第8章382話:別視点2

「最後に、一つだけ尋ねたいことがある」


ゾネットはそう前置きをしてから、質問を口にした。


「魔法は、正しく使われているかしら?」


現代。


生前のゾネットから見れば、遠い未来に当たるこの時代に、正しく魔法が用いられているかという問いかけ。


ガーラムは目を伏せながら答える。


「……残念ながら肯定の返事はできません。現在は戦乱がはびこる時代です。魔法は生かすより、殺すことのために使われることも多い」


「そう……」


ゾネットは驚かない。


なんとなく予想していた返答なのかもしれない。


「でもね」


とゾネットは、静かに訴えかけるように告げた。


「一歩ずつよ。一歩ずつ研究を重ね、前に進みなさい。それがたとえ小さな一歩でも、魔法がいつか、人々を平和で豊かな社会に導くと、私は信じてる」


ゾネットは平和の魔女。


その人生を通じて平和のために貢献した、偉大なる魔法使い。


彼女の言葉を、宮廷魔導師たちは胸に刻む。


ガーラムは言った。


「あなたに全霊ぜんれいの敬意を―――――平和の魔女ゾネット」


光に包まれる中で、ゾネットは微笑む。


そして。


彼女は消えていった。


あとには静けさだけが残った。


ふいに、ガーラムがつぶやいた。


「ゾネット様は、立派な王族であられたな。願わくばアレックス王子にも、くあらんと思っていたものだが……叶わぬ願望だったようだ」


疑いようもなく偉大な王族であったゾネットと比べれば、アレックスがいかに劣悪な王族であるかがうかがえる。


――――無論、今回のアレックスはスヴァルコアによって暴走させられた形だから、全面的にアレックスが悪いとは言いがたい。


しかし、もともと上官を崖から突き落とすような、度を越した暴挙をおこなっていたような王子だ。


次期国王になれる大器たいきではない。


「……そういえば、まだルチル様は、アレックス殿下と交戦しておられるんですよね」


とラクティアが指摘した。


エドゥアルトがうなずきつつ、言った。


「そうですね。早くルチル様のもとへ向かわねば……くっ!!?」


そのときエドゥアルトは膝をついた。


他の者たちも、力が抜けたように、続々と身体を折る。


「くそ……急に力が……なんだこれ?」


レオンの疑問に、宮廷魔導師ガーラムが推測する。


「戦いが済んだために、精霊の加護が切れたのでしょう。どうやら反動が大きいようですな」


「反動……」


精霊の加護は、素晴らしいバフではあるものの、魔力を大きく消費する。


成すべきことを終えるまでは加護が持続するが、それが終了したときには、魔力の激しい不足状態ふそくじょうたいとなり、反動が身体を襲ってくる。


しばらく動くことは難しい。


「ど、どうしましょう」


とフランカが焦ったようにつぶやいた。


「案ずる必要はないでしょう」


とガーラムがなだめるように答える。


「ルチル様にも、精霊の加護があります。それに、かの令嬢は誰にも負けぬ確かな強さがある。きっとアレックス殿下をお止めになるでしょう」


そしてガーラムは以下のようにむすんだ。


「信じて待ちなさい。あなたがたのあるじの勝利を」


エドゥアルトとフランカが、不甲斐ふがいない自分に歯噛はがみする。


しかしガーラムの言葉を少しずつ反芻はんすうし、やがて強くうなずいた。


「そうですね……ルチル様が、負けるはずがありません」


「信じます。ルチル様の勝利を!」


エドゥアルトたちはここで休み、ルチルの勝利を信じて待つことにした。







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