第1章13話:王城

<ルーガ視点>


「しかし最近、ルチルへの縁談が絶えん……」


ルーガがため息をつきながら言った。


トマトケチャップが流行したときから、縁談の申し出は増えていた。


しかしマヨネーズ、ドレッシングのブームにより、さらに縁談の数は急増した。


それだけ婚約することに価値がある、と判断されているのだ。


……ただ、公爵令嬢が相手だ。


実際に婚姻こんいんできる家柄は限られている。


けれどダメもとでも、とばかりに、家格かかくのつりあわない貴族からも縁談が持ち込まれていた。


「縁談を拒否する返事を出すのも面倒なぐらいだ」


それを聞いたラティーヌがなだめる。


「まあまあ、それほど娘に価値があると思われているのは、喜ばしいことではないですか?」


「それは否定しないが……」


ルーガがそう答える。


そこでラティーヌが言った。


「実は……王家からも縁談が来ているのですよ」


「なんだと!?」


「しかも第一王子……アレックス王子との縁談です」


ルーガは驚いた。


公爵家は王族の親戚しんせきという立場だから、王家との婚姻を結ぶことは可能である。


しかし、王家のほうから縁談が来るというのは珍しいことだった。


「それほどルチルの価値を高く見積もり、将来性にも期待を寄せている、ということでしょう」


「そこまで高く評価されているとは……」


ルーガは改めて娘の実力を再評価した。


そして言った。


「王家からの縁談なら、こちらからも望むところだ。前向きに返事をしたほうがいいな」


「ルチルを王妃にえるのですか?」


「問題なかろう」


なにしろ相手はアレックスだ。


アレックスは第一王子ではある。


しかし才能は凡庸ぼんようであり、未来の国王となるのは厳しい。


そうなればルチルを女王、アレックスを夫……つまり王配として位置づけることも不可能ではないのだ。


そこまで上手くいかなくとも、アレックスを傀儡くぐつにして王家を操るのもアリだ。


この婚姻は、受けたほうがいい。


(ルチルを女王にできれば、わが家の権勢けんせいは揺るぎないものとなる)


ルーガはほくそ笑んだ。


夫の思惑を察したラティーヌは肩をすくめるのだった。





<ルチル視点>


その年の夏。


私は112歳になっていた。


7月。


晴れ。


母上とともに、公爵領を離れ、王都を訪れていた。


高級馬車に乗って、王城へと入城にゅうじょうする。


華やかな廊下を通り、王宮の応接室へ。


そこで待っていたのは、2人。


――――1人は、女王陛下ミジェラ。


豪奢ごうしゃなドレスに身を包んだ女性。


髪は大自然をしたような緑のロングヘア。


目は黄金の色。


右手には魔法の王杖おうじょうを持っている。


眼光はたかのごとく静謐せいひつ


一目見ただけで女傑にょけつとわかるオーラをまとっていた。


――――1人は、第一王子アレックス。


母ミジェラと同じ緑色の髪。


目も黄金の色だ。


どこか刺々とげとげしい印象を受ける態度だ。


少しあごを上げて、こちらを見下ろしているような姿勢である。


(王城に呼び出された先で、女王と第一王子か……)


私は……


何を話されるのか察した。


まずは互いに挨拶を行った。

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