東洋国家共同体奇譚
広瀬妟子
序章 或る戦場にて
西暦2026(令和8)年10月1日
針葉樹が辺り一面に広がり、針の様な葉で鬱蒼と茂る森の中を、数人の完全武装した者たちが進む。彼らはヘルメットに暗視装置を取り付けており、夜間でも森の中を捜索できる能力を持っていた。
そして、彼ら普通科分隊を率いる
「周囲の状況を報告せよ、送れ」
『前方、異常なし。送れ』
『右側、敵が潜んでいる可能性は低い。送れ』
『左側、こちらも異常なし。送れ』
『後方、奇襲の気配なし。送れ』
「了解。引き続き前進せよ。目標まであと10分だ」
無線機で交信を交わす中、一人の隊員が隊長に尋ねる。
「分隊長、本当にこの森の中に残党が隠れているんですか?確かに隠れるにはもってこいの場所ですけど…」
「連中はもう表立って動ける状態ではないからな。こちらはただ、捜索を行って空自の支援を待つだけでいい。一応目標を確認した後、増援として2個分隊がこちらに駆けつける。空自の爆撃で大体の敵は倒せるだろうが、数が不明だからな。念には念を押すものだ」
現在彼らは、いわゆるゲリラと化した武装勢力の掃討戦に従事しており、分隊規模で周囲を捜索した後に、他方面を捜索していた分隊が敵拠点のある場所へ集結。小隊規模になったところで航空宇宙自衛隊に爆撃を行ってもらい、爆撃が完了次第突入して鎮圧を計る作戦を進めていた。
やがて、ゲリラの活動が確認された場所へ向かっていると、木がほとんど切り倒されている平野に辿り着く。このまま進めば平野に出る事が出来るが、慎重な性格で知られている佐藤は、双眼鏡で木々の向こう側を見やる。とそこには、建設中らしき木造の建物と、多くの人々の姿があった。
「連中、呑気に家でも建てていやがりますね…民間人から拉致した奴隷でも酷使しているのでしょうか?」
「人さらいは足がつくからしないだろう。今や陸自は複数の都市に部隊を配置して警備を強化しているんだ、ドローンも用いた哨戒網に引っかかった間抜けが即座に叩きのめされた事は相手も知っているだろうしな」
『この世界』において、拉致は絶対に避けねばならぬ事態であり、日本政府は監視網として従来の監視カメラや擬装カメラのみならず、ドローンを用いた空からの監視も行っている。人手が余りにも足りない状況では至極当然の手段であり、幾つかの残党を発見する事に成功していた。
その事が相手に知られていない筈もなく、むしろ日本側にはこういう手段がある事を喧伝する事で、一種の抑止力となっていた。
「ともかく、一戦仕掛けるには少し準備が必要だ。直ぐに他の分隊を呼び出すぞ」
1時間後、茂みに身を潜ませて待機していた佐藤たちの下に、他の地域を捜索していた分隊が到着する。遅れて、小隊長より佐藤に通信が向かう。
『小隊本部より各隊、空自が間もなく支援攻撃を開始する』
「了解」
直後、上空にジェットエンジン特有の轟音が響き、遅れて目前の敵拠点に土ぼこりが舞う。遅れて機関銃による迎撃を開始したが、それは合図でもあった。
「突撃にぃ、前!」
佐藤の命令一過、84ミリ無反動砲が榴弾を投射し、着弾前に茂みより飛び出す。その襲撃は相手の虚を突き、ゲリラは慌てふためく。
20式小銃銃口下部にはすでに89式銃剣を装着してある。佐藤らは距離を詰めると同時に伏せ、流れる様な動作で手榴弾を投擲。数人が爆風に吹き飛ばされると再び立ち上がり、喊声を上げて敵兵に突っ込む。
「
敵の一人が叫ぶが、佐藤は即座に小銃を振り、銃床を叩きつけて転倒。合わせて二人目の喉元に銃剣を突き刺し、引き抜くとともに三人目に発砲。瞬時に三人を撃破した。
1時間後、佐藤ら第12旅団隷下の部隊は、エスパニア帝国残党の築いていたアジトの一つを強襲し、これを壊滅させたのである。
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