第1章3話:ラティーヌ視点

<ラティーヌ視点>


ルチルが105歳になった。


彼女の母であり、公爵家夫人であるラティーヌ・ド・ミアストーンは、その成長の目覚ましさに驚嘆する日々だ。





ルチルには数名すうめいの家庭教師をつけて英才教育をほどこしている。


ミアストーン公爵家の英才教育は決してやさしくない。


公爵は貴族の中では最上さいじょうの爵位だ。


公・侯・伯・子・男の階級の中ではトップ。


王族につらなる家柄いえがらとしてもくされる、いわば上級貴族である。


それゆえ、実力は一流であるべしという方針のもとで、厳しい教育カリキュラムが組まれている。


血筋にあぐらをかいてはいけない、


血筋に見合った能力を身につけなければならない……というのが当家の信条なのだ。





しかしルチルは、その英才教育を難なくこなしていた。


特に学問に関しては、彼女にとって簡単すぎるようで、実力をもてあましているようだった。


ルチルは、飛び抜けて頭が良い。


もしかすると既に、母であるラティーヌよりも。




そのことを実感したのは、ルチルがある質問をしてきたときだった。


実はルチルはよくラティーヌに、世の中の様々なことを尋ねてくる。


国について。


歴史について。


この世界について。


魔法や魔力について。


家庭教師に学ぶだけでは物足りないとばかりに、そういった質問をいくつもしてくるのだ。


その質問内容は高度なものも多い。


……ある日のことだった。


ルチルはいつものごとく質問してきた。


彼女の質問はこうだった。


「この世界の大地は丸く閉じているのですか?」


つまり、大地は球体なのか? という質問であった。


ラティーヌはそれに対して「大地は平らですよ」と答えた。


大地が平らであることは、この世界を管理する精霊が認めた事実だ。


するとルチルはこう尋ねた。


――――大地が丸いのではなく、平らであるなら、太陽や月はどうして巡っているのですか?


と。


ラティーヌは返答にきゅうした。


質問の意味が理解できなかったからだ。


しばし考えて、ようやく何が問われたのかを理解した。


しかし結局、答えを知らなかったので「わからない」と返した。


するとルチルは深く追及することはせず、別の質問を重ねてきた。


「では、大地の端っこはどうなっているんですか?」

「空の上をどこまでも昇りつづけたら何があるんですか?」

「夜に浮かぶ月や星は、どうやって空に浮かんでいるんですか?」


ラティーヌはぽかんとしてしまった。


自分でも、そこまで考えたことはなかった。


ルチルは単に理解力があるだけではない。


驚くべき思慮しりょの深さがある。


それに知的好奇心が、とても高い。


何気ない現象や原理について、詳しく知りたがるクセがあるのだ。


(ルチルには、私たちには見えないものが見えている。物事の深い部分を見つめる洞察力がある)


ラティーヌはそう確信している。


ルチルの思考力は、既に105歳という域をはるかに超えているのだと。


彼女は逸材いつざいだ。


ラティーヌは、いずれ娘が大成たいせいすることを疑っていなかった。

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