第2章32話:魔族



……このあと。


火を興せる【火魔法・小】


方角を知ることができる【方角魔法】


水泳ができる【水泳スキル】


潜水ができる【潜水スキル】


などの四つを購入した。


総額1億ディリンの出費だ。


やはりスキル石は高額だ。


でも、どれも必須のスキルだからなぁ。


「ところで聞きたいのですが、どうしてこんな場所で商売しているんですの?」


路地裏の奥で、高額商品の商売。


明らかに怪しい。


まあ、元がゲームの世界だから深く考えても仕方ないのかもしれないが……


何かただならぬ理由があったりするのだろうか。


「ふむ……」


スキル商人は答えるべきか悩む素振りを見せた。


が、最終的に答えてくれた。


「まあ、お客様はたくさん買ってくれましたし、特別にお答えしましょう。実は私、魔族なのです」


「魔族……」


「はい。魔族と人類は敵対関係ですからね。表立って商売できないのは、そういう事情によるものです」


なるほど。


ゲームではスキル商人=魔族という設定はなかった。


だからこの世界なりに上手い具合に理由付けがなされているのだろう。


とするとスキル商人は全員、魔族なのだろうか。


「スキル石は魔族領から持ってきたんですの?」


「はい。魔族は濃度の高いスキル石でしかスキルを習得できません。濃度の低いスキル石は、魔族にとってはただの石ころです」


「なるほど。つまりここで販売しているのは、魔族領において不要だとされた、濃度の低いスキル石ということですのね」


「そういうことでございますね」


魔族にとってはゴミでしかない低濃度なスキル石。


それを人間側に売りつけるだけで、これだけ大儲けできるならボロい商売だろう。


「ではもう一つ質問ですわ。あなたは人間に対して無害ですの?」


「無害ですね。最善を求めなければ、平和な暮らしはできますからね」


「最善……」


「魔族にとって最善とは、人類を殺すことです」


魔族の存在理由はソレだ。


人類を殺すために生きている。


それが魔族である。


何か目的があって人類を殺すならともかく、人類を殺すこと自体が目的の生物だからどうしようもない。


人類と魔族が分かり合えない理由はそこにある。


「ただし、全員が全員、人を殺すことを良しとしているわけではありません。殺せば敵対し、こちらが殺されるリスクも負うことになりますから」


「あなたは殺さないように気をつけているというわけですわね」


「はい。私はしがない商人として生きていければそれでいいです。殺し合いなんて真っ平御免ですから」


「そうですの。そこについては同意いたしますわ」


殺し合いなんて無いほうがいいに決まってる。


この世界では、そうもいかないことが多いから厄介なのだけど。


「質問に答えていただき、ありがとうございましたわ」


「いえいえ、こちらこそ。沢山購入していただき、ありがとうございました。またの御越しをお待ちしておりますよ」


私は礼を言ってから、その場を立ち去った。

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