第2章78話:旅の終わり


その後は伯爵領もスイスイと進んで、いよいよ公爵領へ戻ってきた。


秋が深まってきて、山野の緑も色づき始めている。


ふいに訪れた森林地帯も、紅葉や黄葉に染まり、地面には落ち葉が散乱していた。


この日は、森の中で野宿だ。


夜。


焚き火を囲みながら、食事を摂る。


魔物肉の塩焼き。


野菜に卵を溶かしたキノコのスープ。


メルトルーンで買った貝類やエビ。


サラダ。


アセロラのジュース。


……などなど、野宿としてはあるまじき豪勢さである。


まるでバーベキューのような馳走を楽しみながら、しみじみつぶやく。


「旅ももうすぐ終わりですわね」


するとエドゥアルトが答えた。


「ええ、早いものですね。しかし、とても鮮烈な旅でした」


フランカも同意する。


「私も、この旅で経験したことは一生忘れないと思います。ルチル様の護衛として、旅に参加できて、本当に良かったです」


「そう言っていただけて嬉しいですわ」


私にとっても、さまざまな経験をした旅路だった。


きっと良い思い出になるだろう。


エドゥアルトが言った。


「それにしても、さすがに11月……夜は結構冷えますね」


「そうなんですの?」


私は首をかしげた。


どちらかといえば涼しい、と感じるぐらいだが……


「ルチル様はお寒くないのですか? 私も、結構寒いと感じていますが」


フランカもエドゥアルトに同意している。


「いいえ、わたくしは別に……あ」


そういえば、と思い出す。


私は【耐寒スキル】を取得していたんだっけ。


これは雪山を散策するために使うスキルなので、おそらく真冬ですら、寒いと感じなくなる。


ただし涼しさは感じるので、まったく無温になるわけではないようだが……


試しに耐寒スキルをオフにしてみる。


おおっ……確かに寒い。


「なるほど。これは冷えますわね」


エドゥアルトたちの言っていることが理解できた。


まあ、この程度の寒さなら我慢できなくはない。


しかしこれ以上の寒さとなると、旅ができなくなるレベルだろう。


今回の旅はもうすぐ終わるが、今後の人生において、エドゥアルトたちと再び冒険する機会はきっとある。


そのときの防寒対策については、今のうちに考えておいたほうがいいかもしれないね。




そして二日後。


ついに屋敷に帰りつく。


私たちの旅は終幕を迎えた。


約1ヶ月の旅。


長いようで短い旅路だった。


しかし濃厚な一ヶ月だったな。


私は生涯、このひと月の思い出を忘れることはないだろう。


そう思った。




――――第2章 完

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