再び

 家に帰ると、サラは自分の手首を握ってみた。


『あいつは骨が太い』


 太ければ何の意味があるのか。

 全然分かっていないが、初めて誰かに認められた気がした。


 剣道は確かに汗臭いし、他の競技に比べて地味だ。

 痛いだけで、他からすれば、何でやってるのか分からなくなる。


(なんか……。あそこにいると、ずっと自分と向き合ってる気がする)


 部屋の扉に寄りかかって、そのまま座り込む。


(私、自分から逃げたんだ)


 本当の意味で、それが分かってきた。

 同時に、國井の言う『本物』になってみたい自分がいた。


 今まで、誰からも相手にされなかったのに、國井は全力で向き合ってくれる。


「……もう一回、やってみよっかな」


 きっと死ぬほど後悔するけど。

 自分から逃げた先には、どうせ暗い道しかない。

 だったら、少しでも明るい道に行きたい。


 サラは袖を強く握り締め、虚空を見つめた。


 *


 翌日の夕方。

 國井が道場で素振りをしていると、廊下に続く扉が開いた。


「あ?」


 緊張した面持ちで、サラが一礼する。


「どうした?」

「あ、あの、……その」


 國井は黙って耳を傾けた。

 竹刀を下ろし、頑張って話そうとしているサラの言葉を待つ。


「私、昨日は、……逃げちゃって。すいませんでした」

「別に逃げてねえだろ」

「いえ。自分から、逃げちゃって」


 服の裾を握り、サラが顔を上げる。


「もう一回。ま、また、教えてください」


 國井はジッとサラの目を見つめた。

 臆病の色は浮かんでいるが、潤んだ青い目は真剣に何かと向き合っている。彼女なりの決心が、そこには表れていた。


「優しくはできねえぞ」

「……は、……はい」

「だったら、あれだ。母屋に行って、竹内さんに道着借りてこい」

「はい!」


 ドスドスと音を鳴らし、廊下を走っていく。

 サラの後姿を見送り、國井は思わず笑みを浮かべてしまった。


 また、教える。


 國井にとって、これほど嬉しいことなんてない。

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