第1章20話:アレックス視点1

<アレックス視点>



昼。


アレックスは王宮の自室で悶々もんもんとしていた。


彼はこのところ鬱屈うっくつした悩みを抱えていた。


いや、怒り……といったほうがいいかもしれない。


その原因は、彼の婚約者ルチルにあった。






アレックスは王族だ。


王族という肩書きだけで、誰も彼もが敬意を向ける。


決してあざけるものなどいない。


しかしルチルは違った。


ルチルはアレックスを敬わない。


アレックスの命令を聞かないし、堂々と言いたいことを言ってくる。


彼にとって、生まれて初めていまいましく感じる女だった。






しかし最近行われた洗礼式で、朗報があった。


ルチルの適性が錬金術師だと判明したのだ。


錬金術師は貴族社会において不遇職。


それにルチルが認定されたのだ。


さぞ悔しがっているだろう。


己が劣等だと理解しただろう。


劣等だと自覚すれば、アレックスのことも少しは尊重するかもしれない。


なにしろアレックスの適性職は【大剣術家】。


騎士よりも偉い適性に選ばれたのだから。


そう思い、彼はほくそ笑んだ。






だが、違った。


公爵の屋敷を訪れて、ルチルに会ってみれば……


至極平然としていたのだ。


悲嘆ひたんしてもいないし悔しがってもいない。


むしろ錬金術師でよかったとさえ思っているようだった。


強がりではなかった。


そのことがアレックスの苛立いらだちをかきたてた。


そして彼女はやはり、当然のごとくアレックスを敬わなかった。


それどころか、物分かりが悪いなどと暴言まで吐いてきた。


許せなかった。


自分は王族だぞ?


何故ここまで尊大でいられるのだ。


あの女を、婚約者としてふさわしくないとさえ思えてしまった。







その夜。


執務室にて。


アレックスは、母にして女王であるミジェラと会話していた。


左右には二人の女官が控えている。


ミジェラは尋ねてきた。


「アレックス。2年後には大学受験が控えているが、勉学はぬかりなく行っているのだろうな?」


大学。


それは115歳から入学できる教育施設だ。


もちろんアレックスも王族として、大学を修めることが求められている。


2年後に王都にある【ダイラス魔法大学】を受験する予定である。


「もちろんです。問題なく行っています」


アレックスは答えた。


王族の英才教育は易しくない。


アレックスはそれに応えてきたつもりだ。


「この国の大学は全て実力主義。成績は常にランキング形式で公表される。つまり無様な結果を出せば、すぐに周知のものとなるわけだ。お前は王家の一員として、恥じない結果を出し続けなければならない」


「大丈夫です。必ず好成績こうせいせきを修めてご覧に入れましょう」


「そうか。期待しているぞ。ところで……ルチルとの仲はどうだ? 婚約者として上手くやっているか?」


ミジェラが尋ねる。

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