ラミー戦慄する

※※※


「王族? 王族って王都に皆居るんじゃないの?」


「そうでもないわ。王都にずっと居るのは血が濃い、兄弟姉妹や父母、従兄弟姉妹くらいね」


 ラミーの回答にミークは「ん?」と首を捻る。


「兄弟姉妹とか従兄弟姉妹は分かるとして、それ以外にも王族っているの?」


「ええ。この世界で一番魔素を保有している人族は王族なのは知っているわよね? だから王やその息子は、魔素を多く保有する人族を出来るだけ多く作る為に、妾が沢山居るのよ」


「ええ~……」


 呆れた声を出すミーク。それに構わず話を続けるラミー。


「で、現在は確か17人居る筈よ。多分その1人がここデムバックにやってきて、悪さしているんじゃないかしら」


「そうなんだ……」


「……まあ、私も似た様なものだけれど」


「え?」


「何でもないわ。ところでその新町長、名前はなんて言うのかしら?」


 ラミーは話を切り替えフェルマに質問すると、フェルマは顎に手を当て「確か……。ヴァルドー? と名乗っていたと思います」と答える。


 その名前を聞いたラミーは顔色を変える。


「ヴァルドー……、ですって? 間違いないのかしら?」


「ええ。多分」


 ラミーが再度確認すると「最悪だわ……」と額に手を当てる。


「ラミーどうしたのかにゃ?」


「……私の知っている、ファンフォウン・ヴァルドーだとしたら、私にとって最悪なのよ……」


「何その、ファンフォウン? って? てか何でラミーにとって最悪なの?」


「王族には姓が与えられるのよ。ファンフォウンはヴァルドーの姓よ。で、ヴァルドーは私が王都に居る時、私にしつこく迫って来ていたのよ……。はあ~、あの当時の事を思い出すと頭が痛いわ」


 ラミーは明らかに顔を顰め頭を抱える。


「ラミーも美人だからにゃー。ていうか、そのファンフォウン? 女癖悪いんだにゃー」


「悪いなんてものじゃ無かったわよ。王都じゃその関係でちょっとした有名人で、それで問題起こして監視対象になっていた筈なのだけれど……。どうやらデムバックまで逃げてきたみたいね。ここは王都から相当離れているから、ここまで来たら安全だと思ったのかも知れないわね」


「で、その変態王族にラミーも狙われていた、と」


「……まあそうね」


「で、そいつ強いの?」


 ミークの質問にラミーは「そりゃあね」と返事する。


「そもそも王族は総じてプラチナランクより強いのよ。私1人じゃ到底太刀打ち出来ないわ」


「「「え?」」」


 ラミーの言葉にミークだけでなくニャリルとエイリーまでも驚きの声を上げる。


「王族って……、プラチナランクよりも強いのにゃ?」


「それ初耳なんだけど」


「へえ~……」


 ミークだけ少し口角が上がったのを見逃さなかったラミーが突っ込む。


「何でミークはちょっと嬉しそうなのよ」


「だってこの世界来て未だ強い敵ってまだ会ってないから。……成る程魔族に唯一対抗出来るのが王族って理由が判ったよ」


「ちょっと待ってミーク? あなた未だ本気で戦った事無いのかしら?」


「うんまあ」


「「「……」」」


 あっけらかんと返事するミークに3人は唖然とする。ラミー達はファリスでのミークの活躍をつぶさに見ている。ギルド前の広場で強敵とされるアラクネを一方的に倒した事だけでなく、更に数万の魔物の命を一気に消した、あの星落としも知っている。それでもミークは未だ本気ではないと言う。その事に3人は唖然としてしまった。


 呆気にとられている3人の反応を見て、傍らで見ていたフェルマは首を捻る。


「さっきもプラチナランクになるだろう、とまで仰っていましたが、こちらのシルバーランクのミークさん? は、本当にそんなにお強いんですか?」


「強いなんてもんじゃないにゃ」


「正直化け物? ってくらい」


「あなたもさっき下で見ていたでしょう? ミークのこの細い腕が飛んで行って、あの巨漢を持ち上げ振り回していたのを。でもあれはミークの能力のほんの一部なのよ。腕はどうやらゴーレムの様な物みたいで、ああやって操る事が出来るそうよ。私も詳しくは分からないけれど」


