第1章〜元カレを見返すためにクラスの三軍男子をスパダリに育てることにします〜⑨

 その日の放課後――――――。


 わたしは、ナミとリコと一緒に、プロデュースする男子のスカウトをするべく、学内の部活訪問ツアーに出発する。

 スカウト活動に入る前に、わたしたちは、スカウトする男子の属性について、大まかなを付けていた。


「ウチらの学校の男子って、私学だけあって、基本的にそこそこファッション感度の高いヤツらが多いじゃん? けど、そん中でも、そういう方面に疎いのは、部活の制限で、そのテのことに手を出せない体育会系か、元から、そういうことに興味を持ってなさそうな情報系や理科系、あとは文化系の部活に所属してる連中だね」


 幅広い人間関係から、校内における対人関係やそのヒエラルキーに関して、独自の情報を持っているナミの見解は、わたしとリコを納得させるのに、十分な説得力を持っていた。

 ただし、

 

「じゃあ、さっそく野球部から行ってみよう!」


というナミの先導には、わたしたちふたりで、同時に疑問を投げかける。


「「えっ!? なんで野球部?」」


「ウチが見るに、三年での引退まで、一番オシャレ感度が低いメジャー部活と言えば、野球部だからね。WPCだっけ? それに出場するって言われてる二刀流の野球選手も、高校時代は、イモ男子だったらしいし……」


(WPCって、なんだよ!? ベースボールは、どこに行った?)


 ナミのいつもの天然ぶりに、わたしがツッコミを入れる前に、天然発言以上に問題ある言動に対して、リコが素早く、反応する。


「ちょっと、奈美! イモとか、そんなこと言っちゃダメだよ!!」


「たしかに、いまのは、日本中を敵に回しかねない発言だわ……」


 注意したリコに、わたしも同調する。


「え〜、だって客観的事実じゃん?」 


 ナミは、ブ〜ブ〜と文句を言うが、この空気の読めなさっぷりは、各クラブの部員たちと話しを進めるときに、注意を払っておかないといけない。

 そんなことを考えながら、硬式野球部が練習しているグラウンドに到着し、見学しようとすると、二年生の女子マネージャーが、声を掛けてきた。


「あっ、三年の瓦木かわらぎ先輩ですね! こんにちは! 野球部マネージャーの朝倉です。今日は、何か御用ですか?」


「えぇ! ちょっと、練習のようすを見せてもらったあと、野球部のヒトたちに聞かせてもらいたいことがあってね……」


「そうなんですか? いまは秋季大会の期間中で週末の試合に向けて、みんな気合が入ってるところなんです。去年は、夏の県大会で決勝まで勝ち残ったのに、今年の夏は、一回戦負けだったので……『三年の先輩の悔しさを晴らすんだ!』って、一年生も二年生も、がんばってるんですよ」


 こちらの適当な返答にも、朝倉さんは、結構なあつで、熱心に部の内情を語ってくれた。


「そ、そうなんだ……実は、わたしがSNSで公開してる動画で、今度、男子向けの制汗剤の特集するんだけど……野球部のみんなって、制汗剤に気を使ってるイメージがあるから、その意識調査をさせてもらおうと考えてるんだ。――――――だけど、練習のお邪魔みたいね……?」


 最後は、遠慮がちにたずねてみると、マネージャーの下級生は、食い気味に、こんな申し出をしてくれた。

 

「そう言うことだったら、私が質問と回答を取りまとめましょうか? 部員のグループLANEで、質問すれば、みんな、すぐに答えてくれると思いますし!」


「そ、そう……ありがとう! でも、野球部の顧問の先生とか、監督さんにも、許可をもらった方が良いかもだし……もし、正式に決まったら、朝倉さんにも連絡させてもらうね」


 野球部の体質を反映しているのか、続けて快活な答えを返してくる朝倉さんの勢いに、異様なプレッシャーを感じたわたしは、早々と会話を切り上げ、見学を引き上げることにする。


「わかりました! よろしくお願いします」


 ハツラツとした表情で返答する彼女に対して、貼り付いたような笑みで、「それじゃね」と、返すのが精一杯だった。

 その表情のまま、少し離れた場所にいたナミとリコのところに戻ると、ふたりは、苦笑いを浮かべながら、出迎えてくれた。


「おつかれ、アヤ……いきなり、撃沈みたいだね〜」


「マネージャーのコが居る部活は、男子部員と話す前に、気をつかわないとダメみたいだね……」


 わたしは、ありのままの現実を受け止め、ふたりの言葉を肯定するようにうなずく。

 

「女子マネの存在を頭に入れてなかったのは、反省点ね。彼女たちに配慮しないで男子部員に近づいたら、速攻で、女子に悪評が広まるよね……」


 グラウンドをあとにしながら、ふたりに声をかけると、ナミは、同意したようにうなずきながらも、唐突に、自身の見解を披露し始めた。


「自分の性格が悪いことは、自覚してるんだけど〜。ウチ、女子マネになるコたちって、なんか苦手なんだよね〜。オトコあさりが目的で、チヤホヤされたいだけなんじゃないか、って思うし……『なんでマネージャーになったの?』と聞いたら、たいていが『世話好き』だって答えるけど、それなら、介護ボランティアでもすれば良いじゃん? 自分の時間削ってまで、オトコに近づきたいという気持ちがわかんない! だいたい、女子が、オトコの世話するのが当たり前ってことになるのが意味わかんない!」


 突然、マシンガンを乱れ撃つように、女子マネ批判を開始したナミに対して、リコがいさめようとする。


「いや、それは……それぞれ、みんな色んな考えがあるから……」


 ふたりの会話を聞きながら、わたしもリコに同意する。


「そうだね……まあ、世の中には色々な感覚の持ち主がいるし、そのヒトたちは、『自分とまったく違うトコロに価値観を見出したんだな』って納得するしかないよね」


 ナミの言うことは、同じ女子として、わからなくもないけど、そこまで、『女子マネージャー』という存在を嫌悪する理由は、なんなんだろう?

 女子マネに彼氏を取られたとか、気にしてる男子が好みのタイプに「女子マネみたいな女の子」って答えたとか?

 そんな想像を巡らせていると、ナミが、少しイラ立ちながら、声をあげる。


「あ〜、もうっ! ウチも、そんなことはわかってるって!」


 その声の大きさに驚いたリコとわたしが、ナミの顔を見つめると、彼女は、そのまま言葉を続けた。


「ウチが言いたいのは、女子マネの気持ちがわからない自分でも、いまのあのコたちの気持ちは理解わかるってこと! 自分がイイ感じに雰囲気作ってるところに、赤の他人の女子がヅカヅカ入ってきて、部員の見た目とか、服装に口を出ししてみ? 『なに勝手に、アタシらの荒らしてんの』ってなるじゃん?」


(いやいや、『アタシらの』て、ヤ○ザとか不良マンガの世界じゃないんだから……)


 なんて、心の中でツッコミを入れながら、ナミに相槌を打つ。


「そっか……たしかに、ナミの言うとおりだわ。女子マネージャーが居る部活は、後回しにして、女子が近寄って来ないようなクラブを見て回ろう」


 自分でも、なかなか酷いことを言うな、と自覚しながら、わたしは、次の方針をふたりに告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る