第三夜
それは。
いつもと何も変わらない、普段通りの一日だった。
一日だったはずだったんだ。
その日、残業で仕事が遅くなって、約束していた天体観測の時間に間に合わなさそうだった僕は、君に少し遅れそうだと連絡を入れた。
「それじゃあ、わたしも少し用事を済ませてから行くね。へっへ~ん、今日は大事な報告があります」と、彼女はなぜかいつもより弾んだ声で、とても嬉しそうだった。
まさかそれが。
君と話した最後の会話になるなんて、夢にも思わなかったんだ。
自宅への帰路の途中、病院からの突然の連絡に、僕は正気を失っていた。
錯乱してどうやって病院に辿りついたかも覚えていない状態で、僕は君がいると教えられた病室に駆けこんだ。
なんでだろう。
僕には。
なにもわからなかった。
君はなぜか、病室のベッドに一人眠っていて、僕が呼びかけても何も答えず、何も反応しなかった。
なんでだろう。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。
わからないよ。
わからないよ。
なにも。
なにも。
いつも見上げていた夜空のように、急に目の前が真っ暗になって、光は見えなかった。
病室には、他に医師と看護師、そしてなぜか見たこともない男がいた。
医師は言った。
「搬送された時には既に……手の施しようのない状態でした……」
見知らぬ男は突然叫びながら号泣して、僕に土下座を続けた。
看護師は言った。
「この方が救急車を呼ばれて……。この方が配達中に運転されていたお車と……突然の事故だったようです……」
……。
……。
……。
……なんで?
知らないよ。
そんなこと、知らないよ。
返してよ。
返してよ。
返してよ。
返してよ。
返してよ。
返してよ。
返せよ返せよ返せよ返せよ返せよ返せよ返せよ返せよ。
返せよぉッ!!
「ふざけるなよぉッ!!知らないよそんなこと!!返せよ!!今すぐ返せよぉッ!!」
僕は、どうしていいかもわからず、泣きわめきながら、土下座を続けているその男を叩いた。
すぐに医師や看護師に引きはがされたけど、その男に停止した頭で思いつく限りの罵倒を浴びせ続けた。
現実が、理解できなかった。
いや、理解できなかったのではなく、理解したくなかったのかもしれない。
だって、ついさっきまで、あんなに元気だったんだよ?
いつも。
いつも僕だけに向けてくれていた。
夜空に輝く明るい星みたいに、キラキラの笑顔、声、目、温もり。
君という存在。
君の全て。
どうして?
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
どうして。
僕は、獣のような咆哮をあげ、もう二度と起きてはこない君の元に崩れ落ちた。
君とのかけがえのない日々、思い出が蘇っては、僕の涙や叫びとなって、狭い病室にこだました。
許さない。
これから先、なにが起きたとしても。
僕は絶対に、君を世界から消し去った、この男を許さない。
病室の窓からはきっと、君が見たがっていた季節の美しい星空が、広がっていたことだろう。
この男に必ず、自らの行いの『責任』をとらせる。
今日という日の星空に、それを誓った。
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