第1章〜元カレを見返すためにクラスの三軍男子をスパダリに育てることにします〜②
9月22日 AM7:45
三軍男子の憂鬱〜
♪ あぁ 愛っていうのは 自分本位なんかじゃなくて
♪ きっと 自分より大切な存在を想うこと
♪ もしも キミとボクが あのドラマのように惹かれあうなら
♪ ドラマティックなキスをしようと告げられるのに
通学途上の電車の車内ーーーーーー。
ドア付近で壁に寄りかかりながら、まどろむ男子高校生の耳に、かすかな音で耳障りな歌詞が聞こえてくる。
彼が薄く目を開け、視線をやや下げると、目をつむりながら、スマホで再生した音楽を聞き入っている女子中学生の姿があった。
「
車内での迷惑行為を省みない妹に注意をうながすが、よほど、熱心に聞き入っているのか、彼の言葉は、届かないようである。
ため息をひとつつき、自分と同じようにドアに寄りかかっている妹の注意を引くように、コツコツと爪でドアのガラス部分を軽くノックする。
すると、スマホの画面の停止ボタンをタップしたのか、音楽の再生を止めた
「なに!? お
と、うっとうしそうな表情で返答してきた。
しつけのなっていない生意気な妹に負けじと、彼も、けだるそうな表情で言い返す。
「なに!? じゃない! 音漏れ……」
「え〜? そんなに大きな音で聞いてないよ! それに、近くに、お
この妹の言うように、彼らが利用している沿線最大の乗り換え駅から、下り方面に向かう列車の車内は、通勤通学の時間帯にあたるこの時間としては、さほど乗客が多いわけではなく、
「そのオレの耳に入ってきてるって言ってるんだ。
「アン!? 耳障りって言った? ハルカ君の素敵な歌詞が理解できないとか、お
「その歌詞が理解できなくて人生やりなおす必要があるなら、ノコノコで
「ハァ!? ノコノコ? 無限アップ? なに言ってんの? 意味わかんない」
そう言って妹は、再びワイヤレスイヤホンを耳に装着すると、彼と距離を取り、周囲に気を配りながら、再生を開始したようだ。
楽曲に限らず、映画などの映像作品についても、まだまだ見識の浅い妹には申し訳ないが、『自分本位』と『自分』、『ドラマのように』と『ドラマティック』など、同じ意味の言葉がたて続けに繰り返される歌詞に違和感を覚えない、という方があり得ない。
(作詞担当のハルカ君とやらは、国語の授業をやり直した方がイイんじゃないか?)
彼は、そんなことを考えつつ、耳障りな音が聞こえなくなったことに安堵し、オレは、こちらの発言意図を理解できなかった妹の愚かさにため息をつく。
アニメーション映画として世界最高の興行収入を記録している超メジャーなゲームを例に出したにもかかわらず、それを認識できないとは、知的水準に開きがあると、会話を成立させるのは難しい。
心のなかで若年者とのコミュニケーションの壁の存在を嘆いていると、ちょうど、最寄り駅に到着した電車を降り、ふたり並んで駅舎の二階にある改札口を抜ける。
高校生にもなって、中学生の妹と一緒に通学しなければならないことに不満を感じないではないが、小学生の頃に、ジュニアモデルをしていた彼の妹は、人目を引くところが大いにあるため、登下校時の娘の身を案じる父親の気持ちを考えると、無下に断れないと考え、高校三年生のいまに至っている。
そんなことを思い返しながら、駅舎の二階から、通学路に降りると、ワイヤレスイヤホンを外してケースに片付け終えた
「お
「変人じゃない! 『ク◯』と思うモノを『ク◯』と言ってるだけだ」
「ほら、そういうところだって言ってんの!
「どこの世界か、あるいは、どの世代の常識かは知らんが、そんな常識は、滅んでしまえ。批評の無い世界には、進歩や発展もないぞ!?」
彼女の反論を論破しようとしたにもかかわらず、勝ち気な妹は、
「ハァ〜〜〜〜」
と、深くため息をついて、
「屁理屈ばっかり言って、ハルカ君の人気に嫉妬してるだけじゃん……」
などと反論したあと、憐れむような、そして、悲しみをたたえた表情で、肩を落とした。
「あのね、お
対人関係のことで、妹に心配されるというシチュエーションについて、彼は、結束バンドのギター担当にシンパシーを感じつつ、軽く凹んでいると、背中にバン! という衝撃を感じた。
また、いつものことか……と、彼が振り向くと
「
と、声を掛けてくる見知った男子生徒の姿があった。
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