第2章60話:騎士の誓い



私が尋ねると、エドゥアルトが突然、片膝をついた。


まるで臣従の意を示すポーズだ。


そして彼は意を決したように言った。


「私を……あなたの騎士にしていただけませんか?」


「……!?」


一瞬、ぽかんとしてしまう。


な、何を言い出すんだ。この人は。


「ルチル様は、公爵令嬢としてだけでなく、一人の人間として心から尊敬すべきお方です」


こちらが唖然としていると、エドゥアルトは言う。


さらに続けた。


「最上級ポーションを生成するなど、まさに精霊の御業。そしてそれを、惜しげもなく民に振舞われる聖母のごとき慈愛。私は……心より感服致しました。だから、わが忠誠をあなたに捧げたく思ったのです!」


「いや、あの、ちょっと……」


「この身命を賭してあなたをお守りすると誓います。ですからどうか、お願いします! 私を、あなたの専属の騎士にしてください!」


エドゥアルトがこうべを垂れた。


冗談で言っているわけではないのだと、すぐにわかった。


――――専属の騎士になる。


それは、この世界では大変な意味を持つ。


なぜなら、騎士の誓いを立てた相手には、己の全てを捧げなければならないからだ。


自分の命を主のために使う。


いざというときには命を賭けて主を守る。


未来の可能性も、主のために捧げる。


理不尽な命令でも遂行する。


決して主を裏切らない。


他の主を作らない。


騎士団よりも個人を優先するため、騎士団も退団することになる。


……以上の多くが法的に定められているため、破れば死罪も覚悟しなくてはいけない。


大変な誓いなのである。


だから軽々しく、騎士の誓いなどを立ててはいけない。


この人のためなら死すらもいとわない……


そう心の底から思える相手でないと、後悔することになる。


エドゥアルトは、私のことをそのような対象だと認定してくれたのだ。


その気持ち自体は嬉しい。


ただ……


(ゲーム的に大丈夫なの、これ?)


エドゥアルトはゲームの重要キャラだ。


彼が本来、誓いを立てる相手は女主人公ラクティアである。


所詮脇役に過ぎぬルチルではない。


ここで騎士の誓いを受け入れたら、未来が激変してしまう可能性がある。


でも……。


(エドゥアルトが味方になってくれるのは助かるかも?)


エドゥアルトは強キャラである。


ゲーム終盤までずっとレギュラーとして使えるキャラであり、今後の成長率もピカイチだ。


味方として、かなり心強い。


そのとき、私はハッとする。


(いや……違う。そうじゃない。そういう問題じゃないよね)


ふと天を見上げた。


ゲームだの設定だの……ぐだぐだと考えるのは間違っている。


エドゥアルトの気持ちに応えるかどうかを、そんな計算づくで決めてしまうのか。私は?


こんなにまっすぐ気持ちを伝えてくれているのだ。


だったら、こちらも真摯な答えを返すのが誠意というものだろう。


「エドゥアルト」


私はその名を呼ぶ。


私はエドゥアルトのことが嫌いじゃない。


まあ、恋愛的には全く好きではないが……


人としては好ましいと思う。


彼にはまっすぐな正義感がある。


民のために剣を振るいたいと心から思っている。


それは騎士の誓いを立てても、きっと変わらないだろう。


だから。


「私はあなたが想像している以上にわがままで自由人です。今後、振り回されることは間違いないでしょう。それでも、私の騎士として仕えたいと望みますか?」


「望みます。二言はありません」


「わかりました。では――――」


私はアイテムボックスから剣を取り出した。


その切っ先を彼の肩に乗せる。


「あなたを騎士として認めます。我が騎士として、一生をかけて主に尽くすと誓いなさい」


「はい。誓います」


こうして。


エドゥアルトが私の騎士となった。





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