第13話、話すよりも拳で語り合う②
――何故、そのようになってしまったのか、レンディスは何も言える事が出来ず、とりあえず今の現状をどうにかした方が良いのだろうかと考えるようになった。
目の前の女性――アリシア・カトレンヌはやる気十分な様子であり、体操のようなものも始めている。これは絶対に逃げられることが出来ないと理解したレンディスは、持ってきておいた長剣を鞘から抜き、軽く構える。
レンディスが剣を構えた事に気づいたアリシアが首をかしげるようにしながら問いかけた。
「レンディス様、大剣は持ってきていないのですか?」
「……必要ないと思いまして、そもそも休暇を取るためにこちらにきたので、今持っているのはこの長剣のみです」
「そうですか……レンディス様、手加減は無用ですから」
「アリシア様に手加減なんて、死んでも出来ません」
「く……上等」
死んでも出来ない――それは嬉しいのか、それとも皮肉なのかアリシアはわからない。しかし、レンディスの殺気は十分と伝わってきている。
これから殺し合いとはいかないが、戦う事になってしまった。そもそもその提案をしてきたのはアリシアなのだが、アリシアは会話と言うモノが苦手であり、頭を使う事すらも苦手だった。
そして自分自身で考えた結果、このような形となった。
相手はあのレンディス――一切、手加減と言うモノは出来ない相手だ。相手は剣での接近戦を好み、アリシアは前線に居る事は多いが、彼女は王宮魔術師であるため、剣で戦う事はまずない。
「――
「……」
アリシアは自分がいつも使う杖を召喚させ、右手で強く握りしめながら魔力を杖から流し込める。
「レンディス様」
「なんでしょう、アリシア様?」
「――凍ってしまったら、申し訳ございません。私は、『氷の
細い瞳がゆっくりとレンディスを映し出しており、レンディスも静かに頷き、剣を先ほど以上に強く握りしめる。
同時に二人の周りの気温が一気に下がりだす。理由はアリシアの魔力が周りに漏れ出しているせいだ。
「
「ッ!」
アリシアの魔術で、無数に出てきたのは氷で出来た矢だった。いつの間にかその矢はレンディスの周りを囲むように出てきており、流石にレンディスもアリシアが考えた攻撃に舌打ちをする。
一呼吸行ったあり、レンディスはアリシアに視線を向けると、先ほど以上の殺気がアリシアの身体に襲い掛かってくる。
「ッ……流石、殺気が肌まで感じますね」
「……」
アリシアの言葉に、レンディスは何も答えない。集中しているのかわからないが、剣は握られたまま。
次の瞬間、アリシアは杖を振り下ろし、それと同時に氷の矢がレンディスに向かって襲い掛かってくる。のだが、レンディスにとって、アリシアの攻撃のパターンは以前から見ていたのでわかっている。
襲い掛かってくる氷の矢を簡単に、意識を集中させながら全ての矢を剣で斬り落とされており――その姿を見たアリシアは思わず呆気に取られてしまう。
全て氷の矢を落としたレンディスにどのように返事を返したらいいのかわからず、同時に、目の前にいるのは明らかに自分と、いやそれ以上の化け物ではないだろうかと考えてしまう程。
しかし、振り落とされても、まだ氷の矢は作れる。全てを落とし終えたレンディスに待ったなしと言う形で、第二弾の氷の矢が完成されていた。
「全て、とは言っておりませんので、レンディス様」
「……厄介ですね、あなたの魔法は……ただでさえ、切り落とすのも大変だと言うのに」
「いや、普通切り落とす事なんて出来ませんよレンディス様」
普通、向かってきた矢を切り落とす達人がどこにいるのだろうかと思いつつ、アリシアは思わず突っ込みを入れてしまった。
それ以上に、レンディス・フィードと言う人物は剣の腕は確かだという事なのであろう。
再度、杖を振り下ろす。振り落とすと同時に襲い掛かってくる矢に、レンディスは襲い掛かってくる氷の矢を切り落としている。そのような光景をアリシアは見つめながら、同時に杖を再度強く握りしめながら、詠唱を開始する。
しかし、呪文を終えようとしたその時、目の前にレンディスの顔が現れる。
「遅いですよ、アリシア様」
「ッ……」
気配もなく、目の前に現れたレンディスにアリシアは咄嗟に一歩後ろに下がった瞬間、振り下ろされようとしている剣を受け止める為、持っていた杖でそれを受け止める。
女の両手の力で男の片手の力、しかも相手はあのレンディス・フィードに勝てると思っていない。振り下ろされた剣の先を杖で何とか受け止めた後、アリシアは再度呪文を呟いた。
「遅いかもしれないですが、やるべき事は出来ましたから。
「ッ……槍か!」
「矢よりは太いですよ、ランディス様」
レンディスの背後に出来た大きな氷の槍が現れ、そのまま連で椅子に襲い掛かる。
すぐさまアリシアから氷の槍に目を向け、襲い掛かろうとしてくる槍を容赦なく、次の瞬間その場で斬り落とす。
「切り落とすの、かっ!」
「ぐっ……」
しかし、そのおかげで一瞬の隙が出来たアリシアはレンディスの背中に向けて大きく杖を振り下ろす。
背中に激痛が走ったレンディスだったが、それだけで倒れる相手ではないとわかっている。アリシアは再度杖の攻撃をしようとしたのだが、レンディスはそんなアリシアの前で持っていた剣を捨てる。
「え……」
何故剣を捨てたのかアリシアにはわからなかった。
ただ、いつの間にかレンディスはアリシアの前に立ち、そのまま彼女が杖を持っていた手首を掴み、一緒に地面に倒れこむ。
「うわっ!?」
押し倒されるかのように倒されたアリシアは自分の身に何が起きたのか理解が出来なかった。その代わり、目の前にはレンディスの顔があり、同時にアリシアはレンディスに地面に押したされている形になっていると言う事に気づく。
これは一体どのような状況なのか、どのようにしたら良いのかわからなくなってきてしまったアリシアは呆然としながら頭の中で混乱していた。
対し、剣を捨ててアリシアを抑え込む事に成功したレンディスはため息を吐きながら答える。
「アリシア様は俺を殺す気ですか……俺は殺されるつもりはないですけど」
「えっとー……すみません。なんかちょっと熱が入っちゃった感じが……いや、マジですみません」
「良いですよ……そういう強いところも好きになりましたから」
「え……」
さらっとこの男、好きだと言ってきたような気がするのだが、気のせいだろうかと思いたいが、どうやら相手はそのように思っていないようだ。
レンディスは地面に倒れたアリシアの手首を鷲掴みにしている状態。そのまま指先を絡めるようにしながら、レンディスは真顔でアリシアに向けて答えた。
「俺はあなたをどのように扱っていいのかわからないです。あなたの戦う所しか、俺は見た事ありません……俺は、そこに惹かれました。他にも見てみたいと思ってしまいました」
「あ、の……」
「好きです、アリシア様」
あの時と同じように、レンディスは『好き』だと言った。
「――俺に、あなたの全てを下さい」
――諦める気は全くありませんから。
そのように最後、言ったような気がしてならない。
もしかしたらとんでもない男に捕まってしまったのではないだろうかと後悔してしまうと同時に、返事をする事が出来ず、顔面を真っ赤に染めたアリシアは妹たちに助けられるまで固まっている姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます