第20話【進むべき先】


「凄い…!」


コルアが感嘆の声を上げる。


巨大な本棚が数多並び、中央には立派なテーブルやソファーが置かれた広い部屋。

外観のみすぼらしさとは裏腹に、図書館の中はまるで豪邸のような絢爛豪華じゅんらんごうかな家具や装飾で彩られていた。


せっせとトラックに積まれている本を図書館へと運び込んでいた昌也達は、玄関へ入るなり開いた口が塞がらなかった。


「ヒスタって、本当に金持ちだったんだな…」


「お金は全然ありませんけどね。どれだけ貧しくても、図書館のものだけは売らないでと母から言われてたので…」


「そっか…」


昌也とヒスタが会話していると、後から本を抱えて入ってきた康が立ち往生する。


「これってどこに置けばいいかな?」


「とりあえず本棚の前にお願いします」


言われた通り、抱えている本の山をドサッと棚の前に置く昌也達。

自分達の本を全部あげるのはいいが、置き場所はあるのだろうかと心配になるくらい、既にあらゆる棚は本で埋め尽くされていた。


「このソファーふかふかですよ!」


コルアがゴージャスなソファーに座って楽しそうにお尻を弾ませる仕草を見て、昌也もノロノロと別の椅子にもたれ掛かる。


「俺もちょっと休ませてくれ…」


「まだ体が辛いですか?」


「さすがに死にかけたからな…」


フーッと一息つく昌也に対して、ヒスタは申し訳なさげに「ごめんなさい」と謝る。


「別にお前のせいじゃないだろ、むしろ助けてくれたんだから。…それにしても、何で虫が大量発生したんだろうな」


「魔族の仕業だったのよ」とエリエスがテーブルの上で、水の入った大きめのティーカップに浸かりながら言う。

貴族が使っていそうな綺麗なカップの中で蛙がくつろいでいる様は違和感しかないが、快適そうなエリエスに何も言えず、そこは皆触れずに見過ごした。


「魔族の仕業?なんでそんなこと解るんだ?」


康達は、昌也とコルアに丘の上で起こった経緯を説明した。


魔族の男に襲われたこと。

エリエスがそれを撃退したこと。

ヒスタが薬草をかき集めてくれたこと。


ずっと広場で生死の境をさ迷っていた昌也と、付き添っていたコルアにとっては寝耳に水の出来事であるため、二人は唖然とした態度でその話に聞き入った。


「そんなことがあったなんて…」


「それにしても、何で魔族がこの町を襲ったんだ?」


昌也のもっともな問いかけに皆が首を傾げる中、エリエスだけが深刻な表情で推測を立てる。


「…もしかしたら、人間と戦争を始めるつもりなのかも」


「戦争っ!?」


何の前触れもなく飛び出した物騒な単語に、一同は恐れおののく。


「騎士団と魔族の小競り合いが最近増えてるとは聞いてますが、さすがに戦争だなんて…」


ヒスタが信じられないといった風に疑問をぶつける。


「それに仮にそうだとして、どうして王都ではなくこんな田舎町を狙うんですか?」


「この町は交易が盛んで、世界中に食料を届けてる。まず最初に敵の補給路を断つのは、戦争ではよくある手口よ」


「なるほど…」


言われてみれば確かに納得してしまう。

世界の食料庫としての役割を担う割には警備も手薄で、兵士などろくに居ないこの町を真っ先に狙うのは理にかなっている。


「じゃあ本当に戦争が始まるのかな…」


不安げに縮こまるコルア。

皆も黙り込んで暗い空気が流れたが、昌也が手をパンッと叩いてそんな気分をリセットした。


「ま、心配したってしょうがないだろ。俺らは俺らの旅を続けるだけだ」


陽気に笑う昌也を見て、康も顔を上げる。


「そうだね。とにかく今はカト……何て街だったっけ?」


「カトリシア」


目的地の名前を忘れた康に、すかさずエリエスが答える。


「そうそう、カトリシアね。そこに行くことだけを考えようか」


「カトリシア!?そんな遠くまで行くんですか?」


ヒスタがテーブルに両手をつき、大袈裟に驚く。

以前コルアも同じような反応をしていたが、そのカトリシアという場所はそんなに遠いものなのかと、康は少し心配になった。


「うん、そのつもりなんだけど…」


「あそこに着くまでには沢山の危険がありますけど、どういったルートを通るんですか?」


「いや、ぼくはルートとかあんまり詳しくなくて…。コルアちゃん分かる?」


康から話題を振られ、コルアは気まずそうに視線を泳がせる。


「…実は、自分も行ったことないからよく知らないんです」


「そうなの!?じゃあエリエスは?」


