第1章9話:販売開始

さて、商会は設立しても店舗はまだ保有していない。


店を買うためには当然、お金が必要だ。


いや店だけではなく、トマトケチャップの製造にも費用がかかる。


これらの資金を確保するため、私は父上から借りた。


その金額は、ざっと1億ディリンだ。


1ディリン=1円という価値なので、1億円の借金をしたことになる。


その資金を、そのままアリアに譲渡じょうとした。


そして彼女は1億ディリンを使い、原材料の仕入しいれから商品製造までのラインを整えた。





――――トマトケチャップには、塩・砂糖が使われている。


ところが、トマトケチャップは安価に製造できる。


なぜなら、この世界では塩・砂糖も安価だからだ。


塩草しおくさ砂糖草さとうくさという魔法の草がそこらへんに生えており、これを加工すれば、塩と砂糖になる。


だから塩と砂糖が大量に採取でき、低価格を実現できるのだ。


なのでそれらを材料とするトマトケチャップの製造もまた、非常に安価で済む。


貴族だけでなく庶民にもお求めやすい価格で販売することができるし……


量産も可能というわけだ。






そうして時は流れ、3ヶ月後。


ついに、領都で店を開くことになった。


トマトケチャップだけを販売する専門店である。


開店当初は、閑古鳥かんこどりが鳴いていた。


しかし、ぽつぽつと客足きゃくあしが増え、やがて爆発的に人気が広がったようだ。


仕事は何もかもアリアに丸投げしていたので、私は屋敷でごろごろしていただけだ。


けれど、そんな私の耳にすら、店の評判が聞こえてくるほどだった。


塩、砂糖、胡椒こしょうの次に来る、第四の調味料――――


それがトマトケチャップであると、世間ではもてはやされるようになった。






屋敷の自室。


夕方。


私はアリアと売上について話し合っていた。


「上手くいきましたわね、アリア。この成功はあなたのおかげですわよ」


するとアリアは顔を横に振った。


「いいえ。ひとえにお嬢様が開発したトマトケチャップのおかげでございます。商品の質が良いので、私はそれを後押しするだけで良かったのです」


たしかにトマトケチャップは売れ筋商品だろう。


しかし製造から販売、宣伝までをぬかりなくおこなったのはアリアの手際てぎわだ。


完全委託方式は、実務担当者が有能でなくては上手くいかない。


アイディアを出す者と、それをプロデュースする者の両輪りょうりんそろって、はじめて成功するのだ。


「アリア。あなたとなら商会をどこまでも大きくできると確信が持てましたわ。これからも商会のために力をふるってくださいまし」


「勿論でございます。ご期待にえるよう、最善を尽くします」


アリアはそう意気込んだ。


この調子で稼ぎ続ければ、スキル石の購入も可能になってくるだろうと、私は思った。



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