第1章〜元カレを見返すためにクラスの三軍男子をスパダリに育てることにします〜⑩

 自分たち高等部の花形クラブである、アメフト部へのスカウト活動も早々とあきらめたわたしたちは、情報系・理科系・文化系のクラブに的を絞って勧誘活動を行うべく、グラウンドから各クラブの活動拠点になっている特別教室棟へ向かうことにする。


「亜矢、体育会系以外のクラブって、どうするの? 文化系の部活とかは、女子の部員も多いよ?」 


 教室棟に移動しながらたずねるリコの問いかけを耳にしたわたしは、彼女に返答しつつ、


「う〜ん、なるべく女子が少なそうなクラブに行ってみようか? ナミ、この条件で思い当たるのは、どの部かな?」


と、ナミにも質問を振る。


「そうだな〜。女子が少なそうな部活といえば、コンピ研とか?」


「コンピ研って、コンピューター研究会のこと? そのヒトたちって、どんな活動してるの?」


 ナミの返答に対して、わたしの代わりにリコが質問を重ねた。


「ウチが聞いたところによると、県がやってる総合文化祭の文化合同発表会ってのに、ゲームやイラストを出展するらしいよ〜。あと、運動部系と違って、三年の部員もまだ残ってるハズ」


「わたしたちと同じ三年も残ってるんだ! それは、都合が良いかも!」


 ナミの言葉に、そう反応を返すと、再びリコがたずねる。


「三年生だと、なにかイイことがあるの?」


「うん……実は、今回の文化祭向けのイメチェンも含めて、これからは、中高生じゃなくて、現役大学生か、大学デビューを目指す高三生こうさんせいをターゲットにした発信をしていこうかな、って考えてるんだ」


「すご〜い、亜矢! もう大学のことを考えてるんだ! さすがだね〜」


 ニコニコと、微笑みながら、称賛の言葉をかけてくれるリコに、わたしは、「あ〜、まぁね〜」と曖昧な苦笑いを浮かべながら、返答するしかなかった。

 わたしが、SNSによる情報発信のターゲットを中高生から大学生にシフトしようと考えているのは、もちろん、半年後に迫った、大学進学を見据えて――――――ということもあるんだけど……。


 しばらくの間は、古都乃ことのさんから、収入に結びつく商品の提供を受けることができないだろうう、という現実的な判断からだった。


 仮に、数ヶ月で現在の汚名を返上し、かつて(……と、言っても先週末まで)の名誉を取り戻したとしても、そのとき、自分たちには、もう高等部卒業の日が迫っているはずだ。

 それならば、古都乃さんの言うように、自分よりひとつ下の学年のこと、白草四葉しろくさよつばさんに、中高生向けのを回してもらっても構わない。


 そうして、自分は、半年〜一年後を見据え、現役大学生や大学デビューに気合を入れたいヒトたちに向けた情報発信を行い、少し早めの路線変更をしようと考えたのだ。

 悲しい敗北宣言でもあるけれど、現実的な手段としては、悪くない考え方だと自分では思っている。


(もっとも、友人や周りの人たちに、話せる内容ではないけど……)


 そんなことを考えながら、特別教室棟の階段と廊下を進んで行くと、いつの間にか、コンピューター研究会の活動拠点であるコンピュータ室に到着していた。

 ドアをノックしてからしばらくすると、引き戸のドアが開けられ、部員らしき男子生徒が応対する。


「はい、どちらさん?」


 入り口で来てくれたその男子のことは、学年集会などで見覚えがあるような気がしたので、


「わたしは、一組の瓦木亜矢かわらぎあや。あなたも三年生だよね?」 


そうたずねると、コンピ研の部員は、無愛想な顔つきで、


「あぁ……コンピューター研究会で部長をしてる小伏こぶし だ」


と返答し、さらに不信感まる出しの表情で、うさん臭い人物を相手にするような目つきで聞いてくる。


「瓦木さん、うちの部になんの用なの?」


 小伏くんの言葉のあとには、


「部長〜、誰ですか〜?」


「まさか、うちの部に女子生徒が来るとか!?」


「ついに、我々コンピ研にも、備品のフルスペックPCを狙う相手が出てきましたか!?」


などなど、コンピュータ室の中から、次々と声が聞こえてきた。

 その反応に、心が折れそうになりながらも、なんとか笑顔でとりつくろいながら、相手に、と思われないギリギリのレベルで小首をかしげて、最後は、ややうれいを帯びた表情で、たずねてみる。


「いま、わたしのSNSで、同級生の美容意識について調査してるんだ! 良かったら、コンピューター研究会の人たちにも、調査に協力してもらいたいんだけど……ダメ、かな?」


 すると、コンピューター研究会の部長は、ほおを赤らめ、明らかに動揺しながら、


「そ、そういうことは、正式に文書にしてから申し出てくれないか? もちろん、紙ベースじゃなく、オンラインで閲覧できるようにしてほしい。確認しだい、こちらから調査に応じるかどうかを回答するから」


と、早口で語り始めた。


「あ〜、いや、そんなに堅苦しく考えてもらう必要はないから……」


 彼の一方的な語り口に困惑しながら、文書の作成という面倒ごとをやんわりと断ろうとすると、


「それなら、オンライン上で作成できるアンケートを利用してみたら? Googleフォームの使い方は、情報の授業でも習っただろう? もし、わからないことがあるなら、自分たちコンピューター研究会に聞いてもらえば……」


コンピ研の部長氏は、再び、こちらに有無を言わせない勢いで語り続ける。

 彼の言動に、これ以上、コミュニケーションを続けることが難しいと判断したわたしは、


「あはは〜……そだね〜……考えとく〜」


貼り付いたような笑顔のまま返答したあと、


「それじゃ、文書が出来たら、連絡させてもらうね〜」 


と、コンピ研の連絡先を確認することもないまま、コンピュータ室を離れることにした。

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