一方通行な愛

椎名わたり

第1話目指せ!恋愛マスター

私五月雨愛衣(さみだれ うい)は"みんなのアイドル"こと矢島颯介(やじま はやて)に片想いをしている。

そんな時に毎月読んでいるファッション雑誌の表紙に"目指せ!恋愛マスター☆これであなたはモテモテ!?"と書かれているのをみつける。

私はその恋愛マスター特集のページを開き今すぐ実践出来そうなものを探した。

───期待の熱視線───

私は雑誌の中で"これであなたは彼の気になる存在に!?魔法の駆け引き"という特集に目を付けた。

私はその記事の内容が事実か確認すべく翌日早速実践することにした。

"彼のことをみつめよう。そして目が合いそうになると逸らしてみよう。"といったものだった。

私は早速颯介君をみつめた。

颯介君は人気が高くなかなか気付いて貰えなかった。

でも諦めずにみつめ続けているとやっと颯介君が私の熱視線に気付き振り返る。

私は慌てて目を逸らす。

彼はしばらく考えた後また何事も無かったかのように歩き出した。

これはイけるかも!と思いながら私は胸を躍らせながらその日は帰路についた。


───気になるあの子颯介side───

僕矢島颯介には最近気になっている子が出来た。

彼女の名前は五月雨愛衣。

クラスではみんなに優しくお洒落に気を使っていて毎日髪型が違っていた。

俗に言うお洒落で可愛い女の子という印象だ。

そんな彼女から最近ずっと見られている。

どうしたんだろう?

多分僕はこの時から"どうしてずっとみつめて来るんだろう?"の気になるを"女の子としての好きで気になっている"と思い込んでいた。


───彼からの告白───

初めて私の熱視線に颯介君が気付いてくれた日から2週間私は今日も颯介君に熱視線を送っていた。

でも、この日は颯介君の反応がいつもと違った。

なんと颯介君が私に近づいて来たのだ。

「五月雨さん」

「な、何?」

「ちょっといいかな?」

「い、いいけど…」

私怒られるのかな?颯介君のこと見すぎたのかな?と不安になりながら廊下に出てしばらく歩く。

すると彼が立ち止まり口を開いた。

「僕、五月雨さん…僕のこと最近ずっとみてるよね?」

「…うん」

「どうして?」

「どうしてって…す、好きだから…」

「!…そっか。ありがとう。僕も五月雨さんのことが好きなのかもしれない…」

「えっ?!本当に?」

「うん、だから僕と付き合ってよ」

「もちろん!」


───嫉妬の対象───

私と颯介君が付き合い出した話は瞬く間に全校生徒へと広がった。

「あ、あれじゃない?みんなのアイドル颯介君に手を出したやつ」

「案外不細工だよね」

「だね、李舞の方が可愛いよ」

「そんなことないよー」

私と颯介君の交際が騒がれてる中颯介君が好きな女の子達が私の悪口を言う。

"みんなのアイドルなんだから手を出すとか有り得ない"って言われても私は好きな人にアタックしただけだし。

そんなに羨ましいなら告白しちゃえば良かったのに。

「愛衣ちゃん、一緒に帰ろうか」

颯介君が私に微笑みかける。

「うん!」

私も微笑みかける。

ほら、羨ましい?

