第2章56話:村長宅
このあと。
村長がやってきて、村人一同は解散となった。
エリーシャさんは全快したが、体力を失っていたので、今日一日は静養することになった。
エリーシャ父も、彼女に付き添って家へ戻っていった。
私たちは村長宅におもむき、お礼を言われた。
「このたびは村の者を救っていただき、本当にありがとうございました」
村長は老人であった。
この世界に、老人と言えるほど老いた者は少ない。
なにしろ異世界の人間は数千年も生きる。ほとんどの者は老いる前に死ぬ。
だから人間族で高齢者は少ないのだ。
この村長は、おそらく【旧人族】なのだろう。
旧人族とは人間族の先祖になったとされる種族で、寿命は200~300歳ほどである。
「いいえ。貴族として、民を守るのは当然のことですわ」
「しかし、聞けばあなた様は公爵令嬢だとか。ここは伯爵領ですから、我々はあなたの領民ではありますまい。それなのにエリーシャを救っていただき、感謝の念に堪えません」
この村長は、さすがに長生きしてるだけあって、物の道理をよく知っている。
たしかに、ここは伯爵領なので、ここの村人たちは私の民ではない。
私から見れば、他人の土地の領民だ。
ゆえに助ける義理はない……というのが一般的な考え方だろう。
ただ、そういう問題ではないと私は思う。
「では言い方を変えますわ。人として、人を助けるのは当然です。助けられる力があるのに、見殺しになんて出来ませんわ」
「なんとご立派なお考えか。あなたのような慈悲深いお方が村に来てくださって、本当に良かった。これはきっと精霊のお導きですな」
まあお導きではないと思うけど、精霊の慈悲があったことは、私だけが知っている。
シエラ様がいなければエリーシャは助けられなかった。
精霊の血液が手に入ったのは、シエラ様のおかげなのだから。
「それで、エリーシャさんを助けたときに使ったポーションについてですが……できれば、村に緘口令をしいていただけませんか?」
「ふむ……それはいかなる理由でございましょう?」
「あれは特殊なポーションです。存在が知られると、いろんな勢力に目をつけられるかもしれませんから、黙っていてもらいたいのですわ」
「なるほど。そういうことなら承知しました。エリーシャの恩人にご迷惑をおかけすることは致しません」
「有難うございます。あと、エリーシャさんを襲ったホッズボアについてですが」
「ああ……アレについては悩ましい問題ですな。最近現れて、周辺の森で暴れまわっているバケモノです。街の冒険者ギルドに討伐依頼を出したのですが、なかなか引き受けてくれる人もおりませんで」
「そのホッズボアは、こちらのエドゥアルトとフランカが退治しました」
「ええ!? それは本当ですか?」
村長が目を見開く。
二人が肯定すると、村長は感嘆のため息をついた。
「さようでございましたか。いやはや、あなた様がたにはなんとお礼を申し上げたらよいか」
「一応、アイテムバッグにホッズボアの死体を入れてありますから、お出ししましょうか?」
「是非、確認させていただきたい。ああ、できれば村人の前でお願いしたいですな。ホッズボアが討伐されたことを、皆にも伝えたいですから」
村長の要求に、私はうなずいた。
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