第7章276話:書類

翌日から1週間かけて。


屋敷に家具を設置し……


使用人しようにんを雇った。


同時に、私は領主りょうしゅ就任しゅうにんに関する、さまざまな手続てつづきをおこなった。


そして10日後。


私は領主に、正式に就任した。


まあ領主自体には、すでに以前から就任しているのだが……


書類上は、今日から私がルチル領の領主である。






いままでは、領地の管理は【公国管理局】が代理でおこなってくれていた。


しかし私がルチル領の領主になったことで。


領主を管理する権利も、義務も、完全に私が負うことになる。


たとえば。


公国管理局は今まで、管理している領地に対して食料の配給をおこなっていた。


女王が命じた貧民ひんみん救済きゅうさい政策せいさくを、実務として実施していたのが公国管理局である。


だが、私が領主になったことで、公国管理局の配給はストップする。


以後は、私が領民の面倒を見なければならないというわけだ。






というわけで本日。


私は、屋敷2階の執務室しつむしつにこもって、膨大な書類しょるい仕事しごとにいそしんでいた。


とりあえず貧民救済政策に関する書類を作成したり、捺印なついんをしたりする。


「本当に多いですわね、書類」


と私はぽつりとつぶやいた。


『統治者の仕事とは、8割が書類仕事、その他が2割である』


というのは、かつて父上が私に対して告げた言葉だが……


それがとてもよく実感できるほどだった。


領主の仕事=書類仕事。


うずたかく積まれた書類たち。


それを1日かけて、ひたすら処理していく。


(ラクなのかシンドイのかわからないね)


肉体的な疲労は、軍事訓練をしているときのほうがはるかにきつい。


しかしこちらは、精神的な疲労が溜まりそうだ。


なぜなら領主がチェックするレベルの書類なので、適当に処理できるものは一つもなく。


ちゃんと目を通し、内容を吟味ぎんみし、丁寧に処理していかなければならないからだ。


(大変だけど……フランチェスカさんが代官になる日までは、私が仕事をまっとうしないとね)


まあ、これも良い経験だ。


頑張ろう。


私はそう思って、書類を次々とこなしていった。







……で。


夜。


書類仕事がひと段落したので、今日の作業は終了。


お風呂に入ることにした。


「んー!」


屋敷の3階にある立派な湯殿ゆどの


私は湯舟ゆぶねかりながら、大きく伸びをした。


「はあ……疲れた疲れた」


肩が凝ったので、湯舟の中で軽くストレッチをする。


「良い湯ですわ」


と私は思う。


正面の壁が一面、窓になっているので、美しい夜空が眺められる。


ローズマリーの香りを込めた入浴剤を、湯舟に投入したので、香りもとても良い。


そして。


「ワインも最高ですわ」


私が錬金術で作った自家製じかせいワインだ。


これを一杯飲む。


ふわあーっ。


最高だね。


仕事終わりだし、ビールでも良かったかな?


なんとなく優雅さを優先して、ワインを選んだけど……


まあ今日はこれでいいか。


ビールはまた今度ということにしておこう。

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