第1章〜元カレを見返すためにクラスの三軍男子をスパダリに育てることにします〜④
9月23日 AM 8:00
ネット・スターの悲劇〜
これまで生きてきた十八年の人生の中でも、三本の指に入る最悪な出来事が起きた翌日――――――。
どん底の気分のまま、目が覚めたわたしは、そのまま自室のベッドで、これまでのことを振り返っていた。
この一年の間、《歌い手》として同世代の心をつかみ、動画の再生数を伸ばしている(自慢の彼氏
そう考えたわたしは、誕生日前日にサプライズ企画として、のどをケアするための手作りキャンディーと、この秋から新しく商品を提供してくれることになったブランドの秋物のマフラー(カシミア100%)を手渡すライブ動画を配信するため、親友のナミとリコに協力してもらい、彼の部屋を訪ねたけれど……。
まさか、そこに、見知らぬ女子が居座っていて、その場で、交際を破棄する宣言をされるとは予想もできなかった。
しかも、運の悪いことに――――――。
わたしたちが、彼の部屋に入ってその場に居た二人と遭遇し、怒りにまかせて手作りのはちみつ柚子キャンディーを投げつける場面は、その一部始終がライブ配信され、ネット上に流れてしまった。
同世代向けのプチプラ・メイク術から地道にスタートし、高等部の進学から二年半で九十万人までフォロワーを増やすことができた《ミンスタグラマー》としては、ありえない失態だ……。
この失敗をどうやって、挽回しよう――――――?
昨日の夜から、そのことばかりを考えていたが、一晩たって目覚めると、ようやく、頭の中を整理して考えることができるようになってきた。
「ボクは、
彼が放った言葉が、いまも頭に残っている。
(本当の愛って、なんなんだろう――――――?)
そういえば、あの修羅場の場面でも、少しだけ頭をかすめたけど、《異世界恋愛物語》の婚約破棄の場面で、多くの主人公たちは、冷静にその場をあとにしようとしていた。
いくつか読んだ物語の中では、わたしのように、キレてモノを投げつけたり、相手に食って掛かるような姿を見せる人物はいなかったように思う。
彼女たちは、悲しみのあまり取り乱してもおかしくない場面に遭遇しても、落ち着いて過去の自分や相手の言動を振り返り、
(いつかは、こうなると思っていだけど……)
と、冷静に自分の置かれた状況を分析することが多かったように感じる。
そこで、わたしも、彼と自分のこれまでの関係を、なるべく客観的に振り返ってみることにした。
《歌い手》のハルカとして活動中の鳴尾はるか君と知り合ったのは、去年の春だった――――――。
それは、日課の作業のように、スマホでショート動画をチェックしていた時のこと。
高校を卒業して、本格的に歌唱動画をアップロードしはじめた彼が、自己紹介の動画の中で好物として、近所の有名ケーキ店や日本では珍しいデザートのフルコースを提供するお店のこだわりスイーツを紹介しているのを発見し、わたしの自宅と比較的近くに住んでいることに気づいたので、彼のミンスタグラムにコメントを付けたのが始まりだった。
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aya_kawaragi
はじめまして! いつも素敵な歌声を聞かせてもらって幸せな気分になっています。
ハルカ君が、動画で紹介しているお店のケーキやスイーツ、わたしも大好きだよ。
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簡単なコメントを書き込みで始まった自分たちの交流は、すぐにDMでのメッセージ交換に移り、その頃、すでに五十万以上のフォロワーを抱えていたわたしと、『歌ってみた』のショート動画を次々にアップロードしていた彼は、お互いのストーリーズ動画などに、メッセージを送り合う仲になった。
そして、去年の彼の誕生日の翌日、彼から交際を申し込まれ、わたしたちは付き合うことになったんだけど……。
ただ、こうして、あらためて、これまでのことを思い返してみると、自分でも、意外なほど落ち着いて、ふたりの関係を振り返ることができていることに驚く。
(もっと、悲しい気持ちが押し寄せて来るのかと思ってたけど……)
そう感じた原因のひとつは、SNSの書き込みや動画をさかのぼってみたときの、過去のハルカ君の垢抜けなさだ。
わたしと付き合う前の彼のファッションと言えば、
・アメリカの野球チームのロゴが入ったニューエラ・キャップ
・グレーの無地のパーカー
・無駄にピチピチで黒いア○マーニのTシャツ
・ドルチェ&ガッ○ーナのベルト
・チノパンもしくはディッキーズのボトムス
・アディ○スもしくはナ○キの真っ白なスニーカー
という全身コーデで、なんというか、いかにも、高校生まで中二病をこじらせた男子が身にまといそうなファッションだった。
(ミュージシャンでも、ラップ系の音楽を披露するタイプなら、それでも止めはしないけど……)
せっかく、繊細な歌声で女子に人気の出る素材を持っているのに、こんなコーデでは、動画の受けも良くないだろう――――――と、交際を始める前後から、わたしは、彼に対して徐々に全身のトータル・コーディネートのアドバイスを始めたのだ。
あまり自画自賛をするのは誉められたことではないかも知れないけれど、その頃から、《歌い手》ハルカの動画の再生数は飛躍的に伸びて行き、コメント欄にも
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最近のハルカ君、オシャレになってない?
この帽子って、あのブランドのだよね?
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と、ファッションセンスに言及する書き込みが、目に見えて増えて行った。
さらに、今年の春に、彼が『注目の歌い手』として、WEBメディアで取り上げられ、
「ミンスタグラムで見せるオフショットのファッションにも注目!」
という紹介記事が掲載されたときには、盛り上がるナミとリコを前にして、
「わたしがプロデュースしているんだもの! 当然ね」
と、澄まし顔で答えたのを思い出す。
ただ、そうしたわたしの陰の努力は、彼の心には響かなかったようだ。
「
二歳年上の彼が口にした言葉をもう一度つぶやき、ベッドに仰向けになりながら自室の天井を眺めていると、友人のリコから、LANEのメッセージが届いた。
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