・・。」

　２人は異口同音に須藤に言った。

　「池上院長と親しいようね。時々往診に来てくれるそうだから。先代の院長が大学の先輩でね。今の院長とも交流があるの。院長も、あなたの性格を知っているから、咎められないのね。いいわ。これからは、私が悪役を演じてあげる。妊娠舐めんなよ、出産舐めんなよ！！以上。」

　須藤は、医務室を出て行った。高坂は、慌てて続いた。

　医務室を出てきた飯星に、理事官が声をかけた。

　「どうだね、飯星。」「今、栄養剤の点滴中です。少ないので、３０分位でしょうか？先生にたっぷり嫌味を言われました。」

　「私も叱られたよ。前線には、なるべく出ないようにしている、とは言っておいたがな。」

　「恐い先生ですよね。」と、後ろから草薙が声をかけた。「お前も何か言われたか？」

　「健康診断の前の日に大人しくしていればいいってもんじゃない。健康管理を舐めんなよ！こんな感じです。」

　「長い間、自衛官を診て来られたからな。実は池上先生の推薦なんだ。」

　「先代の院長が、大学の先輩だとか言っておられました。」と飯星が言った。

「口が悪い医者ほど腕がいい、って言うだろ。頼もしいよ。実は、私も叱られたんだけどね。」「何て？」

　理事官は草薙の問いに、「お前、幾つだ？ホントの歳と肉体年齢を言ってみろ！」と応えた。飯星と草薙は吹き出した。

「何かあったんですか？理事官。アンバサダーが貧血起しやすくなったとは聞いていますが・・・。」と、通りがかった大蔵が言った。

　「ん？恐い女医だから、心強いって話さ。」「理事官、本郷が設計した『新兵器』の検討をしたいんですが、お時間よろしい・・・。」

　大蔵が言いかけた時、アラームが鳴り、アナウンスが響いた。

　「国会議事堂で火災発生！国会議事堂で火災発生！EITOに緊急要請。」

　司令室に戻った理事官は、マイクを持って怒鳴った。

「出動可能な者は、オスプレイに集合。現場の状況が判明次第、追って連絡する。」

　伝子が現れた。点滴を無理矢理外して来たようだった。

　渡がドリンク剤を持って、渡した。伝子は１秒で飲んで、渡に返した。

　河野事務官が、必死に警視庁とやりとりをしている。

　伝子は、電話は無理だろうと考え、総理にメールを打っておいた。

　午後３時。伝子のマンション。

　何となくテレビのニュースを観ていた、高遠、綾子、藤井はストップモーションになった。

　「馬鹿な・・・。」高遠は、それしか言えなかった。

　―完―