そこに転がっていただけのもの

規格と装置

必要な前書き

 この話の舞台、そもそもどういった人の家を訪れたのか、どういう経緯でそうなったのか、という部分をここに記しておく。孤独死したのは、私の、母方の親戚にあたるおじさんだ。叔父なのか伯父なのか、もしくは別の表記で表すことが正確な間柄なのか、明確には思い出せない。多分今爺婆に聞いたとして、正確に教えてもらえるかは少し怪しいところがある。二人ともあの時よりもかなり年老いた。記憶は曖昧になっている。私のそれよりも、おそらく、もっと朧気にしか覚えていないだろう。昨日の昼何食べたのかすら思い出せないのだから。

 おじさんは、バブル期くらいまではサラリーマンで、脱サラしてからは喫茶店の店主だった。おじさんがなくなる数年前に奥さんが亡くなり、一人身になってからもしばらくは営業をしていたらしいが、腰を悪くしたかで営業をやめている。その後は、ぼんやりと一人暮らしていたらしい。気が向いた時に釣りに出て、ちょいちょい病院へ行き、顔なじみと話をする、そんな生活。お子さんは、おそらく居なかったと思う。

 亡くなる数日前、少し体調を崩し、病院へ行っていたらしいが、痛み止めか何かだけを貰って帰って、その後寝たばこの途中に心臓発作か何かで亡くなったそうだ。死後2,3日経ってから、近所の人間が家を訪ね、亡くなっているのを発見した。火が付いたまま取り落とした煙草は、畳の上で真新しい焦げ跡になっていて、枕元には吸い殻で山盛りになった灰皿がいくつか並べられていた。火事にならなかっただけ、運が良かったんだろう。

 死の後処理が諸々終わったあたりで、家をどうするんだという話が爺婆に来た。連絡が取れる親戚の中で一番近場に居たからだそうだ。

 順当に、業者を入れ、家財等を処分してもらおうと話を進めた。そこで業者側から、業者が入る前に一度、依頼者側で家の片づけをしてはどうかと提案があったそうだ。

 家の規模的にトラック2台ほどで様子見をするけれど、人員もトラックも、余ったとしてもその分の金額をいただく。もしそれで足りなかった場合また後日となり、料金も増える。あらかじめそちら側で処分できるものを分別した上で連絡をくだされば、適切なサイズの車と必要分の人員を手配できる。また、時折、お客様側から、実は回収されたものの中に必要なもの、あるいはまだ利用可能なものがあったので探して持ってきてほしい、という連絡を頂くことがあるが、我々は回収業者でしかないし、ごみとして扱い積み込むので、連絡を戴いたとしても、見つけることは出来ない。我々が入ってからではもう手遅れだ。

 爺婆は、その提案を飲むことにしたみたいだ。一応、まだ何か使えるものが残っているかもしれないし、自分たちでできる限りのことをした上で業者に入ってもらおうと。

 その結果、当時ぷらぷらしていた私にお呼びがかかり、親戚の孤独死した人の家を漁るという体験をするに至ったわけだ。別にそれ程変な話ではない。親戚が多い家系なら、もしかすると出くわすかもしれないくらいの、それだけの話だ。

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