受付嬢フェルマ
※更新が遅くなり申し訳ありません。
書き溜めましたので、数日かけて投稿します。
※※※
皆で2階へと向かおうとしたところで、突如ミークが「あ!」と声を上げた。
「さっき捕まえてた隊長逃げちゃった」
それを聞いた皆が揃って「「「あー」」」と思い出した様に声を揃える。
「そういや外に放置してたにゃー」
「忘れそうになってたよ」
「まあエイリーは特にギルド内の男達に怒っていたから尚更よね。でもどうしようかしら」
ラミーの懸念にミークが「大丈夫」と答える。
「ドローンもついて行ってるから。何か分かれば皆に伝えるよ」
「……そう、分かったわ。抜かり無いわね」
「まあたまたまだけどね」
ミークの回答に呆れ顔で返事するラミー。とりあえずミークの不思議な羽虫については、ラミーもダンジョンの時から何度も見知っているので、任せても大丈夫だろう、と思った模様。
そして4人がそうやって受付嬢と共に階上に上がっていくのを黙って見ている男達。だがその中の1人がハッと気付いて、「お、おい! 行っちまうぞ! 良いのかよ!」と慌てた様子で大声を上げた。
「……じゃあお前引き止めてみろ。俺でも簡単にあしらわれちまったのに出来るか?」
そう言い返したのは当初受付嬢に馬乗りになっていて、そしてミークに首根っこを捕まれ振り回され、更にミーク達を2階に上がらせまいと遮った、筋骨隆々の男である。
「お前も知ってるだろうが、俺はこの町唯一のゴールドランクだ。それがこのザマだぞ?」
そう。彼はゴールドランクの冒険者だったのである。
「で、でもこのままじゃあ……!」
別の1人が焦った表情でそう声を上げると、ゴールドランクの男は諦めた様に床にドカっと座った。
「なる様にしかならねぇだろ。それにどうせあれだけ目立つ女達だ。町長が黙ってねぇよ」
ゴールドランクの男がそう言うと「そ、そうだ!」「町長ならあんな奴等どうとでもなる!」「ハハハ! あいつ等偉そうにしてられるのも今のうちだな!」
等々、急に元気を取り戻し各々声を上げる面々。そこで1人が「じゃあとりあえず町長に報告に行くか?」と言うと、「いや、その必要はなさそうだ」とゴールドランクが答える。
「さっき警備隊長が町長宅方面に走って行ったのが見えたからな。……何故か縛られてたが」
その言葉を聞いて別の1人が「もしかして……」と何か気付いた様にギルドの外に出ていこうとする。
「おい、どうした?」
「警備隊長が縛られてたって事は、警備隊もあの女達にやられたんじゃねーかって思ったんだよ」
「ハハハ! 女に警備隊の連中がやられた……、いやそうか。あの女達ならあり得るのか」
「そうだ。あいつ等は普通じゃねぇからな」
男達は一瞬まさか、と思うも直ぐ気持ちを切り替え、様子を見に行った男達の後に続く様に、彼等全員、ギルドの外へ出て行った。
※※※
4人と受付嬢は2階に上がって、まず裸同然の格好になっている受付嬢を、先に自身の部屋へ向かわせ着替えて貰った。そして普段はギルド長室として使われている、立派な部屋に集まった。
「もう落ち着いたかしら?」
ラミーがそう声を掛けると、受付嬢は静かに微笑んだ。
「ええ……。ありがとうございます。改めて、私はここのギルドで受付をしているフェルマと言います。この度は助けて頂いて感謝します」
そう言いながら静かに頭を下げる、フェルマと名乗った受付嬢。
「気にしなくて良いわ。ああいう連中、私もいけ好かないから。私はラミー。そしてさっき左腕を飛び回らせていた左目が紅いこの美女がミーク。猫獣人はニャリル、そしてさっき、キレて突っ込んで行って魔素切れになって反省しているエルフがエイリーよ」
「ちょっとラミー、そんな紹介しなくても!」
「あら。事実じゃなくて?」
エイリーは一瞬反発するもラミーの言う通りなので、突っ込まれ尖った耳をへにゃんとさせ「仰る通りですー……」とシュンとする。その様子を見てミークは「まあまあ」と声を掛ける。
「エイリーの気持ち良く分かるししょうがないよ。これを機会に今後は気を付けるだろうし。ね? エイリー?」
「……うん」