「ごめんなさい、私も泉に隠れ棲んでた時期が長すぎて、外のことはさっぱり…」


これからも旅を続けるにも関わらず、誰も目的地までの行き方が解らない。

これといった解決策を見出だせず、皆が皆オロオロする有り様を目の当たりにしてヒスタは軽い眩暈めまいを覚えた。


「…呆れた。お金が無い上に地図も持って無いんですか!?」


目を逸らしながらコクリと頷く一同。

そんな反応も予想していたのか、ヒスタは溜め息を一つ吐くとゴソゴソと部屋の隅に積み上げられた木箱を漁り始めた。


「ちょっと待ってください。確かこの辺に…」


やがてヒスタは大きめの巻物のようなものを取り出すと、皆が囲うテーブルの上に広げて見せた。

一体何なのかと、興味津々な眼差しで見つめる昌也達。


それは一面に地形らしき絵や説明文がビッシリと書き込まれた羊皮紙であった。


「これって…もしかして地図か?」


「はい。昔ヘイゼルという名の竜騎士がドラゴンに乗って世界中を飛び回り、完成させたと言われる貴重な地図です」


「ドラゴンで飛んだ!?」


あんな獰猛な生き物を手懐けるなど、そんなこと人間にできるのだろうか。

かつてドラゴンに襲われた経験のある昌也と康は信じられないといった風に目を合わせる。


「でも確かに、凄く精巧ですよ。…あ、ほら!ここにリノルアの村もある!」


コルアが指差した先にはリノルアと書かれた小さな印。

そしてそこからやや北に進んだところにはラノウメルンの町も描かれている。

自分達がリノルアの村を出てからこの町へ到達するまでの進行方向を当てはめてみると、確かに内容の正確さが窺い知れた。


「ここがカトリシアです」


ヒスタが示した場所は、現在いるラノウメルンから町を7つ以上越えた先であった。

ざっと見ただけで1000キロ以上はありそうな距離である。

確かに歩いて行けば途方もない遠さではあるが、こちらにはガソリン無限のトラックがあるため、何とかなるだろうという楽観が生まれる。


「確かに遠いけど、トラックがあれば大丈夫だよきっと」


しかし康の希望をヒスタは打ち砕く。


「甘いですね。ルートによっては険しい山や谷に阻まれてたり、広大な森に支配されていたりするので、おそらくトラックでは越えることができません」


「そうなの!?」


「だからもしトラックで向かうなら、このルートを進むべきです」


地図上の町や道をグネグネと指で不規則になぞりながら、カトリシアへ向けてのルートを示すヒスタ。

それは思った以上に蛇行や回り道の多い、大変な道のりになることを意味していた。


「なるほど…」


教えてもらったルートを忘れないよう頭に叩き込む康。

だが何日も運転しながら覚えている自信など正直なかった。

何度も地理を目で追うが、途中でヒスタが地図を閉じたことに思わず「あっ!」と声が出そうになる。

ヒスタはそんな康の不安を見透かし、閉じた地図をそっと彼に手渡した。


「…本を頂いたお礼に、これをあげます。さすがに地図無しで旅は無謀ですから」


「え、ほんとにいいの!?」


「私にはお金もないから、これくらいしか助けになれないですけど…」


「十分だよ!むしろお金より嬉しい。ありがとう、これでカトリシアまで行ける!」


思わぬ形で地図を手に入れることができ、康は喜びを爆発させる。

これで旅の途中、道に迷うこともないなと昌也達も一安心した。


「じゃあそろそろ出発するか。いつまでもここに居るわけにはいかねーし」


「えー!もうちょっと休みましょうよ」


「そんなこと言ってたらいつまで経っても旅が終わんねーぞ」


昌也は立ちあがり、名残惜しそうにソファーの感触を堪能するコルアの腕を引っ張る。

エリエスもティーカップが気に入ったのか、出た後にしばらく見つめているとヒスタがそれを持ち上げた。


「エリエス、これはあなたに」


「え…いいの?」


「私の心からのお礼です」


意味深な瞳でカップを差し出すヒスタ。


エリエスが傍で寄り添ってくれたおかげで、ずっと抱えていた心の重荷や迷いを断ち切ることができた。

できればこれからも相談に乗ってもらったり交流を深めたいところだが、残念ながら今日でお別れだ。

だから、たかがティーカップではあるが、これは単なる感謝の贈り物以上に友情の証としても受け取ってほしかった。


そんなヒスタの想いを察し、エリエスは丁重にそれを受け取る。


「ありがとう。大事にするわ」


微笑み合う二人の姿を見て、コルアがソファーにしがみつきながら叫ぶ。


「ソファーも!このソファーもください!!」


