第1章8話:ルチル商会

半月後。


昼。


晴れた午後。


私はアリアとともに、商業ギルドに出かけることにした。


商会を設立するためである。


高級馬車に乗って、屋敷を出る。


そこから、雑木林に囲まれた通路を3分ほど進むと領都にたどり着く。


公爵領都こうしゃくりょうとは人口3万人ほどの大きな都市。


赤い屋根の家々が立ち並ぶ、ファンタジーな街並み。


大通りを挟んで露店や商店が開かれている。


町人まちびとや行商人、旅人や観光客、冒険者や衛兵など、さまざまな人の姿があった。


そんな領都のメインストリートを、馬車に乗って駆けて行く。


馬車の窓から眺められる街並みは、にぎわいがあり、繁栄はんえいしているのがうかがえた。






商業ギルドは、そんな領都の中央広場に面した建物だ。


中央広場にたどり着くと、馬車から降りる。


そのまま私とアリアは、商業ギルドの居館きょかんに入場した。


商業ギルドのエントランスに入ると、さっそくカウンターに向かった。


受付嬢に話しかけ、自分の商会を設立する手続きを行う。


説明を聞いたり書類を書いたりすること1時間。


商会の設立が完了した。


名前は【ルチル商会】。


商会長はもちろん、私。


副会長は、アリアとなった。


完全委託方式なので、実質的にはアリアが商会の舵取かじとりをすることになる。


私はアイディアや経営の指針を提示するだけで、実務としては何もしない。


つまりアリアに丸投げというわけだ。






しかしアリアは乗り気だった。


帰り道の馬車で、アリアは言った。


「私、いつか商売をやってみたいと思っておりました」


アリアは嬉しそうな声で続ける。


「ですから、このような機会を用意していただいたルチル様には、とても感謝しています」






アリアはこの日をもって、副メイド長を辞任することとなった。


これからは商会の仕事に専念してくれるそうだ。


彼女は優秀だ。


私がアリアを抜擢ばってきした理由は、単に裏切らないメイドだからというだけではない。


きっと彼女なら商会を盛り上げてくれるだろう。


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