第3章〜ピグマリオン効果・教育心理学における心理的行動に関する考察〜⑮
ネット・スターの当惑〜
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土曜日のイベントのことで、
亜矢ちゃんにお礼をしたいです
放課後、予定はありますか?
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午後の授業が始まる前、
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執事喫茶の小物を買うために
光東園駅の100均に行くから
その時で良ければ、校門で
待ち合わせをしない?
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と、返信していた。
執事喫茶の衣装の確認が終わったので、わたしとリコは、予定どおり、必要な小物を駅前の100均ショップに買いに出かける。
柚寿ちゃんに、中等部と高等部が共用している校門の前に来てもらえるか確認したところ、
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クラスの学祭準備をしてるので
10分ほど待ってもらえます?
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と、返信のメッセージが届いたので、「OK!」のスタンプを返し、校門の脇で、リコと一緒に彼女を待つことにする。
わたしは、柚寿ちゃんを待つ間に、リコの話しを聞いておこうと考えた。
「ねぇ、リコ。さっき、教室で寿太郎のことで話しがあるって言ってたけど……いま、聞かせてもらっても大丈夫?」
わたしが問いかけると、親友は、「そうだね……」と、つぶやいたあと、ポツリポツリと語りだした。
「寿太郎くん、このひと月で、すごく印象が変わったよね……今日なんか、みんな、彼のことを話してるし……でも、私は、みんなが寿太郎くんのことを話してるのを聞くと、ちょっと、モヤモヤした気分になるんだ……」
リコが、口にした
わたしの表情筋が微かに動いたことを察したのか、友人は、慎重に語り続ける。
「やっぱり、亜矢も気になってた? みんな、寿太郎くんのヘアスタイルやファッションみたいな
ふだんは、あまり自己主張をしないリコにしてはめずらしく、自分の考えを積極的に述べていることに、彼女の気持ちの強さを感じる。
そして、彼女が語ったことは、わたし自身が強く感じていることでもあった。
リコの見解に同意していることを示すため、うんうん、と力強くうなずくと、緊張がほぐれたのか、彼女は、表情を緩ませて、言葉を続けた。
「もちろん、亜矢のアドバイスが的確だったっていうのはあると思ってるよ! だけど、みんなが彼に対して言ってることには、私は素直に賛成できない……ねぇ、亜矢は……亜矢は、寿太郎くんのことをどう思ってるの?」
会話を始める前から、寿太郎の話題になることを予想していたけれど、リコから唐突に突きつけられたその問いに、わたしは、少し取り乱す。
深津寿太郎のことをどう思っているのか――――――?
その問いは、ここ数日、わたしの頭を悩ませ、モヤがかかったような気分が晴れない理由の大半を占めているモノでもあった。
ナミと罰ゲームを賭けた『学院アワード』での人気投票、そして、なにより、わたし自身がふたたびインフルエンサーとしての存在感を示すために企画した、冴えない男子のイメチェン計画。
彼、深津寿太郎は、その計画のために選んだだけの存在だったハズなのに……。
彼と一緒に行動して、彼の話しを聞く度に、自分の中で、その存在がどんどん大きくなっていることに気づき、その度に、わたし自身の彼に対する罪悪感も大きくなっていった。
とくに、土曜日のステージ上で、わたしが立ちすくみそうになったとき――――――。
同時に、ネット上での自分の立場を取り戻したり、元カレやその彼女を見返すために、彼を利用しようとしていた自分自身の性格の
寿太郎のことをどう思っているか――――――?
いまのわたしが感じていることは、
「自分は、彼に相応しい人間ではない」
「彼のそばには、居ない方が良い」
ということだった。
寿太郎のように素直で真っ直ぐな性格の人間には、きっと、リコのような他人を気づかえる優しい性格の女子が――――――。
「リコの言うとおりだね……たしかに、みんな寿太郎の外見の変化しか気にしていない。でも、わたしは、寿太郎のがんばっている姿や、みんなにまっすぐに物事に取り組む姿の方がカッコいいと思う」
リコの質問に答える前に、そういったあと、わたしは、自分が感じていることを伝えようと決意した。
「彼のことをどう思っているかって言うとね……わたしは、もう寿太郎のそばに居ない方が良いと思ってるんだ……寿太郎みたいに素朴で純粋な性格の男子には、リコみたいな優しい性格の女の子が向いてるよ」
自分自身でたどりついたその考えを口にするのに、なぜだか、悲しさがこみ上げてきたが、なんとか、その感情を表情には出さずに笑顔で取り繕うことができたんだけど……。
わたしが一番たいせつにしたいと思っている親友は、
「ちょっ、ちょっと、亜矢! なに言ってるの?」
と、心の底から驚いた、というようすで、ふだんの彼女からは想像もできないくらい大きな声をあげる。
「なにって……わたしが、寿太郎に近づいたのは、ナミとの罰ゲームを賭けた『学院アワード』での人気投票と、なにより、わたしが、《ミンスタ》で存在感を取り戻せるように計画したためだもん!」
だから、もう、寿太郎のそばには居られないよ――――――。
続けて、そんな言葉を発しようとした瞬間、
「
リコにも負けない声のボリュームで、わたしを詰問するような声が校門前に響き渡った。
突然のことに、驚いてその方向に目線を向けると、声の主は、待ち合わせの約束をしていた寿太郎の妹さんだった。
「ゆ、柚寿ちゃん……」
動揺を隠せず、声を発するわたしに対して、彼女は
「イイ人だって思って、お礼をしようと思ってたのに……最低……!」
と、言葉を残し、校門から走り去って行く。
寿太郎と同じくらいに親近感を覚えていた彼の妹に事実を知られたショックと、自分自身に対する嫌悪感で呆然としていたわたしは、すぐに彼女を追うことができないでいた。
翌日から、深津寿太郎は、わたしたちのクラスに顔を出すことはなかった――――――。
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