第77話魔物との戦い

ルチアーナの放った炎の矢は見事ひとつ目蜘蛛の目のある頭胸部そして腹部までを貫いた。

そしてひとつ目蜘蛛の体は青白い炎に灼かれ瞬く間に灰と化した。


ルチアーナの放った炎の矢は狙ったものだけを燃やすことの出来る上級魔法である。

ちなみに青白い炎ということはそれだけ高温ということだ。

ルチアーナは人知れず練習を重ね魔法の技術を磨いてきたのだ。


しかしマリアは学校でルチアーナと2年の間一緒に過ごしてきたが、こんな魔法をルチアーナが使えることを知る由もなかった。

さらには魔物のひとつ目蜘蛛の弱点に命中させたことに動揺を隠しきれなかったのだ。


もちろん魔物の知識はルチアーナになくウィルアムズに言われたままのことをしたまでであるのだが…


「嘘でしょ?ルチアーナがこんなことを…」


半透明の足場からルチアーナは答えた。


「マリア様、私の火の魔法は殺傷能力が高いものなの。この魔法を学校で披露する機会はないと思っていたわ。」


授業で行われる魔法の対戦でこの魔法を使おうものならけが人どころか死者が出てしまうだろう。


ウィルアムズはルチアーナの努力の先に得た魔法に感心するとともに、その目を見張る強気な顔の裏の顔が垣間見え口角が上げずにはいられなかった。


きっと自分以外は誰も気が付かない。

誰が見てもルチアーナは気高く自信に満ちている。


だがウィルアムズはルチアーナがポケットに忍ばせた御守りに触れていることを確認した。

ウィルアムズはルチアーナが心の中では不安と戦っていることを自分だけが知ることに胸が高鳴る。

その御守りは幼い頃にウィルアムズがルチアーナにプレゼントした青い鉱石だ。

ルチアーナがずっと肌身離さず大切にしていることを知っている。そして不安になると無意識に御守りを触る癖があるのだ。


ほんの一瞬ウィルアムズは泣き崩れて自分に助けを求めるルチアーナを想像した。


《ああ、悪くない…けどそんな姿を自分以外の人間には見せるのはイヤだね。》


それにルチアーナはきっとでマリアに自分が弱点だと思われたくないのだろう。

その気持ちもちゃんと理解もしている。


ウィルアムズは地面に落ちていたひとつ目蜘蛛が出した糸を焼き尽くしたあと冷却を行った。

そうしてルチアーナの真横へ移動しルチアーナを横抱きにして地上へ降りた。


ウィルアムズはにこやかにマリアに告げた。


「マリア嬢はルチアーナを甘く見ていたようだね。」


「どうやらそうみたいね。でも次は無傷でいられるかしら?」


「待てっ!また闇の精霊に召喚させる気なのか?誓約の対価は命ではないのか?」


「ああ、そんなの大丈夫よ。」


「何を言って…?」


「先にたくさん死んでもらったから心配要りませんよ。自分の身の心配して下さいね。美男美女のお二人に傷が付いたら大変ですわよ。」


「まさか黒魔術の魔道具は対価の先払いの為だったのか?」


「さすがウィルアムズ様。頭脳明晰と名高いだけあるわ。その通りですわ。」


「罪のない人を巻き添えにしたのか?」


「そうでもしないと私の命無くなるじゃないですか?周りはズルイ大人ばかりですから。」


「だからと言って君のしたことは許されない。」



「あいつら隠れた犯罪者ばかりです。ウィルアムズ様もお調べになった時に何かひっかかったでしょ?」



「ああ、だが証拠がなかった。」


「私の知り合いがアイツらの被害者なの。でも誰にも話を聞いてもらえなかったそうよ。」


「は?」


「酷いでしょ。警備隊はもちろん親にさえもね…」


「親にさえ?どういうことだ?」


「親もグルだってこと。成人にも満たない女性が家族に騙され待っていたのは頭のおかしな貴族の男たちに輪姦されることだったのよ。たった数時間で何人の相手をしたと思う?」


