第2章44話:宿の夜
その日も野宿をした。
夜はウルフ肉、野草、キノコ、木の実、パン、そしてエドゥアルトたちが獲った魚など、豪勢な食卓となった。
たくさん食べて、テントの中でぐっすり眠った。
翌日。
晴れ。
東へ歩き続け……
途中で馬車を拾い、関所にたどり着くと、ミアストーン公爵領を抜けた。
隣のホーレン伯爵領に入る。
その最初の村、ノク村の宿屋で一泊する。
ここは牛乳が名物の村であった。
せっかくなので飲ませてもらったが、採れたての牛乳であり甘くて美味しかった。
さらに翌日、歩き続けてホーレン領都に辿り着く。
日も暮れかけていたので、宿屋を見つけて宿泊する。
1人1泊8万ディリンという高級宿だ。
たとえるなら貴族用の高級スイートホテルである。
1人ずつ別の部屋を借りた。
私は自分の部屋で、晩御飯を食べていた。
「んー……快適すぎますわね」
夜景が見える部屋。
窓際に設置されたテーブルに、豪華な料理が並んでいる。
羊肉。
高級野菜の胡椒スープ。
魚介と野菜の煮込み料理。
ふんわりした小麦パン。
果物のリンゴ。
そしてフルボディのような重厚ワイン。
さすが高級宿だ。
食事の品揃えが違う。
夜景と星空を眺めながら、ワインをたしなむのは風趣に満ちていた。
(旅先でこのような夜が過ごせるなんて、万感の思いだね)
屋敷で食べる豪華な料理とは、また違った情緒がある。
なんというか、旅情が胸にあふれている。
(冒険に生きるのも、悪くない)
そんなことを思ったとき、私は一つの疑問を抱えた。
(私は将来、どんな人生を送りたいのかな?)
自分の将来について、ふと考える。
あのいけ好かない第一王子と結婚して、王妃になる?
権謀術数うずまく王宮の中で、覇を競いながら長命な人生を終える?
有り得ない。
そもそも第一王子との結婚自体が願い下げだ。
せめてゲームのときと性格が違っていれば救いようがあったけど、あのぶんならゲームと同じクズだろう。
絶対に回避したい未来だ。
(なら実家を継いで、軍人として生きる?)
それもない。
異世界での私は、英才教育の結果としてためらいなく人を殺せるようになったが……
別に争いが好きなわけではない。
(商会の長として、経済人として生きる?)
悪くはないが、理想的ではない。
そもそも商会の仕事をアリアに丸投げしている時点で、人生を賭けてやりたいことではない。
「やはり旅人として生きるのが、一番幸せなのかしら?」
このゲームは、世界観がぶっ飛んでいる。
たとえば……
大地は球体ではない、とか。
地球は球体だが、この異世界の大地は球体ではなく、平らである。
その平らな大地のうえに、300以上の大陸が存在している……というのがゲーム設定だ。
地球ですら大陸なんて7つぐらいなのにね。
無駄に広大なスケールのゲームなのである。
でも逆に言えば、いくらでも旅する余地があるということだ。
いろんな大陸を巡って、さまざまな食や文化、風景を楽しむというのもワクワクする話である。
(でも人生を旅で終えるというのも、しっくり来ないかな)
世界一周旅行をするのは、一つの目標としていいかもしれないが……
それが人生の全てとなるなら、やはりモヤッとする。
そもそも、この世界では、人は100歳から地上で過ごしはじめ――――
数千年は生き続ける。
途中で病死したり殺されたりしなければね。
だったら、人生はこう生きる、と一つに決めなくてもいい。
その時々で、生きたいように生きればいいだろう。
(何にしてもやっぱり、殿下との婚約は邪魔になるよね)
王子と結婚したら自由な人生など送るべくもない。
いっそ婚約破棄できたら嬉しいのに……
最高級の食事を食べながら、私はそんなことを思うのだった。
―――――――――――
おしらせ:
先日、女主人公モノの新作を投稿したのですが、めちゃくちゃ好評をいただいております!
この作品は本作と波長が近く、読者のみなさんも気に入られると思いますので、よろしければ是非お読みください!
【ダンジョン配信者の私、バズる】
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