第1章〜元カレを見返すためにクラスの三軍男子をスパダリに育てることにします〜⑦
9月26日 PM 0:30
「いや〜、あんなことがあったから、今日はもう学校には来ないと思ってたよ! ネット上でも、すっかり有名人になっちゃったのに……元気そうで良かった! アヤ、意外と図太いじゃん」
週明けのお昼休み――――――。
教室で、ランチのお弁当を囲みながら、わたしは、親友の二人に、週末の間に考えた『計画』について、話すことにしたんだけど……。
話し始めようとした途端、その友人のひとり、
「うっさい! トゥイッターで、絡んで来る見覚えのないアカウントを、ひとつひとつブロックしていくのが、どれだけ大変だったと思ってんの?」
かすかに睨むような表情で、無遠慮な友人にクギを刺す。
いつでも、気兼ねなく、打ち解けた雰囲気で話せるのが、ナミの良いところだけど、少し前に流行った『
それでも、リコと同じく中等部からの親友である彼女は、わたしの視線など気にするようすもなく、会話を続ける。
「でも、こうして、ウチらに話すことがあるってことは、いまの状況をひっくり返するための計画をなにか考えてきたんでしょ? いいよ! ウチにできることがあれば、協力させてもらうから、ナンでも言って!」
いつも、余計なことをいうことの多いナミだけど、こうして、察しが良く、話しをスムーズに進めることができるのは、彼女の良いところだ。
ナミの一言に、隣でわたしたちのようすを観察していたリコも、ウンウン、と力強くうなずいている。
そんな友人たちのことを心強く感じながら、「ありがとう、ふたりとも! 助かる」と、返答したわたしは、
「まずは、コレを見てくれない?」
と、スマホに保存していた、いくつかの画像をふたりに見せる。
「これは……亜矢と知り合った頃のハルカ君?」
画像を確認したリコが、確認するように問いかける。
つづけて、ナミも、こちらをうかがいながら、
「まさか、アヤ……まだ、アイツに未練があるって……」
と、言葉にしつつ、わたしの澄ました表情を見て納得したのか、
「そういうわけじゃ、なさそうだね」
と、安心したように苦笑いを浮かべる。
「まぁ、一方的に別れを告げてきたのに、あっちの方の評価は、ほとんどノーダメなってことには、かなりイラッと来てるけど……いまは、そのことは、どうでも良い。それより、一年前のこのヒトを見てどう思う?」
ここ二日ほどのネット上での
「う〜ん、なんて言うか……」
「あ〜! この明らかに、中二病をこじらせてる感じ、懐かしい〜。たしかに、ウチらが初めてハルカを知った頃は、こんな感じだったよね〜」
わたしの問いに、リコは答えづらそうに苦笑し、ナミは懐かしそうな表情でキッパリと答える。
ふたりに見てもらったいくつかの画像は、わたしが知り合った頃、《歌い手》のハルカとして人気を得る前の鳴尾はるかのスナップ写真だ。
そこには、
・アメリカの野球チームのロゴが入りキャップ
・グレーのパーカー
・黒いア○マーニのTシャツ
・ドル○バのベルト
・ディッキーズのボトムス
・ナ○キの真っ白なスニーカー
などのアイテムをまとった彼の姿があった。
最近では、人気のある歌い手のご多分に漏れず、アニメーションを基調とした歌唱動画が多いハルカだけど、わたしたちが彼と知り合った初期の頃は、こんな全身コーデで顔出し歌唱を披露していた。
「そうそう! 最初のこのイメージのときに、『歌声と服装が合ってね〜!』って、笑いながら見てたんだっけ?」
ナミは、手を叩きながら、「ウケる〜」と、口を開けて笑っている。
数日前までなら、
(自慢の彼氏に、なんてことを言うんだ!)
と彼女の無神経ぶりに怒りを感じていたところだと思うけど、いまは、
(そうだ、もっと言ってやれ!)
という気持ちになっているのだから、人間の感情とは不思議なモノだ。
一方、リコは真剣な表情で、
「でも、ここから亜矢が、彼に色々とアドバイスをして、だんだん、センスが良くなっていったんだよね……」
と、思い出すようにつぶやく。
「ありがとう、リコ! そういう風に言ってもらえると嬉しい!」
持つべきモノは、やっぱり親友だ。リコは、 いつものように、こちらが望む百点満点の言葉を返してくれる。
わたしの言葉に、「えへへ……」と、可愛くはにかむ友人を微笑ましく眺めつつ、
「とにかく、これが、わたしの強みになるってことを、あらためて自覚できたんだ!」
と、ナミとリコに向かって宣言する。
「ナニ? どゆこと?」
少し話しを進めすぎたせいか、普段、察しの良いナミも、さすがに疑問を感じているようだ。
「つまりね、今度は、最初から、ビフォア・アフターの変化の過程を楽しんでもらうの」
ナミと同じく、不思議そうな表情のリコにも、わかりやすく説明する。
「ファッションセンスの面からも女子に注目されている彼を、いまさら、『アイツのことは、ワシが育てた』って、野球だかサッカーだかの監督が言ったように、宣言しても痛いオンナ扱いされるだけ……でも、もし、彼のコーディネートをプロデュースしたときのように、冴えない男子を『スパダリ』や『王子系』にプロデュースできたら? 『
我ながら素晴らしいアイデアが浮かんだことに、思わず、「フフン」とドヤ顔を決めたくなるような瞬間だったけど、自信たっぷりのわたしの宣言に対して、親友のふたりは、キョトンとした表情を浮かべたままだった。
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