第8話 冒険者ギルド

「ここが冒険者ギルドか~」


 教えてもらった冒険者ギルドの建物は、普通の家三軒分の敷地に建つ三階建ての建物。ファンタジーならこういう場所が、一つや二つぐらいないとね。

 期待半分、怖さ半分で二つある扉の一方を覗くと、そこは飲み屋のような場所だった。


 どうもここは違うようだと、別の扉から入る。中には四人掛けのテーブルと椅子が六組ほどあり、その奥に受付窓口が三ヵ所あった。窓口の前には何人か並んで順番を待っている。

 でも、リビティナは手持ちの牙を持ち込みに来ただけだから、その横にある大きなカウンターの『依頼品引き取り』と書かれた場所だろう。


 カウンターの向こう側にいるのは、厳つい顔のトラ獣人。うわ~、なんだかあの人怖そう。でももう一人の猫族の人は対応中だし、トラ族の人がこっちを睨んでいるよ~。恐々ながらリビティナは牙を見せて尋ねてみた。


「あのう、これを引き取ってもらいたいんだけど、お金になるでしょうか」

「あんたは冒険者カードか商業ギルドのカードをもっているかい」

「いいえ、この町に来たばかりで、露店の人に聞いたらここで買い取ってもらえると聞いたんだけど……」

「巡礼者みたいだが、こんな物を売りに来るとは、路銀が尽きちまったのかい。ちょっと待ってな」


 そう言って奥の扉の中に入って行った。しばらく待っていると後ろから猫耳の女の人に声を掛けられた。


「困っていると聞きました。お力になれると思いますので、こちらに来ていただけますか」


 横の受付カウンターにいる人と同じ制服を着た人、受付嬢みたいだ。さっきの厳ついトラ族の人が話を通してくれたんだね。顔に似合わず優しい人だったんだ。その受付の人に別の部屋へと案内されついて行く。


「当ギルドでは冒険者でない方の持ち込み品は取り扱ってはいませんが、この牙の代金で冒険者として登録なさって、別の依頼品を持ち込むと言うのはどうでしょうか」


 冒険者として登録するだけで銀貨一枚が必要だそうで、この牙は銅貨五枚、銀貨半分の値打ちしかないそうだ。それでもお金に困っている巡礼者なら登録してカードを作ってくれると言っている。冒険者カードがあればこの町の出入りも自由にできるそうだ。


「それならお願いします」

「冒険者の方は年会費として、最低ランクの方は銀貨二十枚が必要となります。それも分割で支払えるようにしておきます。依頼をこなして得た報酬から一部を天引きで徴収させてもらいますが、それでいいですか」

「はい、それで結構です」


 これは良かったと二つ返事で答えた。ちなみに手持ちの銀貨を見せたけど両替もできないお金らしい。

 鋳つぶして銀を取り出せばお金に変えられるそうだけど手数料が相当かかるみたいだね。お金に困った可哀想な巡礼者としてリビティナを見てくれたようで、色々と親切に教えてくれた。


「では登録するお名前と、種族名をお願いいたします」


 種族名と聞かれて、どう答えようかと悩んでしまった。ヴァンパイアと正直に言うと恐がられたり、騒ぎになったりするかもしれない。隣の国から来たヴァンピーノ族だと答えた。珍しい種族で字が分からないと言うので、自分で登録用紙に大陸の共通文字でヴァンピーノと書いた。


「文字の読み書きができるのですね。失礼いたしました」


 この国では識字率が低いようだね。そういえばさっきの引き取りカウンターの上にあった看板も、文字の横に毛皮と草のマークみたいな絵が書かれていた。絵文字でみんなにも分かるようにしているんだろうね。


 冒険者はランク分けされていて、最初はEランクのLV.1から始めるそうだ。依頼を受けて成功すると評価されて、一定量でレベルが上がっていくらしい。LV.4の上になるとランクDのLV.1にランクアップされると説明してくれた。


 まあ、ボクの場合、目的の金具が買えるだけの報酬がもらえばいいから、ランクとか評価は関係ないけどね。


 手続きも終わって一通りの説明を聞いた後は、受付で冒険者カードをもらうだけだ。カードができるまでどんな依頼があるのか掲示板を見てみると、ランクに応じた依頼が貼り出されている。リビティナは初心者のEランク。その一つ上のDランクまでの依頼が受けられる。


「あっ。この魔獣は見たことがあるぞ」


 狼型の魔獣で、洞窟近くの森にも住んでいて前に狩ったことがある。冒険者カードができたと呼ばれたので、受付窓口に行くついでにこの依頼も受けようと依頼票を持って行った。


「リビティナ様、初めての依頼でこれは無理だと思います。まずは薬草の採取からお受けになった方がいいと思いますよ」

「でもこれ、Dランクだよね。受けれるんじゃないの?」

「それはそうなのですが、普通は三人か四人のパーティーを組んでする依頼なんですよ。登録してすぐではパーティーも組めないでしょうから……」

「一人でも大丈夫だよ。前にも森でこの獣を仕留めたことがあるんだ。これにするよ」

「どうしてもと言うなら仕方ありませんが、もし駄目ならキャンセルなさってください。評価は落ちてしまいますが、怪我するよりましですので」


 狼三匹だけだし、これなら簡単だよ。報酬も銀貨十五枚もらえるし年会費の足しにはなりそうだ。

 じゃあ、行ってくるよとリビティナは意気揚々と冒険者ギルドを後にした。

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