第17話、第一王妃を嫌う理由
ラフレシア・リーフガルト――毒のような花の名前の彼女はこの国の第一王妃であり、正妃だ。
アリシアの妹、カトリーヌの元婚約者である第二王子であり王太子のファルマ・リーフガルトの実の母親である。
一部の人間からはこのように呼ばれている。
『女狐』と。
王妃になる前、彼女は何十、何百の男性たちを虜にする美貌の持ち主で、毒のような女とも噂されていたのだが、王妃となってからは国王陛下であり、夫である存在を一途に愛している、らしい。本当かどうかはわからないが。
アリシアとアリシアの父親であるカトレンヌ侯爵もカトリーヌの婚約には反対だったのだが、国王陛下の命令となってしまうと、逆らえない。
カトリーヌは純粋で優しい存在だ――前向きに、フィリップの為に勉強も、何もかも頑張っていたはずだ。
結局は裏切られる形となってしまったが。
ラフレシアは自分の息子を溺愛しているせいもあってか、少々わがままな性格に育っているのはわかっていたはずなのだが、アリシアはその件についても手出しは出来なかった。王妃が容認しているから、何も言えない――同時に、彼女はラフレシアを嫌っているから余計に無理な話だ。
王妃自身、カトレンヌ家は嫌っていると言うのは知っている。
一通り話を終え、区切ると、エリザベートは首をかしげながらアリシアに返事を返す。
「あの、どうして王妃様はアリシア様たちを嫌っているのですか?」
「カトレンヌ家と言うよりかは、母上と、あと私かな?」
「え、ど、どうして?」
「――めぎ……いや、王妃とうちの母上は幼馴染と言う関係だったらしい。同時にライバル視していたらしいと父上から聞いたことがある。因みに私は母上の若い頃にそっくりだと言う簡単な理由だ」
「か、簡単すぎる理由ですわね……」
「……まぁ、私は元々あの女は嫌いだったから、別に良いんだけど」
アリシアは、ラフレシアと言う王妃の事は昔から苦手とし、同時に毛嫌いしている。
何回か招待された社交場などに無理やり連れてこられた時に何回か顔を合わせた事があるが、初めて見た時の第一印象は、この人は嫌いだと言うオーラが出まくっていたのかもしてない。向こうも良い顔をしていなかった。
その後に父親から母親と王妃の事について話してくれたのだが、それならばどうしてカトリーヌを王太子の婚約者にしたのか、理解が出来ない。
「話が戻るけど、そんな溺愛している息子を私は容赦なくぶん殴りました。気絶させるほど」
「あ……」
「エリザベート様でしたら、もし大切な人が殴られたら、どういたしますか?」
「……王妃様と同じ事を考えましたわ」
「恨むのは当たり前ですし、刺客を送ってくるのも想定内なんですよ」
笑いながら答えるアリシアに、どのように返事をすればいいのかわからないエリザベートは困ったような表情を見せている。
そんな彼女の頭に手を伸ばし、優しく触れながら、ゆっくりと撫でる。
「ですが、同時にこの件につきましては完結をしておりません。多分、片づけなければ、これからも王妃は刺客を送ってくるでしょうね。私が死ぬまで」
「ど、どうするおつもりなんですか……?」
「そうですね……それをこれから考えるつもりです。私は体を動かす事はすごく大好きなんですけど、頭で考えるのは全く持って苦手なんです。いつもファルマ殿下に呆れた顔をされますしね」
笑いながら答えるアリシアに対し、エリザベートは何も言えなかった。笑っているアリシアの姿が、とても清々しい顔をしていたからである。
思わずアリシアの表情に見惚れてしまう程、とても綺麗な顔をしていたと言っていいだろう。エリザベートは次に出そうとしていた言葉を出す事が出来ず、静かに見つめていると、その視線に気づいたアリシアがエリザベートに目を向ける。
「エリザベート様?」
「はうっ……あ、アリシア様もそんな顔が出来るんですね?」
「え?」
顔を真っ赤にしながら答えるエリザベートの言葉の意味が全く理解していないアリシアは思わず首を傾げていたのだが、エリザベートは頬を赤く染めた状態で目線をそらす。
しかし、エリザベートの言葉には一理ある。
正直、次の手をアリシアは考えていなかった。このまま、何かきっかけがあればいいのだが、そのきっかけすらわからなくなってきている。
何か、手を加えなければ、きっとあの王妃、ラフレシアの事だから徐々に毒を出して染め上げていくかもしれない。いつの間にか周りに味方と言うモノが居なくなってしまったら、余計に厄介だ。
少なくとも、王宮の中には王妃であるラフレシアの事を崇拝している人物たちが何人もいる。彼女は美貌と言うモノをまだ持ち合わせており、未だに若々しい姿を見せている。まるで、悪魔に魂を売ってしまったかのように。
「……そろそろ動き出しても、いい頃かもなぁ」
「アリシア様?」
「……いえ、エリザベート様が聞く事ではないですよね」
フフっと笑いながら答えるアリシアの言葉の意味を理解していないエリザベートは再度首をかしげている姿があった。
そんな彼女の姿をどこか愛おしく感じてしまったアリシアだったが、ふとエリザベートが何かを思い出したかのように、アリシアな目を向ける。
「あ、ではその王妃様との件が片付きましたら、お兄様と婚約なさるおつもりなのですか!?」
「……」
笑顔で、それもまぶしい姿で答えるエリザベートに、アリシアは何も答えられなかった。そのまま口の中から血を吐き出したい気持ちになってしまったなんて、死んでも言えなかった。
しかし、エリザベートの言う通り、アリシアはこの件が片付いたら言わなければならない。きちんと、告白した返事を言わなければならないのだ。
「え、えっと……そうですね、ちゃんと言うつもりです」
「はわわ……もし、承諾してくださいましたなら、私のお義姉様になってくださる、と言う事なんですよね!カトリーヌとも姉妹になるという事で……アリシア様!」
「は、はい!」
「兄を……レンディスをぜひとも選んでください……それが、私の最大の願いです」
拳を強く握りしめながら答えるエリザベートの姿に、アリシアは何も言えなかった。ただ、向こうの家族からはちゃんと歓迎されているのだなと、少なくともエリザベートは応援してくださっている、と思うと、気持ちが少し楽になった。
「……ちゃんとしたお返事を出させていただきます」
――とりあえず今は、この答えで。
アリシアの言葉を聞いたエリザベートは嬉しそうに笑いながら、再度深々と頭を下げている。そんな姿を見たアリシアは慌てる姿があったのを、木陰から静かに、レンディスは二人のやり取りを見つめていた。
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