「それにさっき、この世界、って言い方ミークがしてたにゃあ。ミークは別の世界から来たらしいにゃ」


「まあそれに、召喚獣みたいな虫? も操れるしね」


「はあ……」


 3人が各々ミークについて語っているのを聞いたフェルマだったが、この人達は一体何を言っているんだろう? と、先程同様明らかに怪訝な顔をしている。それを見て3人は揃って苦笑する。


「その反応、良く分かるわ。でもミークと一緒に過ごしていたら、私達の言っている事が判ると思うわよ」


 そうやって皆が話している最中、1人我関せずとミークが窓の外を見ていたのを、ラミーが気付き不思議に思い「どうかしたのかしら?」とミークに問いかける。


「ドローンが追跡してた警備隊長、どうやら町長の家に行ったみたい。ドローンは慎重を期して、警備隊長が中に入る前に一旦離れさせたから、どんな会話したのかは分からないけど」


 その言葉を聞いたフェルマが、何故警備隊長が町長宅に行った事をミークが知ったのか、という疑問が沸くが、同時に「不味い」と呟く。


「きっと警備隊長は、皆さんの事を報告に行ったのだと思います。皆さんその……、揃って美人ですから」


「女の人に美人て言われると照れるにゃ~」


「ニャリルそんな呑気な事言ってる場合じゃないでしょ。そのめっちゃ強い町長が来るかもよ?」


「いやその前に……。扉の傍にいるそこの人ー! 何か知ってるんじゃ無いのー?」


 ミークが突然、扉に向かって大きめの声でそう声を掛けると、一同「「「「え?」」」」と驚いて一斉に扉の方を見る。すると、「気づかれていたのか」と、1人の男が扉を開け入ってきた。


 その姿を見たニャリルとエイリーはバッと立ち上がり身構える。


「にゃ! 誰にゃ!」


「くっ! 男! またフェルマさんを襲いに来たの?」


 だがラミーが「ちょっと待ちなさい」と2人を制する。


「さっきの男達とどうも様子が違うわね。どなたかしら?」


 その問いに対し、フェルマが代わりに「皆さん、彼は敵じゃありません……。グス……、ギルド長……。今まで何処へ行ってたんですか?」


 泣きながらギルド長、とフェルマは口にする。そのギルド長と呼ばれた男は、申し訳無さそうな顔で「済まない」と、頭を下げる。


「やはりあなたがギルド長なのかしら?」


 ラミーの質問に「ああそうだ。俺がデムバックのギルド長、ギークだ」と返事した。


「少し前から扉の前で話聞いてたよね? てか、警備隊長とすれ違いでこっちに来てたよね?」


 ミークがギルド長のギークに問いかけると、驚いた顔で「知っていたのか?」と返事する。


「……俺がここまで来た事、そして聞き耳を立てていた事がどうして判ったのか、それに興味もあるが……。とにかく大凡話の内容は理解した」


 あ、そう、とミークが返事すると、フェルマが突然立ち上がり、ギルド長のギークに思い切りパン、と平手打ちを食らわした。


「ずっと待っていたのに、一体何処に隠れていたんですか! この卑怯者!」


「……」


「町長宅にずっと居る2人だって、ギルド長がきっと何とかしてくれるって、信じて待っているんですよ! なのにもう半年! 半年もこんな状態で……。ウウ……。したくもない事……。好きでもない男達に……」


 そう言うとフェルマはその場に蹲りすすり泣く。ギークは立ったまま項垂れもう一度「済まない」と小さく呟く。


「俺が何とかする、と言っておきながら、お前達に負担を強いたまま何も出来なかった。だが、あの町長は化け物過ぎる。何とかあの町長に取り入る事は出来たんだが、それ以上は俺1人じゃどうしようも出来なかった……。済まない……」


「……」


 ギークの言い訳を聞きながらフェルマは黙ったまま嗚咽する。その様子を同じく黙ったまま傍らで見ている4人。そこでギークがミークに顔を向ける。


「……ミークとか言ったな? 本当にヴァルドーを倒せるのか?」


 外から中の会話を聞いていたギークが、半信半疑な様子で質問するギ。ミークは「多分?」と首を傾げながら答えた。

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