第50話 二手に分かれて
「はぁっ! はっぁぁ……。何とか逃げ切れたぜ」
群れで襲い掛かるあの牛共からそれぞれケツ捲って逃げたせいで、散り散りになっちまった。
もうココどこだよ? 逃げる事しか考えて無かったから道も覚えちゃいない。
それに他二人はともかく、チェナーがちと心配だな。
アイツは頭の出来はいいが、運動事はからきしだ。完全後衛型だからそれでも問題無いが、いざって時に上手く立ち回れるようなヤツじゃない。
「ふぅ……。仕方ねぇから拾ってやるか」
人一倍プライドが高いアイツは、助けられるのが嫌いだ。
だからこそ恩を売る絶好のチャンスってな。嫌でも借りは返さないとプライドが済まないからだ。
ドロシアは、まあなんとかなるだろ。アイツはなんだかんだ足が速いし。
ラゼクとティターニは言わずもがな、やられるヴィジョンが見えない。
そう思って探しに行って数分。意外と早くに目当てのヤツを見つけた。
木の木陰で息も絶え絶えになってるチェナー。無様を見られるのは大嫌いな女だ。
だからわざとらしく声を掛けた。
「おーい、こんなとこにいたのか。探したぜ?」
「っ! …………エレトレッダさん」
一瞬だけ安堵したような表情を見せたが、すぐに仏頂面に戻る。
「……別に、貴方に見つけて欲しいなどと言った覚えはありません。これは、その……、たまたまです。たまたま山の薄い酸素にやられただけで、この程度で根を上げるわたしのはずがありませんので。決して勘違いなどなさらないでください!」
「わかってるって。普段人にあれこれと文句を付けたがる完璧なチェナーがこんなとこでへばってるわけないもんな?」
「…………当たり前ではありませんか。ですが、貴方がどうしてもとおっしゃるなら一緒に行動しても構いませんよ? 今は、他の三人を探さなければなりませんので。ベストではありませんがベターな選択としてその必要があると提案します」
苦虫を潰したかのように渋い顔をするチェナー。
いやぁ気分が良いぜ。
「そうだなぁ。なら仕方なく乗ってやらなくも無いぜ? 元パーティメンバーの好で。お前のせっかくのお願いを無碍にする程俺も冷たい血は流れて無いからなぁ」
「くっ……、本来ならパーティを解消した者同士が組むなど。……本意では無い事を留意しておいてください。仕方なく組んであげるのです」
「よっし決まりだ! また仲良く行こうぜぇ?」
優越感とはなんて心地良いものなんだろうな。思わず高笑いしたくなるぜ。本当にやったらあの牛共に居場所がバレかねんからやらんが。
明らかに不機嫌なチェナーに俺は背負っていたリュックを差し出す。
俺の行動に疑問を感じる顔しているが無理も無いな。
「何ですか? わたしはこんなもの持ちませんよ。それに何かちょっと匂う……汗ですか? こんなものを渡すだなんてデリカシーというものを相変わらず持ち合わせていないようですね」
「一々一言多いヤツだな、汗はここまで逃げ切った努力の結晶だろうが。つか、そうじゃなくて中身だ。こん中で使えそうなもんを考えてくれ」
今度は素直にリュックを受け取り中身を見るチェナー。
今回の牛狩りで必要なもんを俺が厳選して入れておいた。コイツがいるのは想定外だったが、むしろ都合がいい。コイツの脳みその使い時ってね。
「ふむ、なるほど。確かに必要そうではありますね。準備が良いと褒めるべきか、貴方らしい姑息さと呆れるべきか、判断に迷うところではありますが」
「褒め言葉だと受け取っておくぜ。まあそういう事だから頼むわ」
「そうですね。包帯に止血剤に消毒液、この辺りは基本ですが。あ、この栄養ドリンクは貰います。体力を消費してしまったので」
「好きにしろ。今は同じパーティだ、ここで倒れられちゃ困るんでな」
「まぁそれはお互い様でしょうが。……エレトレッダさん、一つ聞きたい事があるのですが?」
チェナーは、栄養ドリンクを開けながら問いかけてきた。
「何だよ?」
「なんでコショウの瓶なんて入れてるんです? こんな子供のいたずらレベルのものが役に立つと本気で思っているのですか?」
「ばっかお前、使えそうなもんは何だって使うのが俺の主義だぜ? 知ってんだろそんな事。これが使えないって保証も無いんだ。備えあればなんとやらってな」
「そういうところが姑息なんですよ。他に使えそうなものは……」
ぶつくさ言いながらも選別を始めるチェナー。まったく口うるさいヤツだ。
しかし、コイツのおかげで何とかなりそうだぜ。
「ロープ……ですか。牛相手だから? うぅん、悪くはないですが、それならばもっと頑丈なものの方が使い勝手は良さそうですが」
「ホームセンターじゃそれが限界だったんだよ」
◇◇◇
「二人とはぐれちゃったねラゼクちゃん達。二人して迷子になるだなんて、やっぱりぼくがリーダーとしてしっかりしないと」
「リーダー、かはともかくとして。さっさと二人を見つけないと。……あんな挑発に乗った自分が恥ずかしいわ、エルの言う事なんて八割は戯言なんだから。……ああでも思い出しただけでイライラするわ」
「こ、ここはひとまず抑えて下さいまし。ね?」
二組に別れてしまったその片割れ、ドロシア達は山奥の木陰からカノンブル達が来ていないか周囲をうかがっていた。
幸いにも逃げ切れたらしく、辺りには三人しかいない。だからこそ、はぐれた二人の方にカノンブルが行っているのでは無いかと心配していた。
だが下手に動けば見つかる可能性もあり、ラゼクは慎重に息を潜めていたのだ。
「でもさ、ラゼクちゃん?」
「何? どうしたのよ?」
「そもそもあいつら牛のモンスターなんだから、こんな入り組んだ森の奥にわざわざ来るかなぁ?」
「……あっ」
「は、はは。これは気付きませんでしたわ。…………ボクとした事がこんな事に気付かなかったなんて」
潜めていたのだが、方針を転換して二人を探すことにしたのだ。
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