第26話、カトリーヌ・カトレンヌは姉を想う②

 姉である、アリシアはそれからいつも傍にいてくれた。

 婚約破棄してくれたカトリーヌに対し、アリシアは仕事よりも妹の傍に居てくれることを優先してくれるようになった。傷ついた心を癒してほしいと願ったからなのかもしれない。だからこそ、カトリーヌは姉のように強くなりたいと何度も願うようになった。

 そして、姉は傷ついてしまった妹の心を癒すと言う事で、叔母であるシーリアの所へ行くと言う事を伝えてきたので、もちろんカトリーヌは了承した。出発する前に一度姉にハプニングはあったが、それは妹にとって喜ばしい事でもある。しかし、もう少し、姉の傍に居たいと言う我儘を付け加えて。


 叔母の所についた後、姉は時々自分の魔力を高めるために、魔術の訓練を行っていた。時々見ていたのだが、姉の魔術は本当にすごかった。出される氷はとても綺麗で、美しかった。

 カトリーヌには魔術の才能がなかったと思っていたのだが、それでも少しでも姉の力になれる事があったら、と思い、アリシアに魔術を教えてほしいと言うと、すんなりと了承してくれた。ただ、教えるのが苦手なのか、姉はまずお手本を見せてくれ、それから学ぶと言う感じだった。相変わらず、姉の作り出す氷は本当に綺麗で、美しい。

 アリシアのようにはいかないが、少しだけ氷を出す事が出来るようになった。これも、また一歩進んだことになった。嬉しくてたまらなかった。


 姉は召喚術の事についても教えてくれた。

 どうやら昔、フェンリルの親子を助けた事があり、その息子と契約する事が出来たので、時々呼び出す事があると教えてくれた。出てきたのは可愛らしい、子犬のようなフェンリルで、姉は休憩がてらに呼んでくれるようになった。


 それから、友人のエリザベートが療養と言う事で、一緒に過ごせるように遊びに来てくれた。エリザベートの兄、レンディスと一緒に。


 レンディス・フィード――彼は姉のアリシアと良く魔獣討伐で働いている仲間である。


 そんなレンディスは大切な姉に求婚した相手でもある。

 姉であるアリシアもまんざらではない反応を見せているのだが、そもそも恋と言うモノすらしたことのない姉は初心者なのだ。レンディスの前になると、アリシアは今まで見せた事のない表情を見せてくるようになった。

 カトリーヌすら知らない姉の姿に、彼女は新鮮な気持ちを覚えてしまった。


 エリザベートは出来たらレンディスと夫婦になってもらいたいと願っている。しかし、自分はどうなのだろうかと、カトリーヌは何度も思ってしまった。

 正直、姉を取られてしまうのではないだろうかと、思ってしまう時がある。いつでも、自分よりも妹であるカトリーヌを優先してくれる、大好きな姉。


「……カトリーヌ?」

「え、あ……ご、ごめん。なんだっけ?」

「なんだか上の空、でしたから……もしかして、お姉様を取られると思っています?」

「ふぇ!?な、なんで……」

「だってカトリーヌはアリシア様……アリシアお姉様の事、大好きですものね」

「ううう……」


 エリザベートにそのように言われてしまって、アリシアは反応できずに涙目になりながら落ち込んだ。エリザベートの言う通り、彼女はアリシアの事が本当に大好きなのだ。

 このまま、レンディスに取られてしまっても良いのか、なんて思ってしまっている自分自身が居るだなんて、死んでも誰にも言えない。例え、エリザベートでも。


「た、確かにアリシアお姉様の事は大好きだし、お母様を知らない私にとって、お姉様はお母様のようにいてくれた存在……だから、その、レンディス様に取られちゃったら、もうずっと一緒にいられないんだなーと思うと……さみしくなってしまって」

「まぁ、それはわかりますわ。学園に居た時もお姉様のお話ばかりしておりましたから」

「……けど、ね」


 カトリーヌは何処か悲しそうな表情をしながら、アリシアとレンディスが討伐に向かっている森に視線を向けた。



「――お姉様にも、ちゃんと幸せになってもらいたいって、願ってるの」



 いつも、自分よりも、妹を優先してきたアリシアの姿を、カトリーヌは何度も見てきている。見てきているからこそ、例え離れ離れになっても、幸せになってもらいたいと願っている。

 エリザベートから聞いていたが、レンディスは本当にアリシアの事を大事に思ってくれている、と言う話を何度も聞いている。カトリーヌから見ても、レンディスは本当にアリシアの事が好きなんだと認識出来た。


 アリシアがレンディスの手を取ってしまったら、きっと、もう妹の事を優先してくれなくなるのでは?と言う気持ちがカトリーヌを襲ってしまう。


「幸せになってほしいと願っているはずなのに、私、お姉様を取られたくないと言う気持ちが強くなってて……我儘よね、これ」

「それは仕方ないわよカトリーヌ。だって、ずっとお姉様はあなたを優先してきて、あなたの傍に居てくれたのでしょう?私は、ほら……お兄様たちにはそんな感情はないからよくわからないですけど……それに、アリシアお姉様にカトリーヌ、我儘なんて言った事あります?」

「多分、ないと思う……」

「なら、いいのでは?たまには我儘言って……聞くところによると、まだ返事はしていないから、返事する前に思う存分我儘言って、甘えちゃいなさいよ、カトリーヌ」

「……」


 アリシアは確かにカトリーヌの傍に居てくれるが、そう言えばカトリーヌは我儘と言う感じの事を言ったようなことがない。離れる前に、我儘を言ってしまおうかなと思いながら、アリシアの帰りを待とうとした時だった。

 森の頭上から、無数の魔術で作った氷のかけらが見えた。


「……え?」


 その姿を見た瞬間、カトリーヌの心に不安と言うモノを覚えた。

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