転生ヴァンパイア様の引きこもりスローライフ。お暇なら国造りしませんか

水瀬 とろん

第1部

第0.0話 プロローグ

 なぜ私はこんな世界に生まれて来たんだろう。未来も何もないこんな薄汚れた世界に……。

 両親は私にこの世界で生きる事のすばらしさを説いて、この部屋から出てくるように言ってくる。外には私を気にかけてくれる友人も、先生と呼ばれる素晴らしい人達もいるからと……。


 そんなの知らないわよ。表面的な事ばかり取り繕う友人、自分の地位だけが大事な大人達。一体あなた達はこの未来のない世界を救おうとした事があると言うの? 堕落した人達が大量生産されるこの世の中、そんな者ばかりがいる世界なんて壊れてしまえばいいんだわ。


 そして私はこの部屋で書物を読みふける。

 本は先人の残した遺産。歴史書、伝記、小説……。現代と違う人々に思いを巡らせて私は過ごしていた。



 ――そんなある日。

 ふとモニターに映る番組を見た。そこには本の中にしかない想像上のドラゴンの姿が映し出されていた。そんなファンタジーな世界がこの世に実在すると、出演していた研究者が熱弁を振るっている。

 その研究者は実在する事は確かだが、我ら人類がその世界に行くことはできないと言う。そこは遥か時空の彼方にあると……。


 多分、こんな物は合成された映像だわ。遥か遠くの上空から撮ったような不鮮明な映像。もう少しうまく作れなかったのかしら。

 でもドラゴンの形をした生き物が動き、炎を吐いているのは分かる。赤外線映像だとか温度分布のデータを重ね合わせて、これが生き物であると研究者は断言している。


 もし本当にそんな世界があるのなら、私は行ってみたい。でもそんな世界に渡る方法は無いと研究者は言っていた。

 そうだわ、ファンタジー小説に転生とか生まれ変わりというのがあったわ。私にもそんな事ができないかしら。昔の人は不可能を可能にしてきたのよ、私にだって……。


 とはいえ、死んで生まれ変わりと言うのを実験するわけにはいかないわね。生きたまま何とかならないかしら。

 小説だと召喚という方法や異世界ゲートを潜るというのがある。ファンタジー小説だから魔術的なものを使う方法も書かれていたけど、私が行きたいのは番組で言っていた現実にあると言うあの世界。


 どのみち今のこんな世界で生きる価値は無いわ。私の全てを賭けて別の世界へ行く。必ず行って見せるわ。


 そうね、まずは番組に出ていた研究者を尋ねて、その人に聞いてみる事からだわ。私は外に出る決意をして、長く閉ざされていた部屋の扉を開いた。

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