第27話、目が覚めたらそこにいた。


 悪魔であるベリーフから魔力を増幅してくれた事で、人ではない魔力をもらった事で、アリシアの身体に拒否反応が出てしまったらしく、一気に力を使ってしまったアリシアは意識を失い、その場で倒れた。

 魔獣討伐も終わった事もあり、レンディスは急いで彼女を抱き上げ、ベリーフに視線を向ける。


「早く森を出て、レンディス」

「しかし、ベリーフ……お前はどうするつもりだ?」

「隠れていた悪魔にお仕置きしなきゃいけないから……これは僕の役目だ。良いレンディス?ちゃんと屋敷まで振り向くことなく向かうんだよ、いいね?」

「……ベリーフ?」


 いつもと違う、厭味ったらしい悪魔が真顔でそのように発言してきたことで、レンディスが疑問をぶつけようとしたが、彼はそのまま笑うのみ。

 ここから先、何かを見てはいけない気がしたレンディスはそれ以上何も言えず、唇を閉じた後背を向けて走り出す。地面に刺した長剣を抜き、鞘に納めた後、もう一度彼女を抱き上げ、振り向く事なく。

 レンディス、抱き上げられているアリシアが森の出口に走って向かったことを確認したベリーフは、その場から攻撃した悪魔の方に瞬間移動をする。


 突然、目の前に同族が現れた事に驚いた傷ついたもう一人の悪魔――彼はベリーフの顔を見るなり驚いた顔をした。


「やあこんばんわ……なるほど、イケメンな顔をしているね。君がラフレシアの占い師だった男かな?」

「ッ……な、何者だ、貴様は!」

「あれ、僕の事を知らないとなると、下級の悪魔かなぁ……宿主の魔力をかなり吸ってるね。君の主様は大変だ」

「ぐ……も、もう少しで俺たちの計画は完璧だったのに……何故邪魔をする?」

「何故って……まぁ、気まぐれって言いたいところだけど、違うかな」


 フフっと笑いながら答えるベリーフの姿に、『占い師』と呼ばれていた悪魔は目の前の男が異様で、何も感じる事が出来ない。

 同族だという事はわかっているのだが、この奥底から感じる寒気は一体何なのだろうか?

 微かに体を震わしながらその場から逃げたい気持ちに襲われるが、ベリーフは彼を逃がすつもりはない。足で逃げ道を塞ぎ、再度笑う。


 しかし、その時変化が訪れる。

 子供のように少年だった姿が、徐々に変わってきている。小さな体が徐々に大きくなり、少年から青年の姿になったベリーフの姿を見て、悪魔は目の前の男が一体何者かと言うのを理解した。


「く、黒い髪に、色違いの両目……」


 ベリーフの姿は長髪の黒い髪、右目が赤、左目が紫と言った、綺麗な瞳をしていたのだが、『占い師』は目の前の悪魔が何者かと言うのをすぐさま理解した。全て、魔力でわからないように、変えていたのだ。


 男は悪魔なのに、この世界に留まる事が出来る。

 男は悪魔なのに、嘗て『神』に受肉をしてもらった、特別な存在。

 男は悪魔なのに、『神』に寵愛されたモノ。


 悪魔の世界では、彼の事を『原初の魔王ベリフェル』と呼ぶ。


「あ……ああ……」

「……ああ、ようやく僕の正体が理解できたか、雑種?」

「し、しら、しらなくて……」

「お前は僕の大事な人間に手を出した。アリスの娘は僕にとって、自分の娘のような存在……そんな女に手を出すとは、身の程知らずの悪魔だ。人間ならば、アリシアは対応できるが、悪魔なら話は別だ」


 先ほどの可愛らしい笑みではなく、敵と認識したベリーフ――いや、ベリフェルは、怖いぐらいの笑みを目の前の悪魔に見せている。

 恐怖し、身体が動かず、どうしたら良いのかわからない。


「同族があの子に手を出すなら、僕は容赦しない……ぐちゃぐちゃに引き裂いても、構わないよね?」

「あ……あぁ……」

「――その前に、聞きたい事もあるから」

「き、聞きたいこと……?」


「――君の主様は誰だって、話」


 ベリフェルはそのように告げると、指先を軽く鳴らすのだった。



  ▽ ▽ ▽



 ――目を開けたら、何故か隣に寝ているレンディスが居た。


「……あれ?」


 意識が覚醒して隣にを見ると、そこには深く眠っているレンディスの姿があり、アリシアは首をかしげながら辺りを見回してみる。

 確かベリーフに増幅術をかけてもらって、上級の魔術を使って、その後眠気が襲ってきて――どうやら意識を失い倒れてしまったと言う事を思い出したアリシアはやってしまったと理解した。

 原因は、ベリーフの増幅術だ。

 ベリーフは特別の悪魔だと言う事は本人が言っていたから聞いたことがある。彼の正体は神に愛されている『原初の魔王』。嘗てこの世界で初めて契約したのはベリーフだ。

 そんなベリーフの契約者は『神』だったと言う話は御伽話で語られている。そんな悪魔から魔力をもらい、また増幅させてもらったのだがら魔力酔いをしてしまったと認識出来る。

 現に、ベリーフの魔力は壮大で、上級魔術を放った時も力が暴走しそうになった感覚がある。


「……まぁ、頂いたものを使うのは勝手だしな」


 アリシアは静かにそのように呟いた後、そのままレンディスに視線を向ける。

 ふと、気づいたのだがレンディスはアリシアの手をがっしりとホールドするかのようにしっかりと握りしめている。握りしめられている手を見ながら、アリシアは次の瞬間、顔を真っ赤に染め上げた。

 その前に一度手を握っているのだが、別にその時は全く意識をしていなかったのだが、今も手を握りしめていたと言う事は、ずっと、傍に居てくれたのだろうと理解する。


「ずっと、傍に居てくれたのですか、レンディス様」


 眠っているレンディスの姿を見つめながら、アリシアはそっと、彼の頭に触れる。温かく、とても気持ちが良い。

 


『――好きですアリシア様。ずっと、お慕いしておりました』

 


 あの時言われた言葉が、胸にしみこんでくる。

 アリシアは静かに、レンディスが握りしめている手を握り返しながら、誰も聞こえていないと確認して呟いた。


「……そろそろ、覚悟を決めないといけないな」


 そのように呟いた後、再度アリシアはレンディスに目を向けていたのだった。とてもやさしそうな瞳で。

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