でも、颯介君は私の彼氏なんだから絶対に渡さないんだから。

私はそうやって今日も遠巻きにぶつくさ言っている女の子達に心の中で呟く。


───彼女の束縛颯介side───

朝僕は今日も愛衣からのモーニングコールで起こされる。

「おはよ…愛衣」

「おはよ!颯介君っ」

「今日テンション低いね?寝起き?」

「ん…」

「今日の調理実習の材料忘れないようにね」

「ん…」

「じゃあ、そろそろ私も支度しないと…」

「…だね。じゃあ、またあとで」

「うん!また学校でね颯介君」

そして僕が家を出ると必ず愛衣が家の前で僕を待って居る。

正直に言うと愛衣の束縛が激しくストーカーっぽい所にはゾッとする。

第一僕は愛衣に家の場所を教えた覚えはないのにいつしか愛衣は僕の自宅を突き止めていた。

そして僕は愛衣と付き合って分かった。

愛衣は寂しがり屋で束縛が激しく心配性で自信がないことに。


───破局───

「おはよ!颯介君」

颯介君と付き合い始めてから私はいつも颯介君の家の前で合流出来るように颯介君が登校する時間に合わせて登校するのが日課になった。

「おはよう、愛衣」

私達が付き合い始めて一ヶ月私は相も変わらず颯介君が大好きだ。

だが、颯介君は違うのかもしれない。

付き合い始めた頃は笑顔が多かったのに最近では私の前で笑わなくなった。

「ねぇ颯介君」

「愛衣、今日の放課後教室残ってて」

「わかった、けど…何で?話なら今聞くよ?」

「じゃあ、今言うね…僕愛衣と別れたいんだ」

「…は?何で?私のこと嫌いなの?!私は颯介君のこと大好きなのに?!私のどこが駄目なの?!直すからもう一回付き合お?ね??」

颯介君の二の腕を掴み捲し立てると颯介君は言った。

「重いんだよ」

「何が?」

「気持ちが。今だって僕に合わせて登校してる」

「好きだからずっと一緒に居たいって思うのは駄目なの?」

「思うだけなら自由だよ。でも愛衣はさ、実行してるじゃんもう…ストーカーだよ」

颯介君の声が震える。

「ごめん!ごめんね!?そこ直すからもう一回考え直して?」

私は必死に懇願する。

だが、願い虚しく颯介君は言った。

「それは無理だよ。先行くね」

颯介君が足早に立ち去るのを私はただ呆然と見送った。

そして颯介君は私以外の女の子と付き合い始めた。


───幸せだったあの頃颯介side───

僕が愛衣に別れを告げたあとは僕に平和が戻って来ると信じていた。

だが、違った。

朝スマホを開くと大量の通知。

愛衣には悪いが正直ストレスだ。

毎朝学校でも休みでも関係なくモーニングコールとおはようのLINEが来る。

「はぁ…」

思わず溜息を漏らしながらカーテンを開けると愛衣が家の前に居るのが見える。

「またかよ…」

もうとてつもなく面倒だ。

そんな元カノにうんざりしていたある日僕は消しゴムを忘れた。

理科の授業中向かいに座っていた子が消しゴムを貸してくれた。

「ありがとう、助かったー」

「役に立てたなら良かったよ、また困ったら言ってね」

「うん」

その日から僕は田辺菜奈ちゃんと仲良くなった。

お互いの趣味の話、校庭の花壇を菜奈ちゃんが育てていた為花壇を褒めただけだった。

まさかそれがとんでもない噂を創り出すとも知らずに。


───許せない───

「ねー颯介君」

「なに?菜奈ちゃん」

颯介君と私が別れてから颯介君は同じクラスの田辺菜奈と付き合い始めた。

正直言うと有り得ない組み合わせで交際宣言がされた日はクラスどころか学校中をどよめかせていた。

昼休み颯介君と菜奈が出て行くと

「菜奈ちゃんって虎視眈々としてるよね」

クラスのリーダーの花ちゃんが言う。

「わかる〜」

私が花ちゃんに応える。

「絶対愛衣ちゃんが付き合ってるのにアピールしてたんだよ」

「だよねー本当に最低」

「実際愛衣ちゃんの方が可愛いし菜奈はないわ」

「えーそんなことないよー」

「そんなことあるってー」

「そうだよ自信持ちなー?」

前に私のことを影でグチグチ言ってた子達が私に群がる。

結局はみんな流されてるだけだ。

だからこの状況を利用して私はまた颯介君と付き合う前のポジションを手に入れた。

「あ、そうだ今日さ一緒に遊ばない?」

「いいよーどこ集合?」

「菜奈ん家」

「「いいねー!」」

そして私達は放課後菜奈の家に行き菜奈を強引に誘い出し菜奈を用水路に突き落とした。

「あのさぁ、私の颯介君返してよこの泥棒猫!」

「愛衣ちゃんが付き合ってたのに横取りしたんでしょー?謝りなよー」

花ちゃんも私に加勢する。

そして菜奈が這い上がろうとする手を踏み阻止する。

「そうだ写真撮ろー」

「いいねー!撮ろー!」

そして菜奈を撮るとLINEに菜奈が用水路に座り込み涙を流す姿の写真が送られる。

「菜奈汚ーい」

「あははっ愛衣ちゃんが落としたんじゃん」

「まぁねー。でも、菜奈は私の颯介君を奪って行った泥棒だし、これぐらい可愛いもんでしょ?土下座したって良いんだからね」

「…っごめん、なさ…い」

「聞こえないなー」

「ごめんなさい…」

「泣いて謝ったって許す訳ないじゃん」

「愛衣ちゃん冷たーい」

「でも、菜奈ちゃんが横取りしたのが悪いんだからね、私今でも颯介君が好きなのに菜奈ちゃんが横取りしたせいで別れたんだから」

「ほんとだよ、何で地味な子ポジのやつがみんなのアイドルと付き合ってんの?」

「付き合ってない…私颯介君とは付き合ってないの」

「嘘だ、交際宣言してたじゃん!」

「そうだよ!みんな聞いてたんだから」

「あれは…勝手に広まったもので」

「泥棒猫のこと信じれる?」

「無理だわ」

「だよね」

「じゃあ、付き合ってないなら学校来ないでよ。私の颯介君に近付かないで」


───菜奈からのSOS颯介side───

夜菜奈ちゃんから電話が来た。

「どうしたの?」

「…愛衣ちゃんと花ちゃんに颯介君に近付かないでって言われた…っ私もう…颯介君ともクラスのみんなとも…関わりたくない…困ったら言ってとか言っときながら助けになれなくてごめんね…」