尖った耳をぺたんと下げたまま返事するエイリー。その様子を見てフェルマはくすくすと笑う。
「皆さん仲良いんですね。そう言えば冒険者って仰っていましたよね? メダル拝見しても?」
そう言われた4人はフェルマに各々のメダルを見せる。特にラミーのゴールドメダルにフェルマは驚き、「もしかして……、あのラミー、なんですか?」と感嘆の声を上げた。
「そう言えばラミーさんってファリスが故郷だった。……ああ。だから何かしらの理由でファリスに帰郷されていていた、と」
「その通りよ。でもファリスに戻る事になったその依頼も、連れのバルバのせいで意外な方向に行ってしまったけれども」
「意外、とは?」
「まあその事はもう終わった事なので後回しにするとして、今この町で起こっている事、それをまず説明して貰えるかしら。他の受付嬢を救って欲しい、と言っていたのも気になるし」
ラミーの問いにフェルマは一気に表情を暗くする。
「……そうですね。分かりました」
そしてフェルマは顔を上げ、ミーク達にこの町で起こった異変について説明を始めた。
※※※
「もうこれ以上、あいつ等に負担を強いるのは限界だ……」
町長宅から出てきたギルド長は、恨めしそうに歯を噛み締めながら背中越しに町長宅を睨みつける。
「外部に応援呼ぼうにも精霊魔法は使えん。俺が外に行こうにも警備隊の連中が門前に居るし、そもそも俺が居なくなると、あいつ等受付嬢の命が……、クソ!」
悔しそうに拳を握りしめ呟くギルド長。
「あいつが半年前にここに来たせいで……! あいつさえ居なければ平穏な町だったのに! ……だがあいつには逆らえない。戦闘力では敵わない……。冒険者や警備隊の連中も、あいつの意向に汲みしやがるから、協力すらしようとしない。こんなのが男の楽園だと? 巫山戯るな!」
つい声が大きくなり、怒りの余り近くにあった小石を蹴り上げる。
「魔石屋のミラリスの旦那みたいな男がもっと多ければ、こんな事態にはなってなかったかも知れないだろうに……」
ギルド長は今の町長がこの町にやって来た当時の事を思い出しながら、慚愧に堪えない表情を浮かべる。そしてトボトボと歩き始めた。
「見た目の良い若い女以外、年寄りも子どもも皆あいつに殺されちまった……。ミラリスの旦那も、あいつに逆らった男達も。生き残った連中はあいつの言いなりになって若い女を探すのに必死だが、今のところ見つかっていない。だから受付嬢がその代わりを担っているが……」
そう呟いたところで、ギルド長は自虐気味に「フッ」と笑みを零す。
「でも俺だって似た様なもんか。あいつ等に負担を強いているのに俺自身は何も出来ない。あいつ等を救えてないんだからな。あいつ等はきっと、俺が何とかするのをずっと待っている。一縷の希望を持って……」
ギルド長の目から悔し涙が溢れてくる。
「だが俺1人でどうすれば良いんだ……。あんな化け物相手に玉砕覚悟で立ち向かったところで犬死にするだけだ! クソ! くそぅ……。ウウ……」
今度は無気力にだらりと腕を下げ、大きな溜息を吐くギルド長。
「せめて一番近いファリスにでも連絡出来れば……。だがその手段も無い……」
悔しさと諦めが入り混じった、泣いた後を拭わないくしゃくしゃな顔のギルド長は、再度深く大きな溜息を吐く。
そこで、町の中心部の方から、町長宅に誰かが走って来るのが遠目に見えた。
「不味い。こんな顔見られたら」
ギルド長は慌てて袖で涙を拭い急いで物陰に隠れる。その姿がくっきり見えて来たかと思ったら、その正体は縛られながら息を切らして走って来る警備隊長だった。
「はあ……! はあ……! 町長ならきっと! あの女達を!」
縛られたまま走り去っていく警備隊長を、物陰に隠れながらその背中が見えなくなるまで不思議そうに見送るギルド長。
「……なんだあれは? 一体どういう事だ? ……そう言えば女達? とか呟いてた様な」
あちらの方で何か会ったのか? ギルド長は警備隊長がやって来た先、町の中心部へ急ぎ戻る事にした。
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