第1章〜元カレを見返すためにクラスの三軍男子をスパダリに育てることにします〜⑥
心配するリコに、
「ごめん! ちょっと着信! あとで、掛け直す」
と、答えて、通話アプリでの会話を終了したわたしは、いつもはありがたく感じる、彼女からの突然の連絡に、ただならぬ空気を感じながら、受話ボタンをスライドさせて、つとめて明るい声で、応じる。
「
「おはよう、亜矢ちゃん。休日なのに、朝早くからゴメンね〜」
「いえ! 古都乃さんこそ、お休みの日に、朝から連絡してくれて、ありがとうございます!」
「あ〜、いいのいいの! こっちは、学生さんやお役所と違って、土日の休みなんて、無いようなモノだから……」
いつもどおり、朗らかな調子で話す古都乃さんの語り口に、一瞬、安心しかけたが、彼女が優しく語りかけてくれたのは、ここまでだった。
わたしの言葉を待たず、古都乃さんは、会話を続ける。
「それより、見たわよ〜。昨日のライブ配信。ずい分と、張り切っていたじゃない? 若いってイイわ〜。羨ましい! 私にも、そのエネルギーをわけてほしいくらい」
明るい口調で発せられた、その言葉は、しかし、鋭いナイフのように、わたしの心を突き刺した。
ズキリ――――――。
と、心臓に衝撃を感じ、同時に胃がシクシクと泣くように痛みだす。
「いや、そんな古都乃さんに、わけられるモノなんて……」
曖昧な表情を浮かべたまま、自分でもナニを言っているのか、わからない言葉で応じると、電話の向こうの相手の口調は、急に事務的なモノに変化した。
「もう自分でも確認してると思うけど、SNSでも、かなり話題になってるみたいね?」
さっきまでの明るい語り口との落差からか、それとも、精神的に追いつめられている自分自身の心理状態がそう感じさせているのかはわからないけど、冷淡に聞こえる古都乃さんの言葉に、わたしは、
「はい……」
と、短く答えることしかできない。
そんなわたしに向かって、企業担当者は、最後通牒とも言える言葉を告げた。
「とにかく、ああいう配信があって、こういう状況になった以上、私たちも社会的立場を考慮して、あなたとの契約を見直さないといけないわ。そうそう、あなたも、知ってるでしょ、近くの高校に転入した
「そんな! 古都乃さん、困ります! いま、契約打ち切りなんて……高等部を卒業して、大学に進学したら、学費だって払わないといけないのに――――――」
悲痛な声で決定の見直しを懇願するわたしに、彼女は淡々とした口ぶりで返答する。
「まあ、自慢の彼氏クンに投げつけたのが、提供した商品じゃなかったことだけは、感謝するわ」
そう言って、深くため息をついたあと、古都乃さんは、
「ともかく……こちらの決定は、月曜日に伝えさせてもらうわ――――――あと、おかげで、週末も業務がタップリたまって、電話には出られないと思うから、私に連絡するのは、勘弁してね」
と、一方的に告げると、「それじゃ……」と言って、電話を切ってしまった。
そして、わたしは、ぼう然としたまま、終話を告げる、プ、プ、プ……と、いう無機質な音を耳にして、途方に暮れるしかなかった。
※
古都乃さんとの通話が終わったあと、ショックのあまり、わたしは、しばらくの間、放心状態で、あお向けのままベッドに横たわっていた。
ライブ配信をしていた動画は、すぐに削除したので、なにも問題はないと思っていたけど、どうやら、考えが甘かったようだ。
(まさか、こんなにヤバいことになるなんて――――――)
SNSを活用して情報を発信し、さらに、ビジネスとして見返りまで得ているにもかかわらず、わたしは、これまで、ネット上の炎上事件をどこか他人事のように考えていた。
無断で、わたしのライブ動画を拡散させた人間を許すことはできないけど、自らの行いが招いた結果である異常、その原因になった自分の行為は反省しないといけない。
そこまで考えると、古都乃さんと通話する前に、わたし以上にショックを受けていたリコのことを思い出す。
スマホカメラで撮影係を担当してくれていた友人は、当事者の自分でも気の毒に感じるくらい、その責任を重く受け止めているようだった。
自分のチカラではどうすることもできない、現在進行中のネット上の情報拡散については置いておくとして、リコの心の負担を取り除くためには、彼女ともう一度、話しをしておかないと――――――。
そう考えたわたしは、すぐに、リコに連絡を取り、古都乃さんと交わした会話の内容を伝えることにした。
ただし、口頭で伝えられた契約に関する内容は、正式な内容は週明けに文書で伝えられると話し、古都乃さんが、鳴尾はるかに投げつけたものが、
「提供した商品じゃなかったことだけは、感謝する」
と、語っていたことを正確に伝える。
昨日のサプライズ企画を計画しているときに、奥ゆかしい性格のわたしは、先に企業から提供されたマフラーをプレゼントし、あとから、おまけとして手作りキャンディーを手渡そうと考えていた。
すると、わたしの考えを聞いたリコが、
「せっかく、亜矢が、ハルカ君のことを想って作ったキャンディーなんだから、先に渡したほうがイイよ!」
と、アドバイスをくれたのだ。
不幸中の幸い、というか、もしも、あのとき、手にしていたモノが、有名ブランド提供のマフラー(カシミア100%)だったら――――――。
冷静さを失っていたわたしが、彼に投げつけていたのは、そのブランド物だっただろう。
もし、そうなっていたら、提供した商品をぞんざいに扱う人物として、案件を持ちかけてくれる会社なんて、二度とあらわれないことは、想像するまでもない。
とにかく、最低な展開に陥ったいまの状態でも、リコのおかげで、最悪の状況だけは免れたことと、彼女への感謝の気持ちをLANEでの通話で伝えると、親友は、
「ありがとう、亜矢」
と、涙混じりの声で、何度も感謝の言葉を口にしていた。
そうして、わたしは、これからの挽回策を熟考する。
信じていた相手から『婚約破棄』を言い渡され、ドン底の状態に陥った異世界恋愛の主人公たちなら、この状況から、明るく、健気に、前向きに、人生を好転させる方法を考えるハズだ。
同世代のインフルエンサーとして、そして、《歌い手》のハルカのヴィジュアル面を(陰から)プロデュースした人間として、自分にできることは、なんなのか――――――?
中学受験に挑んだとき以来、いやそれ以上に、脳細胞をフル回転させて、わたしは、『
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