菜奈ちゃんは最後駆け足気味に捲し立て通話を切った。

菜奈ちゃん…大丈夫かな…泣いてたな絶対。

だがその日以来菜奈ちゃんが教室に来ることはなかった。


───誰のせい?───

私が菜奈に「颯介君に近付かないで」と言った日から菜奈は学校に来なくなった。

「愛衣ちゃんおはー」

「花ちゃんおはー」

「ねぇ、愛衣」

「颯介君どうしたの?」

「菜奈のことイジメてる?」

「イジメてないって」

「嘘だ」

「根拠は?証拠もないのにそんなこと言わないで」

「…ごめん」

「まぁ、疑うのも無理ないよね。私颯介君の…邪魔者だもんね」

「そんなことっ」

「いいって颯介君優しいから気遣ってくれてる、んだよね」

「…」

互いに無言のままどのぐらい経ったのか先生が教壇に立ちみんなが各々席に着く。

ホームルームも終わり先生が言った。

「じゃあ、先生は生徒指導室に菜奈ちゃんにプリント届けて来るから」

そして私は菜奈が別室登校をしていることを知った。

それからクラスは一瞬だけ菜奈のことを話題にする。

「イジメられて別室登校とか逃げじゃん」とか「甘え」だとか「ずるい」だとかでも颯介君が一言「ずるいことない」と言うとみんな手のひらを返して「そうだよね」と相槌を打った。


───復縁したいの───

私は颯介君と別れてからも毎日毎日アピールを続けた。

どうしたらまた颯介君と付き合えるのかどうしたらまたあの笑顔を見せてくれるのか…

「愛衣ちゃん、おはー」

「おはよう…花ちゃん」

「どうしたの?元気無いね?」

「ねぇ、どうしたら颯介君とまた付き合えるのかな?」

「花頭脳派じゃないし知らないよ、もう本人に直接確認に行けばいいじゃん」

「…確かに」

「ほら、行った行った!」

花ちゃんに背中を押されながら私は颯介君の席へと歩み寄った。

「何?」

颯介君の眉間にしわが寄る。

「私、颯介君とまた付き合いたい諦めきれないどうしたら付き合ってくれる?」

「愛衣とは付き合えない」

「何で?」

「別れる時も言ったけど、気持ちが重いしストレスなんだ」

「直すから!」

「絶対直らない」

「どうしてそう決め付けるの?やらなきゃわからないじゃん!」

「…わかった。じゃあ菜奈ちゃんに謝って僕に1ヶ月連絡しなかったら付き合ってあげる。あ、もちろん僕は家の前も通行禁止だから」

「…わかった」

それから私は颯介君断の為朝と昼休みは菜奈ちゃんに謝罪に行き、放課後は花ちゃんと毎日遊んだ。

遊んでいる間は颯介君に連絡がしたい見に行きたい衝動を抑えられるからだ。

夜はスマホの電源を切り親に預け早く寝た。

そんな生活を続け遂に約束の一ヶ月が経った。

「約束守れたね」

「うん菜奈ちゃんとも和解したよ」

「知ってる」

正直ふたりが密かに連絡を取り合っていることに嫉妬するけどグッと堪える。

「じゃあ颯介君私と付き合って」

「うん、いいよ。約束だからね」


───真実───

昼休み私は花ちゃんと一緒に生徒指導室へ来ていた。

「…失礼します」

「あら、愛衣ちゃん、花ちゃんいらっしゃい」

生徒指導室のおばあちゃん先生がにこにこと笑を浮かべながら挨拶をして来た。

「菜奈ちゃん居ますか?」

「居るわよ、入って入って」

生徒指導室へ足を踏み入れると窓辺に座り読書をしていた菜奈ちゃんが居た。

「菜奈ちゃん」

私は今日も颯介君と良好な関係のために菜奈に愛想笑いを向ける。

「愛衣ちゃん、花ちゃん」

「やっほー」

そしてしばらく女子トークを交わしたあと菜奈ちゃんが言った。

「颯介君とはさ私本当に付き合ってはなかったんだよ」

「どういうこと?」

「理科の授業中颯介君が消しゴムを忘れてね?たまたま貸したの。それで名前言ってくれたから覚えてるの?ってなって、私が環境委員で花壇の世話してることも知ってたから凄い記憶力だねって話てただけなの。それを誰かが勘違いして広めただけなの」

「…菜奈ちゃん、本当にごめんね…私勘違いして菜奈ちゃんに酷いことした」

「私も…本当にごめんね」

END

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