「それは考えたくない質問だな…」


「想像できる9人よ?」


「なっ…」


「証拠は隠滅されたけど、きっと彼女の体を調べたら何かわかったはずよ?」


「マリア嬢、君泣いてるのか?」


「まさか気のせいよ。少し無駄話しすぎたわ!レヴァイン二の陣をお願い。」


 闇の精霊レヴァインが呪文を唱えると瘴気ととものカラスに似た魔物が大量に現れた。


『ダーククロウよ。行けっ!』


レヴァインの声で一斉にルチアーナとウィルアムズの上空を円を描くようにダーククロウは列を整え旋回しはじめた。ダーククロウの姿はカラスに似た鳥の姿をしておりで全身が黒く目だけは赤い。大きさはなんと1メートルもあり一般的なカラスの倍ほどの大きさだ。


「ルチア上は見なくていい。集中して気配を察するんだ。」


「承知しました。」


実はダーククロウは幻影魔法を得意とする厄介な魔物である。

大量のダーククロウが上空を飛んでいるがその半分は偽物である。


ダーククロウの幻影魔法を見破り本物だけに攻撃する必要がある。

誤って幻影に攻撃すると隙が出来てしまうのはもちろんのこと魔力の無駄な消費となる。


ダーククロウの羽はカミソリのような鋭さを持ちもし体が飛行中の羽に肌が触れようものなら無数の切り傷を負うことになる。


さらにはダーククロウの足の爪には毒を持つとされる


先ほどの3メートルもあるひとつ目蜘蛛もダーククロウの毒が体内に侵入しようものなら5分も待たずとして死に至ると言われている。


そのダーククロウの弱点は口の中である。

ダーククロウが鳴きながら攻撃するためそのさい口ばしが開くのだ。

お互いに背中を預けウィルアムズは剣でルチアーナは炎の魔法でダーククロウの口ばしを狙う。


しばらく旋回していたダーククロウが次々にルチアーナとウィルアムズに向かい降下し始めた。


ウィルアムズとルチアーナは見事な剣と魔法でダーククロウを次々に倒していく。


無駄のない二人の動きは美しい。



残り数体になった時にウィルアムズがルチアーナに場違いな言葉をかける。



「ルチアまた君に惚れそうだ。」


「ウ、ウィルアムズ様今は無駄話はお控えくださいませ。」


ウィルアムズはルチアーナの返答を聞きまだ余裕があると悟り口角を上げた。


二人は残りのダーククロウを数分もしないうちに倒した。

剣で退治した大量のダーククロウの死骸が目の前に横たわる。

ダーククロウの血の匂いが鼻腔を刺激する。


「”炎よ業火となり焼き尽くせ”」


ウィルアムズが呪文を唱えると死骸は炎に呑まれ赤い炎がメラメラと燃え盛る。

だがルチアーナの魔法とは違い炎はすぐに消えることがない。


「”炎よ鎮まれ”」

「”水魔法””水よ踊れ”」


ウィルアムズは炎を鎮めたあとに飛び火を防ぐため水魔法を使い火種を消した。


ウィルアムズが魔法を使う動作はひとつひとつが優雅だ。

額からジワリと汗が滲んでいるがそれさえも美しい。


するとレヴァインは召喚した魔物を全滅させられたにもかかわらず愉しそうに口を開いた。


『ほぉ、思ったよりも早かったな。ダーククロウ相手に無傷とはなかなかだな。次はどうかな?』


またもや魔物を召喚するつもりなのかもくもくと瘴気が現れた。


『三の陣、ブラックリザード出でよ!』


「そう来たか。望むところだよ!」


ウィルアムズは強気の態勢を崩さない。その横顔に見惚れそうになるルチアーナだが魔法を使い少し疲れてたものの何故かウィルアムズといると不思議なほど怖くないことに気が付いた。


《これってもしかて…》


そして戦いに必死だったウィルアムズとルチアーナはこの場からマリアが忽然と姿を消していたことにこの時はまだ気が付いていなかった。

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