第1章21話:アレックス視点2

<アレックス視点>


アレックスはルチルの名前が出て、一瞬、不愉快な気分になった。


しかしすぐにあることを思い出して、嫌味な笑みを浮かべた。


「そのルチルのことですが……母上はお聞きになりましたか? なんと錬金術師が適性だったとか。上流貴族なのに錬金術師とは、婚約者として恥ずかしい限りです」


「アレックス。そうしざまに言うものではない。彼女の錬金術は見事なものだぞ」


「なっ……!? ご、ご冗談を」


「冗談を言ったつもりはないが」


「あいつの錬金術が見事などと――――」


アレックスは途中まで言いかけて、口をつぐんだ。


母と言い争うつもりはない。


相手は女王。国のトップ。


家族とはいえ、万が一、不興ふきょうを買うことになったら大変だからだ。


アレックスは慌てて話題を変えることにした。


「そ、そういえば……! 母上の髪、今日は一段とお綺麗ですね。何か特別な処置でもなされたのですか?」


それはお世辞ではなかった。


客観的に見ても、ミジェラの髪は美しかった。


いつもより、何倍も。


まるでれたようなツヤがあり、宝石のような輝きを放っていたからだ。


その理由について、ミジェラは説明する。


「ああ、これか。お前も綺麗だと思うか? これはな、まさに話題に出ていたルチルのおかげなのだ」


「……は? ど、どういうことですか」


「彼女が錬金術で開発した、トリートメントなる商品を使うと、このように髪が滑らかになるのだ」


「なっ……そんな馬鹿な!」


「嘘ではないぞ? そこの女官たちも同じものを使っているが、見てみよ。綺麗だろう?」


女王に示唆しさされた二人の女官が、口々くちぐちに言った。


「はい。私もルチル様のトリートメントを使わせていただいております」


「髪にここまでうるおいが出るなんて……ルチル様は錬金術の天才でございますね」


アレックスは悔しさで拳をにぎめた。


自分が純粋に綺麗だと思った髪が、まさかルチルの手によるものだったなんて。


そんなのは、間接的にルチルを賞賛したのと同じことだ。


うっかり褒めてしまった自分をのろった。


「アレックス、お前も使ってみるがいい。今後、貴族のたしなみとしてトリートメントは必須になるだろうからな」


「な……!? わ、私がですか……っ」


ルチルが開発した商品を使うなど、絶対に御免ごめんだった。


だが、確かにあの髪ツヤは見事だ。


確実に流行するだろう。


そんな中、自分だけがトリートメントを使わないなんてことが許されるだろうか?


遠からず、使わずにはいられない状況になることは想像できた。


(おのれ……私にこんな形で屈辱を与えるのか。あの女は!)


別に屈辱を与えられたわけではないのだが、アレックスはルチルを敵視しつつあったため、そういう解釈となった。


「それにしても、錬金術にこのような可能性があったとはな」


ミジェラは自身の髪を撫でながら言った。


「貴族社会において錬金術師の地位は高くなかったが、見直しが必要かもしれんな」


この日から、少しずつ錬金術師の立場は改善されていくことになる。


一方、ルチルが女王から高く評価されていることに、アレックスはいまいましい思いをするばかりであった。



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