「そんなの乗せたら他に何も入らなくなるだろ!」


「でもでも…こんなにふかふかなんですよ!?」


「諦めろ」


「うう……」


感動のお別れが台無しである。

渋々ソファーから手を離し、コルアは昌也に引きずられて外まで連れていかれた。


苦笑いを浮かべてヒスタとエリエス、康も外に出る。




玄関から出た一行は、図書館の外に町の人々が数人たむろしているのに気付いた。

ヒスタ達が出てくるなり、住人を代表して自警団の男が歩み寄ってくる。


「何かあったんですか?」


仰々しい様子を不思議に思ったヒスタが一歩前へ出ると、男の口から出たのは他でもない感謝の言葉であった。


「君達のおかげで誰も死なずに済んだ。町の人達を代表してお礼を言うよ」


深々とお辞儀をする男に、昌也が問いかける。


「もうみんな元気になったのか?」


「ああ、君が勇気を出してルコの実を食べてくれたおかげで、みんなを説得することができた。ありがとう」


「礼ならヒスタに言ってくれ。全部あいつのおかげなんだから」


それを聞いた男はゴソゴソとふところから茶色い袋を取り出し、ヒスタに向かって差し出した。

ズシリと重みがあり、ジャラジャラと金属の擦れるような音がする。

中を覗くと、金貨や銀貨が何十枚も詰まっていた。


「…今はこれしか用意できなかったが、時間はかかっても必ず町の皆で1億カロン払うから、受け取ってくれ」


「………」


あの時は弱味につけ込んで無茶な要求をしてしまったが、まさか本気で払ってくれるとは思わなかった。

ヒスタは躊躇いがちにそれを持ち上げると、昌也達の方を向く。


かつては貧乏を恨み、あれほど執着していたお金も、彼らと出会い様々な影響を受けた今となっては違って見えた。

少し考えた後、ヒスタは大金の詰まった袋を男に返すことにした。


「…やっぱりお金はいいです。それよりもこのお金を怪我人の治療の為に使ってください」


「な……本当にそれでいいのか!?」


「はい」


ヒスタの決断に男は驚き、一方で康やコルア、エリエスは頬を緩ませ、自然と笑みがこぼれた。


「…なんだ、俺らにくれるんじゃないのか」


空気を読まず下卑げひた呟きをする昌也を、康が「こらこら」と肘で小突く。


その場にいた全員が、以前とは別人のようになったヒスタに感服し、尊敬の念すら抱いていた。


「…じゃあぼくらも出発しようか」


話もまとまったところで康がトラックに乗り込もうとしたその時。


「おーい、ちょっと待ってくれ!」と突然住民の一人が話し掛けてきた。


灰色の大きな帽子を被り、無精髭ぶしょうひげを生やした男である。

見知らぬ人物の登場に、昌也達も何事かと集まってくる。


「あんた達、もしかして運び屋か?」


どうやらトラックを見て馬車か何かだと思ったのだろう。

男からそんな質問を投げ掛けられた。


「まあ…もともと運び屋みたいなことはしてましたけど、今はみんなで旅をしてるだけです」


康が苦笑いを浮かべると、男は続けざまにとんでもない交渉を持ちかけてきた。


「俺はこの町の運び屋なんだが、馬が虫のせいで死んじまってよ…。代わりに荷物を運んじゃくれないか?」


「ええ!?」


「もちろん代金は払う。これは前金の1万カロンだ」


まだ返事もしてないというのに、戸惑う康に対して強引にお金を掴ませる男。


「ちょ…困ります!」


「うちの信用にも関わるし、何よりこの作物を届けないと、よその町で食料不足が起こっちまう!」


「いきなりそんなこと言われても…」


ほとほと困り果てて返答に詰まる康の肩を、後ろから昌也がポンと叩く。


「いいじゃん、引き受けよーぜ。どうせ色んな町に立ち寄るし、ついでに荷物を届けるだけでお金が貰えるんだから」


「いや、でも契約とか責任とか…」


「大丈夫だって!食料不足を防ぐための人助けだと思って」


「う~ん…」


昌也と康のやり取りを見てこれはイケると思ったのか、男が駄目押しで土下座をする。


「この通りだ!」


無駄に声を張り上げ、ちゃっかり町の人達の注意も引き付ける。

わらわらと集まってきた周囲からの視線に堪えかねた康は「分かった分かった!」と、折れてしまった。


康から肯定を引き出すや否や、男は凄まじい早さで荷車を取って来ると、止める間もなく荷物の全てをトラックへと詰め込んだ。

大量の本が無くなってすっきりしていた荷台が、食料品や衣料品などが詰まった木箱で再び埋め尽くされる。


「じゃ、頼んだぞ!」


(早っ…!)


