時の瞬き

深風 彗

第1章 見えるもの

 じりじりと焼けるような暑さの中私は呆然と立ち尽くしていた。何をするわけでもない。ただ立っていた。時の流れに打ちのめされながら。私の時間はあの頃から1ミリも進んではくれないのだ。


「おーい、千登勢何してんだ?」

「いや、星見えないかなって。」

「んなもん見えるわけねーだろ夕方なんだし。」

「いや、見えるよ。見えにくいだけでそこにいるの。幽霊と同じだよ。見ようとする人にだけ見えるの。私のお母さんもそうだよ。」

 私がそう言うと彼は怪訝そうな顔をして黙り込んだ。

 彼は星宮朔夜(ほしみやさくや)この私時ノ瀬千登勢(ときのせちとせ)の幼馴染だ。

 そして私の母、時ノ瀬桜(ときのせさくら)は2年前に死んだ。突然過ぎる別れだった。2年前に起こった交通事故で私の母は死んだ。私を助けようとして亡くなった。その時に私は一生分の涙を使い果たした。そこからは私の涙は枯れ果てた。その日を境に私は泣くことが出来なくなった。

「おい、千登勢。大丈夫か?」

「え?あ、うん。」

 私は反射的に答えた。

「ほら、帰るぞ。」

「うん。」

 そう言って私と朔夜は帰り始めた。夕焼けが完全に落ちる手前。反対側の空は薄暗くわずかに星が見え始めた。

 家に帰ると一人。もう慣れた。物静かな部屋にも。冷たく見守る夜空にも。

 はぁとため息をつき夕食を作る。慣れたものだ。2年もひとりぼっちだから悲しみや孤独はとうの昔に葬り去った。だから今は特に何も思わない。いや、思えない。作業の様に食事をする。

 そして眠りにつきまた朝を迎える。平々凡々な日々。やりたいこともなりたいものも分からない。そう思いながら今日も高校に行く。3年になって変わったのはクラスだけ。けど特に何も無い。朔夜が同じクラスに居るくらいだ。それ以外は本当に何もない。

「時ノ瀬っていつも何考えるか本当に分からなくねぇーか?」

「それな。いつも黙って本読んでるか書いてるし。ちょっと怖いよな。」

 遠くでクラスの男子がそう話しているのが聞こえてあぁまたか。と、思う私がいる。私の性格がこうなったのも2年前からだ。母のせいではない。母のせいにはしたくないのだ。何もかも自分が悪い。そう思って今日も過ごす。

 けど、それが嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で変わりたくてしょうがない。

 声にならない叫びを今日も叫ぶ。

 誰にも伝わらなくて良い。良くないけど。それしか今の私には出来ない。いつまで経っても抜け出せない。どうしようもなく声が言葉にならない。

「はぁ。」

 ため息をつくとまるでそれを聞いていたみたいに朔夜がやってきた。

「相変わらず冴えない顔してんなぁー。もうちょっと笑えよ。ビジュアルは悪くないんだからさぁー。」

「うるさい。」

 多分私は愛想が悪い。昔は良く笑えたのに。ため息が出る。そうこの時までは知らなかった。あいつに出会うなんて。そして全てを知ることになるなんてこの時までは何も。

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