枯死する世界樹

雅郎=oLFlex=鳴隠

命の果ては冷えた熱

 世界に生まれて、幾星霜。愛すべきあの娘に乞われ、気に食わぬ若造の創った星の巡りに付き合って、失われた生命の種を蒔く、萌芽の担い手として生きてきた。


 そんなあの娘は、もういない。儂の事を愛してくれた、あの得難い女神は、薄汚い連中に侵され、暴かれ、命を果たして力尽きた。

 恨めしいとも、憎らしいとも、思えない。最早、ただ只管ひたすらに、どうでもいい。あの娘の居ない世界に興味はない。責務を果たす義理は、どこにも残ってはいない。


「……萌龍仙おじいちゃんも居なくなっちゃうの?」

「うむ。後のことは頼めるか、封龍仙ネグレシア


 それが土台無理な話だというのは、最初から分かっている。我々、ラグナの司る概念は、他に代用出来るものではない。何よりも、萌芽は最初はじまり。萌芽がなければ、後はない。


「全然、できる自信はないけど……。頼ってくれるなら、頑張る」


 それでも、健気なこの子は、頑張ってくれるようだ。本当に、優しい子だ。


「お前達も、嫌になったらいつでも来るが良い。その為の理想郷むげんかい計画だ」

の、でしょう?」

「そうだな。だが、完成した世界など、何処にもあるものか。創った者が不完全ならば、尚更な」


 愚かな大神人アルガリアンも、その腰巾着の有象無象も、我々も、星に生まれた生物も。そして、愛しい大女神アルグランスも、誰も彼もが不完全だった。そうでなければ、あの娘が志半ばで死ぬことはなかった。


 ――でも、みんなが不完全だからこそ、愛しいでしょう? ユグ爺だって、わたしがダメダメだから可愛がってくれてるんだって、よーくわかってるよ。ふふん。


 得意気に笑う、あの娘の言葉が思い出される。しかし、全てが不完全だった故に、陽だまりは失われ、くらい虚無のみが心を満たしている。それを肯定する気には、とてもならなかった。


 あるいは、今でもあの娘は、儂が責務を変わらず果たすことを、望んでいるのかもしれない。

 それでも。


「儂もまた不完全なもの。無責任と罵られようと、そんなものは知らん」


 たとえ命渦めいかに消えることになろうとも、あの娘の居ない世界に生きる意味はない。儂は、あの娘を追う。


「……寂しいけど、お別れだね。今までありがとう、萌龍仙おじいちゃん

「うむ。……程々に頑張れよ、封龍仙ネグレシア。どれだけ身を砕こうとも、滅びは既に覆らないのだから」


 瞑目し、意志を解く。我が損なわれていく感覚に、儂は安寧を覚え、やがて消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

枯死する世界樹 雅郎=oLFlex=鳴隠 @Garow_oLFlex

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る