第7章274話:屋敷

ニノックさんの先導せんどうで、貴族区画を歩く。


やがて辿り着いたのは、1件の屋敷。


大きな屋敷ではあったが……


なんとなくピンとこなかったので、保留とした。


もう1件の屋敷をチェックしに向かう。


その途中。


ニノックさんが歩きながら、尋ねてきた。


「そういえば大公城たいこうじょうはご利用なされないのですか?」


大公城たいこうじょうとは、オーギュスト大公が利用していた宮殿のことだ。


この街の中央奥ちゅうおうおくに位置する建物。


城下町じょうかまち睥睨へいげいすることができる高台たかだいに建造された宮殿であり、ジルフィンドにとっての王城である。


現在は、オーギュストがいないので、大公城は無人となっている。


「物件をお探しということでしたら、アレ以上に立派な住居はございませんよ」


とニノックさんが言ってきた。


私は答える。


「あの宮殿はちょっと、わたくしには仰々ぎょうぎょうしすぎますわね」


というのは建前たてまえだ。


別に高級なことを忌避したわけではない。


大公城はざいの限りを尽くして建造された大宮殿だいきゅうでん


政務の場所として利用するより、宮殿を解体して、資金に換えたほうがいいと思った。


なにしろ、この領地を盛り上げていくにあたって、お金は、いくらあっても足りないのだから。


あとは、まあ……


大宮殿を取り壊してしまったほうが、オーギュスト政権が倒れたことが、視覚的にもわかりやすい。


新しい治世ちせいがやってきたのだと、誰の目にも明らかになるだろう。


「さようですか。……おっと、着きました。ここです」


とニノックさんが示唆した。


彼の示す先には、小綺麗な屋敷があった。


クランネル王都で私が利用している屋敷に近い大きさだ。


縦100メートル・横100メートルほどの広さの庭園ていえん


それから3階建てのレンガ造りの居館きょかん


王都の屋敷との大きな違いは、居館の形である。


どうやら居館は『回』の字の形になっており、中庭なかにわがあるようだ。


「うん……いいですわね」


と私は直感的にそう思った。


「中を確認させてもらっても?」


「もちろんでございます」


ニノックさんが鍵束かぎたばを取り出して、門の鍵を開けた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る