人間離れした早業に昌也達は言葉を失う。

必死な人間というのは、ここまで素早く動けるものなのか。


「詳細はここに書き込んどいたから、なるべく早く届けてくれな!」


「は、はあ…」


男から小さなメモ用紙を渡され、康はたじたじとそれを受け取った。


メモを開くと、"食料 アルマーナ"、"衣類 キッコル"と上の方に大きく書かれており、その下にはさらに細かい品物の振り分けなどが見てとれた。


「アルマーナとキッコル…。確かここから比較的近い町ですね。ヒスタが教えてくれたルートからは外れますけど…」


メモを覗き込んだコルアがボソッと呟く。

康はヒスタから貰った地図を早速開いてみる。


「距離的にはキッコルが近いけど、食べ物が傷んじゃうから先にアルマーナだね」


康は頭の中でルートをイメージすると、地図を閉じた。

これがなければいきなり迷うところだ。


「…大丈夫ですか?」


一連のやり取りを見ていたヒスタが心配になって話しかけてきたため、康は苦笑しながら地図をポンポンと軽く叩く。


「ヒスタちゃんのくれた地図のおかげで何とかなりそうだよ。本当にありがとう」


康はそう言って右手を前に出した。

出発を前に、最後の挨拶をと思ったのである。

ヒスタは笑顔で手を握り、丁寧に別れの言葉を贈った。


「こちらこそ色々とありがとうございました。あなた方に旅のご加護がありますよう、心から祈っています」


「あとこれを…」と康にティーカップを手渡す。

エリエスへのプレゼントだ。


エリエスは康の肩からヒスタへと跳び乗り、握手ができない代わりに頬にキスをした。


「あなたと逢えて良かった。きっとまた逢いましょう」


「…はい。またいつか」


それだけ言うとエリエスは再び康のもとへ戻り、続けてコルアがヒスタに向かってガバッと抱きついた。

あまりの勢いに倒れそうになるヒスタ。


「お別れなんて寂しいよぉ!」


「別に、また来ればいいだろ…」


いちいち大袈裟なコルアに、呆れ気味の昌也。

コルアが離れると、昌也はヒスタに向かって拳を突き出す。


「色々ありがとな。もしまた魔族が来たら、すぐに駆け付けるよ」


「私も今よりもっと知識を身に付けて、きっとみんなの役に立ってみせます」


ヒスタも強い意気込みを見せて自らの拳をコツンとぶつけてきたため、昌也は「へへっ」と照れ臭そうに笑った。


一通り別れを済まし、トラックへと乗り込む一行。

出発を前にして、町の人達も各々が感謝の言葉を投げかけてくれた。

全ては聞き取れないものの、その笑顔と温かな雰囲気だけはしっかりと伝わってくる。


「じゃあ次はアルマーナに向けてレッツゴーです!」


コルアが拳を突き上げると同時に、トラックが走り出す。


徐々に遠ざかりながらも、町の人達へ向けて手を振る昌也とコルア。

それに対してラノウメルンの住民もトラックが見えなくなるまで手を振り続け、その旅を後押ししたのだった。






やがてトラックが見えなくなると、自警団の男がヒスタに向かって話しかける。


