1/7『迷信』

「夜切る爪は鷹の爪」

 ちいさいころ、おばあちゃんに聞いたおまじない。

「夜切る爪は鷹の爪」

 だから私のじゃないよ。私の爪を切ったんじゃないから親の死に目には会わせてね。そんな意味だったと記憶してる。

 大人になって、昔は夜暗くて明かりもいまみたいに電気の力じゃなくて、指を怪我するかもしれないから爪を切るのはやめましょう、という理由で【夜、爪を切ると親の死に目に会えない】という迷信が広まったって知った。だからいまは心置きなくいつでも爪切りできるんだけど……。

(夜切る、爪は、鷹の、爪……夜切る、爪は……)

 三つ子の魂百までってのは本当みたいで、爪を切るときは未だに頭の中で呪文がエンドレス。

 私もいつか孫ができたら教えたりするのかな。そんでその孫も、そのまた孫にも受け継がれていくのかな。

 孫どころか未来の旦那様すら見つかってないけど……彼はいま、なにしてるかな。と思い浮かべるのは片想い中のあの人。

 明日デートの約束をしていて、私はその準備に余念がない。

「ふう」

 最後の一本をやすりで整え終えて、一息つく。

 秋の夜は長く、テレビにも飽きてしまって部屋に一人。


「早く明日にならないかなー……」


 整えたばかりの爪に塗ったマニキュアを乾かしながら、じっと時計を見つめたけど、時間が早く過ぎることはなかった。

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