始まりの慟哭2
「本気も本気……私はそのためにあの愚鈍な王子を落としたのだから」
「なん……ですって…………」
「明日読み上げられるでしょうけどどうしてあなたが死刑になるかお分かり?」
「……国家に対する叛逆だと聞いていますわ」
「そうですがあなたのお家の功績や第三王子の庇い立てなんかを見るに国外追放で済ませるという意見もありましたのよ?
だけどアリア、あなたは死刑。
…………それはあなたがケルフィリア教の崇拝者だから」
「ど、どういう……」
「あなたが異端者だから。
あなたの家が滅んだのは異端者だから。
あなたが叛逆を企てたのは異端者だから。
あなたが死刑になるのは異端者、だから」
頭がぼんやりとして視界がぐにゃりと曲がったような感じがして気持ちが悪い。
言葉の意味はわかるのにその内容を理解したくないと脳が拒否している。
「ただあなたがこうなったのはあなたが何も気づかなかったから……」
そして愉快そうにエリシアは嗤った。
「あなたは何も気づかない。
私がわざとあなたにいじめられているように見せかけても、頭が空っぽの兄を騙してお家を崩壊させても、あなたを異端者に仕立て上げても」
我慢できないといった感じでエリシアが声を上げて笑い始めた。
「マヌケで愚鈍、愚かで滑稽。
……でも感謝してるわ」
なぜかエリシアの顔が見えない。
知っている人物だと思っていたエリシアが本当は全く知らない人で今見ている姿すら本物かどうか分からなくなる。
「あなたはこれから訪れる新たな時代の礎となったのよ」
「あ……あぁ」
「ありがとう、アリア」
「この、異端者!
この国を血で汚すつもり?
なぜ……なぜこんなことを!」
「不平等で歪んだ世界を変えるの。
ここはその、一歩」
「歪んでるのはあなたよ!」
「なんとでもお言いなさいな。
鎖に繋がれ、鉄格子の中からどんな言葉を放っても誰にも届きはしないですわ」
「あ……あああああ!」
プツンとアリアの中で何かが切れる音がした。
「殺してやる!
おまえも、異端者も全て!」
「やってごらんなさい?
ほら、私の首はここですわよ」
ガシャン!
アリアが手首から血が出るほどの力で鎖を引っ張り前に出ようとする。
けれど女性の力ではけたたましく音が鳴るだけでほとんど動きもしない。
「ふふ……愉快さを通りこして憐れになってきました。
行きましょう」
「覚えていろ……絶対に殺してやる!」
ーーーーー
「アリア・エルダン。
汝は国家に対する叛逆を企てたこと、認めるか?」
「何かの間違いです!
私は叛逆など企ててはおりませんわ!」
「……最後まで罪を認めないか」
広場で行われる公開処刑。
今回処刑されるのは稀代の詐欺師と言われ、国家転覆を図ったとされる悪女のアリア・エルダンだった。
エルダン家は数年前に滅んだ家門であり、それまでは栄華を誇っていた。
家門が滅んだことを恨みに思ったアリアは王の殺害を狙い国家転覆を図ったのだ。
アリアを止めたのは第二王子エラン・フォン・ガルジェンダイン。
エランの妻であるエリシアはアリアの兄の婚約者の家門の人でありエリシアとアリアは仲も良かった。
処刑はアリアを捕らえたエランが直接行うことになった。
その場には妻であるエリシアも同席していた。
いつも穏やかに笑っていて実家が滅門したアリアにも常に優しかったエリシア。
口元を扇子で隠してゴミを見る目でアリアを見るエリシアを同じ人だとは思えなかった。
「怖いわ、あなた。
このような人が周りにいただなんてとても信じられない。
早く処刑してくださいな」
悲しむように顔を背けたエリシア。
しかしアリアは見たのだ。
扇の後ろ、隠した口元は笑っていた。
「早く殺せー!」
「死ね、魔女め!」
周りで見ていた民衆がたまらず騒ぎ出す。
ここにアリアの味方はいない。
「泣くぐらいなら大人しく過ごしていればよかったものを……」
「魔女……国家転覆を図っているのはエリシアの方ですわ!」
アリアの目から涙が溢れ出す。
もちろんアリアは国王の暗殺も国家転覆も図ってはいない。
思ったこともなければそんな力もない。
「異端者はエリシアの方です!
役にも立たない裁縫や刺繍のスキルばかり高くて私に何が出来ると言うのですか!
あの女が全てを私に被せて……」
「……うるさいな。
時間だ、押さえろ」
屈強な男たちがアリアの体を押さえて頭を下げさせる。
そんなことしなくたって腕は縛られているので抵抗もできないのに。
最後の最後に希望に縋るように告発の言葉を口にしてみるがそれを信じる者はいない。
どんなに言葉を尽くしても通じないことをエリシアは分かっていてもわざわざ死ぬ前に会いに来たのだ。
もはや希望は残されていなかった。
「最後に言いたいことはあるか?」
「……てろ…………」
「何?」
「全員覚えてろよ……」
誰も何も聞かないのならもう好き勝手やる。
いい。
なんでもいい。
せめて薄ら笑いを浮かべるあの女の顔にわずかな恐怖でも浮かべてやる。
エランはびくりと体を震わせた。
顔を上げたアリアのこんな冷たい目を今まで見たことがなかったからだ。
どんな時でも、どんなに辛くてもいつでも笑っていたアリアはそこにいなかった。
「なんだと?」
「正義もない権力に踊らされたクズどもが!
この場にいる、お前も、見ている奴も全員……全員くたばってしまうとよろしいですわ!」
吼えるように喉から飛び出した言葉。
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