「…あの人達と出会って、お前は変わったな」


「…そうでしょうか」


ヒスタは背中を向けながらそっけなく答える。


「それよりお金は本当にいいのか?お前だって困ってるんだろう?」


「さっきも言いましたけど、お金は怪我人や町の復興に回してください。あとは警備の強化も必要です。また同じようなことが起こった時に対処できるよう、この町を変えなくちゃいけません」


見えなくなってもトラックの進んだ方角を見据え、しっかりとそう言い放つ背中は小さくも立派で頼もしい。


「頼りにしてるよ。お前は町の頭脳ブレーンだ」


「はい。私が知識でみんなを導きます。そう約束しましたから!」


ヒスタは凛々しい顔で振り向くと、太陽を背に受けながら堂々と答えたのだった。


…彼女は後に"叡智えいちのヒスタ"と呼ばれ、この町の住民はおろか人類の導き手となるが、それはまだ先の話。













…人間の住む町から遥か遠く離れた世界の果て。


そこには全長500m、およそ100階建ての高層ビルに匹敵する程の巨大な植物、世界樹が存在する。

そして世界樹の周囲を守るように作られて要塞化されたのがギルヴヘイムという魔族の住む街だ。


その中心に位置する巨城の中で玉座に腰掛けている男こそ、魔族の王ヴァルガスである。

金の装飾が施された漆黒のコートを身に纏い、高貴ながらも厳かな雰囲気が漂っていた。


魔族といっても眼の色以外は人間とさして変わらず、角が伸びてるわけでも翼が生えてるわけでもない。

しかし寿命は人間よりも遥かに長く500年ほどあり、30代の男の姿に見えるヴァルガスもゆうに300年は生きている。


「ラノウメルン攻略失敗だと?」


銀色の髪の毛を不機嫌そうに掻きながらヴァルガスが呟いた。

冷静ながらも苛立ちが込もっているのが伝わる声色だった。


「…申し訳ございません」


ヴァルガスの前にひざまずいているのは、丘の上で康達を襲ったフードの男。


「"土塊のモア"ともあろう男がしくじるとは…、一体何があった?」


「…ガルマです。あやつの邪魔が入りました」


「!?…ずっと姿をくらましていた奴が何故人間の地に?」


「実は奴は…」



……………。



男から詳細を全て聞かされ、険しい表情を浮かべるヴァルガス。


「…それが本当なら、すべて"奴"の企みというわけか」


「恐らくは…」


厄介なことになったと、ヴァルガスは頭を押さえて大きくため息を吐く。


「…ご苦労だったな。引き続き監視を頼んだぞ」


「かしこまりました」


フードの男は今一度頭を下げると、後ろに下がって闇へと消えた。


「…まさか生きていたとはな」


ヴァルガスは窓の外を向きながら、どこか遠くを見るような目をした。

そんな世界の果ての魔王の憂いは、誰にも届くことがなかった…。






第2章 完

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